29 / 141
唐突にはじまったお付き合い!
8
しおりを挟む
「ちょっと、話はまだ終わってないわよ!」
「これ以上ここにいたら、松尾の体調が悪くなるから失礼する」
ほかにも喚き散らした言葉を無視して、私たちは食堂をあとにした。
佐々木先輩は私の手を握りしめたまま、黙ってどこかに連れて行く。お昼休みも残り時間があと10分少々しかないので、社外に出ないことはわかっていたけれど――。
「佐々木先輩、あの……」
「顔色が少しだけよくなったな、良かった」
食堂から一階だけおりたところにある、自販機コーナーの椅子に座らせると、小銭でなにかを買い、私に手渡してくれる。それは温かいココアだった。
「松尾、意外と度胸あるんだな。実は俺、あのメンツに一斉に睨まれたときに、結構ビビっちゃってさ」
「そんなふうには、全然見えませんでした。むしろ、頼もしさを感じてたくらいで……」
「それ、遠慮しないで飲んでくれ。気持ちが落ち着くと思う」
大きな手が私の頭を撫でる。普段そんなことをされた記憶がないので、妙にドキマギしてしまった。
「いっ、いただきます!」
本当はもっとアルミ缶から温もりを感じ取っていたかったけど、飲むことを促されたので、慌ててリングプルを開けて一口飲み込んだ。火傷しない程度の温かさとココア独特のほのかな甘みが、じわりと体に染みていく。おかげで、全身にぬくもりが満ちていく気がした。
「美味しい……」
思わずココアをぐびぐび飲むと、佐々木先輩は隣に座って笑い声をあげた。
「佐々木先輩、なんですか?」
僅かに接触している、佐々木先輩の片腕と私の片腕。ドギマギがドキドキに変化したせいで、訊ねたセリフがキツくなってしまった。
「松尾ってさ、なんでも美味しそうに飲むなと思って。一緒にビールを飲んだときもそうだったなと、ちゃっかり思い出してた」
「だって、美味しいものは美味しいですし」
「そうだな」
見るからに嬉しそうな表情で、私の顔をを覗き込む佐々木先輩の視線から逃れるべく、俯いてココアの缶をガン見した。そしてこのタイミングで気づいてしまう。
(私ってば、まだお礼を言ってない。梅本さんたちのことについても、いただいてるココアについても!)
「松尾、変顔になってるぞ。気を遣って俺を笑わそうと、必死に頑張ったりするなよ」
ふたたび忍び笑いをし、軽く私に体当たりした佐々木先輩の行動に、困り果てるしかなかった。
「そんなんじゃないです。あの……」
「俺を好きになってくれたとか?」
そのセリフに反応して顔をあげたら、悪戯っぽいまなざしで私を見つめる、佐々木先輩の視線とかち合う。
「違います。そうじゃなくて」
(なんていうか、妙な雰囲気を漂わせていること、佐々木先輩は気づいていないんだろううな)
「そこ、全力で否定するなよ。地味に傷つく」
「あっ、すみません。本当にそういうつもりじゃなくて、あの……」
「そろそろ戻らなきゃいけない時間だな。松尾と一緒にいると、いつもの時間があっという間に過ぎていく」
ペコペコ頭を下げて謝る私を尻目に、腕時計で時間を確認した佐々木先輩。謝り倒す私を、あえて見ないようにしているみたいに感じてしまった。
「松尾、あのさ」
「はい?」
「手、貸してくれないか?」
不思議なお願いに利き手を差し出したら、「左手がほしい」と指定されてしまった。
「……佐々木先輩、私の左手でなにをする気なんですか?」
「松尾が寂しくならないように、左手首にも同じものをつけてあげようと思ったんだ」
あっけらかんと告げられた言葉に、開いた口が塞がらない。
「なななな、なに言ってるんですか。手首のキスの意味をわかってて、またする気なんですか⁉︎」
ぶわっと頬が熱くなる。意味を知ってしまったあとだからこそ、照れずにはいられない。
「あ~、わざわざ意味を調べてくれたんだ。だったらなおさら、左手を寄越してくれ」
余裕そうな笑みを浮かべた佐々木先輩に、私はもちろん左手を渡さず、椅子から立ち上がって後退りしながらココアを一気飲み! すかさず空き缶をゴミ箱にポイして、脱兎の如く逃げた。
結局佐々木先輩にお礼を言わずに、失礼極まりない状況をみずから作ってしまったのだった。
