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想いの変化

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「僕が嫌悪感を抱かないって言ったからって、試すようなことをわざわざしないでくださいよ」

「やっぱり嫌だったか?」

 聖哉の顔を覗き込みながら訊ねてみたら、ジト目で俺を睨む。睨んでいるんだけど、どこか拗ねているようにも見えるそれを、ただただじっと眺めてしまった。

 俺がまじまじと見つめることに嫌気がさしたのか、聖哉は俯きながら返答する。

「男相手に平然とそういうことをする、石崎さんがすごいと思いました」

 嫌だったとは言わずに、俺を褒めるセリフを言った聖哉のほうがすごいと、率直に思った。

「前にも言ったが、好きな相手に触れたいと思うのは、ごく自然な行為だろ。聖哉だって恋愛しているときは、こういうことをしなかったのか?」

 さりげなく彼の恋愛経験を訊ねてみた。どことなく影のあるイケメンで、口数の少ない聖哉をカッコイイと思う女は、たくさんいるだろうなと予測した。

「僕は自分から誰かを好きになったことがなかったですし、石崎さんみたいに積極的に触れ合ったりはしなかったです」

「だけど付き合ってくれって言われて、付き合ったことがあるんだろ?」

「はあ、まあ。試しに付き合えば、そのコがかわいいと思えましたし、それなりの経験もしましたが」

(なるほど。聖哉は童貞ではなかったということか――)

 一旦言葉を切った聖哉は、俺の視線をさらに避けるように、顔を横に向ける。

「いつも相手から振られました。思っていたのとなんか違うって言われて」

「なんだそりゃ?」

 素っ頓狂な声をあげたら、聖哉は横に向けていた顔をもとに戻し、また俺を睨む。

「知りませんよ、そんなの。勝手に理想像を押しつけて、勝手に幻滅しただけなんでしょう!」

「俺はそんなことしてないからな。安心してくれ、聖哉の本質はわかってる」

 したり笑いで告げたら、恋人つなぎしている手を痛いくらいに握られた。

「石崎さんに、僕のなにがわかるっていうんですか?」

「コンテストに落ちた腹いせに、ストリートピアノでイライラをぶつけるような、至極単純な人間」

 過去の出来事をさらっと言ってやったら唇を突き出し、苛立ちを露にした。

「どうせ僕は、単純な人間ですよ!」

「単純だから変な小細工をせずに、ありのままの自分をさらけ出してくれる。俺はそういうところに惚れたんだ」

「ぶっ!」

 途端に顔を赤くさせて視線を右往左往し、いつものように俯いた聖哉。多分ここは押しどきなんだろうけど、あえてそれを言わずに、違うことを口にする。

「聖哉が店を守りたいって気持ち、すごく嬉しかった。あと何日かわからないが、その気持ちを使わせてもらうな」

 サオリさんが、あっさり諦めてくれたらそれまで。しつこく食いつくようなら、この関係を続けることができる。

 後者のほうが俺としてはありがたいのだが、聖哉に心労をかけさせるわけにもいかないので、なにごともないことを、心の中でそっと祈ったのだった。
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