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好きだから、アナタのために
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「マスター、いつになったら聖哉くんのピアノが聞けるのよ?」
常連客の華代さんが声高に訊ねた。音のない店内のせいか、彼女の苦情が嫌でも耳に入る。
「あ、それは――」
「仲がいいほどケンカするとも言うけど、芸術家はプライドが高い分だけ、なかなか折れないものよ」
「そうそう! だからこそ年上のマスターの包容力を、ここぞとばかりに見せつけるチャンスなんだってば!」
俺が返事をする前に、絵里さんが話に加わり、ふたりにアドバイスされてしまった。
グラスを磨く手を止め、大きなため息を吐く。
「マスター、らしくないよ。いつもなら私たちの話を聞いたら、間髪おかずに返事をしてくれたのに」
「ハナ、察してあげなよ。それができないくらいに、マスターが悩んでるんだってば」
「絵里さん……」
思わず、縋るような視線を投げかけた。
「マスターが好きになった聖哉くんの優しい人柄と、ここで奏でられるピアノをずっと聞いていたら、想いが募っていくのは必然でしょ?」
(平日でお客様がいない寂しい店内だからこそ、ふたりはこの話題を俺に投げかけたのかな)
「おふたりは、俺と聖哉が付き合ってると思ってるんですか?」
実際のところ、俺たちが付き合ってることを、ふたりに言っていない。
「なにを今さら……鈍いハナでもわかったよね?」
「わかるに決まってるじゃない。目と目を合わせてほほえみ合う、マスターと聖哉くんを見たら、一目瞭然でしょ」
「それで、なんでケンカしたの? もう半月も聖哉くんが来てないなんて、おかしすぎるよね?」
タンブラーに入ったカクテルを目の前に掲げながら問いかけた絵里さんに、苦笑いを浮かべる。
「おふたりにケンカの原因を白状したら、間違いなく俺が叱られるので言えません」
「うーわ。私たちに叱られる原因って、すっごくくだらないことなんじゃないの?」
華代さんは隣にいる絵里さんに軽く体当たりして、くすくす笑ったあとに、俺に指をさす。体当たりされた絵里さんは、物知り顔で口元を綻ばせた。
「マスター、いつになったら聖哉くんのピアノが聞けるのよ?」
常連客の華代さんが声高に訊ねた。音のない店内のせいか、彼女の苦情が嫌でも耳に入る。
「あ、それは――」
「仲がいいほどケンカするとも言うけど、芸術家はプライドが高い分だけ、なかなか折れないものよ」
「そうそう! だからこそ年上のマスターの包容力を、ここぞとばかりに見せつけるチャンスなんだってば!」
俺が返事をする前に、絵里さんが話に加わり、ふたりにアドバイスされてしまった。
グラスを磨く手を止め、大きなため息を吐く。
「マスター、らしくないよ。いつもなら私たちの話を聞いたら、間髪おかずに返事をしてくれたのに」
「ハナ、察してあげなよ。それができないくらいに、マスターが悩んでるんだってば」
「絵里さん……」
思わず、縋るような視線を投げかけた。
「マスターが好きになった聖哉くんの優しい人柄と、ここで奏でられるピアノをずっと聞いていたら、想いが募っていくのは必然でしょ?」
(平日でお客様がいない寂しい店内だからこそ、ふたりはこの話題を俺に投げかけたのかな)
「おふたりは、俺と聖哉が付き合ってると思ってるんですか?」
実際のところ、俺たちが付き合ってることを、ふたりに言っていない。
「なにを今さら……鈍いハナでもわかったよね?」
「わかるに決まってるじゃない。目と目を合わせてほほえみ合う、マスターと聖哉くんを見たら、一目瞭然でしょ」
「それで、なんでケンカしたの? もう半月も聖哉くんが来てないなんて、おかしすぎるよね?」
タンブラーに入ったカクテルを目の前に掲げながら問いかけた絵里さんに、苦笑いを浮かべる。
「おふたりにケンカの原因を白状したら、間違いなく俺が叱られるので言えません」
「うーわ。私たちに叱られる原因って、すっごくくだらないことなんじゃないの?」
華代さんは隣にいる絵里さんに軽く体当たりして、くすくす笑ったあとに、俺に指をさす。体当たりされた絵里さんは、物知り顔で口元を綻ばせた。
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