「これ以上ここにいたら、松尾の体調が悪くなるから失礼する」
ほかにも喚き散らした言葉を無視して、私たちは食堂をあとにした。
佐々木先輩は私の手を握りしめたまま、黙ってどこかに連れて行く。お昼休みも残り時間があと10分少々しかないので、社外に出ないことはわかっていたけれど――。
「佐々木先輩、あの……」
「顔色が少しだけよくなったな、良かった」
食堂から一階だけおりたところにある、自販機コーナーの椅子に座らせると、小銭でなにかを買い、私に手渡してくれる。それは温かいココアだった。
「松尾、意外と度胸あるんだな。実は俺、あのメンツに一斉に睨まれたときに、結構ビビっちゃってさ」
「そんなふうには、全然見えませんでした。むしろ、頼もしさを感じてたくらいで……」
「それ、遠慮しないで飲んでくれ。気持ちが落ち着くと思う」
大きな手が私の頭を撫でる。普段そんなことをされた記憶がないので、妙にドキマギしてしまった。
「いっ、いただきます!」
本当はもっとアルミ缶から温もりを感じ取っていたかったけど、飲むことを促されたので、慌ててリングプルを開けて一口飲み込んだ。火傷しない程度の温かさとココア独特のほのかな甘みが、じわりと体に染みていく。おかげで、全身にぬくもりが満ちていく気がした。
「美味しい……」
思わずココアをぐびぐび飲むと、佐々木先輩は隣に座って笑い声をあげた。
「佐々木先輩、なんですか?」
僅かに接触している、佐々木先輩の片腕と私の片腕。ドギマギがドキドキに変化したせいで、訊ねたセリフがキツくなってしまった。
「松尾ってさ、なんでも美味しそうに飲むなと思って。一緒にビールを飲んだときもそうだったなと、ちゃっかり思い出してた」
「だって、美味しいものは美味しいですし」
「そうだな」
見るからに嬉しそうな表情で、私の顔をを覗き込む佐々木先輩の視線から逃れるべく、俯いてココアの缶をガン見した。そしてこのタイミングで気づいてしまう。
(私ってば、まだお礼を言ってない。梅本さんたちのことについても、いただいてるココアについても!)
「松尾、変顔になってるぞ。気を遣って俺を笑わそうと、必死に頑張ったりするなよ」
ふたたび忍び笑いをし、軽く私に体当たりした佐々木先輩の行動に、困り果てるしかなかった。
「そんなんじゃないです。あの……」
「俺を好きになってくれたとか?」
そのセリフに反応して顔をあげたら、悪戯っぽいまなざしで私を見つめる、佐々木先輩の視線とかち合う。
「違います。そうじゃなくて」
(なんていうか、妙な雰囲気を漂わせていること、佐々木先輩は気づいていないんだろううな)
「そこ、全力で否定するなよ。地味に傷つく」
「あっ、すみません。本当にそういうつもりじゃなくて、あの……」
「そろそろ戻らなきゃいけない時間だな。松尾と一緒にいると、いつもの時間があっという間に過ぎていく」
ペコペコ頭を下げて謝る私を尻目に、腕時計で時間を確認した佐々木先輩。謝り倒す私を、あえて見ないようにしているみたいに感じてしまった。
「松尾、あのさ」
「はい?」
「手、貸してくれないか?」
不思議なお願いに利き手を差し出したら、「左手がほしい」と指定されてしまった。
「……佐々木先輩、私の左手でなにをする気なんですか?」
「松尾が寂しくならないように、左手首にも同じものをつけてあげようと思ったんだ」
あっけらかんと告げられた言葉に、開いた口が塞がらない。
「なななな、なに言ってるんですか。手首のキスの意味をわかってて、またする気なんですか⁉︎」
ぶわっと頬が熱くなる。意味を知ってしまったあとだからこそ、照れずにはいられない。
「あ~、わざわざ意味を調べてくれたんだ。だったらなおさら、左手を寄越してくれ」
余裕そうな笑みを浮かべた佐々木先輩に、私はもちろん左手を渡さず、椅子から立ち上がって後退りしながらココアを一気飲み! すかさず空き缶をゴミ箱にポイして、脱兎の如く逃げた。
結局佐々木先輩にお礼を言わずに、失礼極まりない状況をみずから作ってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる