恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~♡

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
15 / 141
次の日の出来事!

しおりを挟む
***

 呆けた頭で考えたところで、バカな私はなにも思いつかないし、この状況が変わらないことくらいわかっていた。自分の席に座ってからも茫然としてしまい、まったく仕事に手がつかない。

 綾瀬川専務の息子さんに逢うことや、佐々木先輩の彼女になってしまったこと。そのどれもが現実離れしているゆえに、私のキャパを完全に超えた。

(両方お断りするには、まずは――)

「松尾、ちょっといいか?」

「ひっ!」

 唐突に声をかけられた驚き、肩を竦めながら息を飲んで振り返ると、佐々木先輩が一枚の紙を私の目の前に掲げる。ほぼ白紙の中央に『これを見ながら話を合わせろ』と、青い文字の手書きがなされていた。

「よく見てくれ。この間頼んだ書類だけど、ここの部分の数字が、間違っているんじゃないかと思ってさ。計算と合わないんだ」

 なにも書かれてないところを指さしながら、私に顔を寄せる。するとその動きで連動するように、いい匂いが漂った。なんの香水かわからないけれど、爽やかなシトラス系の香りが鼻腔をくすぐり、私の落ち着きなさに拍車をかける。

「松尾、ちゃんと確認してる?」

 しかもイケメンのドアップほど、心臓に悪いものはない。顔のすぐ真横でなにかを言われるたびに、耳に吐息がかかっているような錯覚に陥った。

「かっ確認しましたけど。これ間違ってますかねぇ」

 刺激的な佐々木先輩から離れるために、首を傾げながら両手でデスクを掴み、椅子を平行移動した。それなのに離れた分だけ、体を寄せられてしまう。みずからドツボに嵌る行為に、後悔してもすでに遅し!

 体を寄せられて触れる面積が増えたら、自然といい匂いは増えるし、ぬくもりも伝わってきて、頬がじわりと熱を持った。

「多分間違ってる。しかも、ここだけじゃない」

 自分の言うことは絶対正しいという、自信に満ちた口調で佐々木先輩は言って、デスクに転がってるペンを持つと、白紙になにかを素早く書き込む。

『うまく演技できてる。そのまま続けてくれ』

 走り書きでも見惚れてしまう文字を書く佐々木先輩に感心して、私は黙ったまま首振り人形のように頷いてしまった。

「松尾、しっかりしてくれよ」

「すみません。いろいろ一気に立て込んでしまって……」

「しょうがないな。一緒に確認してやる、ついて来い」

 佐々木先輩は仕方なさそうな表情を、わざとらしさのない感じで作り込み、私の左腕を引っ張って無理やり立たせて、引きずるようにフロアから連れ出す。

 扉が閉まる瞬間、後ろを振り返ってみた。

 迫真の演技を難なくこなした佐々木先輩と、一歩間違えたら場違いとも思える微妙な態度を貫いた私について、誰も疑問に思わなかったのか、私たちの姿を目に留める社員は誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...