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想いの変化

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「サオリさん、閉店時間ですのでお引き取りを」

 俺はいつまでもダラダラしている厄介な客に、圧を感じさせる口調で声をかけて、帰るように促した。

 今夜は男性客が多かったことで、店でのトラブルがなかったのと、以前勤めていたバーの客である絵里さんと華代さんが目を光らせていたからか、彼女はワガママを駆使することなく、あっけなく帰ってくれた。

「マスター、私たちも帰るわね。なにか困ったことがあったら、遠慮なく言って」

「前の店のように、雰囲気が悪くなるのが嫌だしね。ここは私たちの憩いの場でもあるんだから、なにかあれば常連として、あのコにきっちり注意してやるわ」

 華代さんがお会計をしながら心配そうな表情を浮かべて、俺に話しかけた。それに乗っかって、絵里さんは俺の肩をバシバシ叩き、気合いを入れてくれる。

「いつもありがとうございます。心強い味方がいるだけで頑張れますよ」

 絵里さんと華代さんは、ただのお客様。彼女たちが間に入ることで、厄介な客が手を出す恐れがある。だから、頼ってばかりいられないのが現実だ。それに前の店で、変な客に対応するオーナーの処理の仕方を垣間見ているので、それを使わせてもらうのも、ひとつの手だった。

 最後のお客様を送り出し、クローズ作業をしてる間に、聖哉が店内の戸締りや掃除をしてくれる。そのおかげで、最近早く帰れるようになった。

 お互いやっていることを終えて、いつも一緒に帰っていたのだが。

「聖哉、その掃除が終わったら帰っていいぞ」

「わかりました」

 一緒に帰れないので、先に帰るように声をかけたというのに、聖哉はなぜか細かいところの掃除をはじめる。そんなことしなくていいと言えればいいのに、こうしてふたりきりでいられることがどうにも嬉しくて、俺の言葉をとめた。

 売り上げの計算を終えて、金庫に貴重品をしまい、店から出る準備をしたら、聖哉はやっと帰り支度をはじめた。まるで俺の行動に合わせているような感じに、見えなくもない。

「帰るぞ、早く出ろ」

「はい。今行きます」

 自分の荷物を手にした聖哉が、走って俺に追いつき、先に店を出る。そのあとを追いかけるように俺も出て、扉の鍵をしっかりかけた。その様子を背後から見つめる聖哉に挨拶しようと振り返ったら、彼は真横をじっと見つめていた。

 そのまま視線の先を追って、くっと息を飲む。

「サオリさん……」

 帰ったと思った厄介な客が、出待ちしていた事実に心底落胆する。

「智之さんと一緒に帰ろうと思って、ここで待っていたの」

(くそっ、やっぱりめんどくさいことになりやがった……)

 なんて言って断ろうかと頭を悩ませていたら、俺の前に聖哉が立ちはだかった。それは傍から見た感じ、彼女から俺を守るようにも見える。

「聖哉?」

「お客様、大変申し訳ございません。石崎さんはこれから僕と帰るので、ご一緒することはできません」

 きっぱり言いきったと思ったら、俺の腕に自分の腕を絡めた。それを見た彼女は、眉根を寄せながら近づいてくる。

「どういうことかしら?」

「僕ら、付き合ってるんです」

 俺よりも背が低くて体も華奢な聖哉が、このときだけはなぜか大きく感じた。
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