60 / 66
59
しおりを挟む
繋いでいる手を握りしめ、意を決して言の葉を告げる。
「じゃあ航希くんに甘えて、マッサージ頼んじゃおうかなぁ」
「ま、マジで?」
「マジだよ」
「よっしゃー!」
上目遣いで照れながら告げた途端に、航希くんは私の手を繋いだまましゃがみ込み、喜びを示すように反対の手でガッツポーズを作る。
「あはは、待たせちゃったもんね」
「い、いやいや。楽しみはとっておきたい、みたいな」
今度は航希くんが照れる番。ガッツポーズを作った手で後頭部を搔いて、顔を赤らめさせる。
「ごめんね、もったいぶって」
「ヤりたいだけじゃなくて、あの……大好きな絵里さんに、直接触れたいだけなんです。この世で一番近い存在になりたくて」
「そういうこと、ぽんぽん言われると対処に困る」
これまでのことを含めて思い切って言ってみると、航希くんはしゃがんでいた姿勢から勢いよく立ち上がり、熱を込めた視線を私に注ぐ。
「俺は正直な気持ちを言ってるだけです。絵里さんに俺のことを知ってほしいから」
「そうやって、何度も直球を投げられる、私の身にもなってほしい」
まじまじと見つめられる視線にどうにも照れてしまい、俯いてしまった。
「絵里さんは直球、投げてくれないんですか?」
「直球なんて、なにを言えばいいのやら……」
困ってる私の体を、逞しい二の腕がぎゅっと抱きしめた。
「さっきみたいに、俺にしてほしいことを言えばいいだけですよ」
「マッサージしてほしい、みたいに?」
ちなみに現在いるところは、ときどき人が行き交う歩道のど真ん中である。バカップルがこんなところでなにをやってるんだろうかと、白い目で見ていた側だった、ちょっと前の私。
人の目につくところで恥ずかしいって思う一方で、航希くんが私を想ってくれる気持ちが伝わるおかげで、ふたりだけの世界を堪能できた。航希くんから伝わってくる心音の速さを聞くだけで、嬉しくて笑みが浮かんでしまう。
「絵里さんが思ってることを、口に出してみてほしいです。俺はどんな小さなことでも知りたい。アナタのことが大好きだから」
耳元で甘やかに囁かれたセリフに導かれるように私は頭をあげ、カッコイイ航希くんの顔を見つめる。
「自分が食べ頃なのかわからないんだけど、試しに味見してみる?」
「しますします! 味見なんて言わずに、絵里さんのすべてを完食させてください、俺の家で!!」
頬を上気させた航希くんが力任せに私を横抱きにして、いきなり駆けだした。あまりの素早さに私は慌てて航希くんの首元に両腕を巻きつけ、自身の安全を確保。彼を落ち着かせるべく、声をかける。
「航希くん、私は逃げたりしないから安心して」
(なんだか、頭からバリバリ食べられちゃいそうだな――)
「1分1秒すら惜しいんです。だってふたりきりでいられる時間は、限られているんですよ」
なんて言われちゃったら、それ以上の苦情が言えない。だって私も、航希くんと過ごせる時間が惜しいと思った。
こうして無事に、初心なカップルから脱却することができたのだけれど、私を完落ちさせるべく、ハナが事務所にて航希くんにあれこれ指南していたことが後日発覚した。
『絵里には結婚資金で貯めていた大金を使わせて、私をまっとうな道に戻してもらったお礼をしなきゃいけなかったからね。これくらいは、当然のことでしょ』
親友のしあわせを導くためのハナのミッションに、私は深く感謝したのだった。
おしまい
閲覧とコメントなどのリアクション、ありがとうございました。
おかげさまで最後まで書ききることができました。
お礼にちょっとした番外編をこのあと連載しますので、お楽しみくださいませ。
「じゃあ航希くんに甘えて、マッサージ頼んじゃおうかなぁ」
「ま、マジで?」
「マジだよ」
「よっしゃー!」
上目遣いで照れながら告げた途端に、航希くんは私の手を繋いだまましゃがみ込み、喜びを示すように反対の手でガッツポーズを作る。
「あはは、待たせちゃったもんね」
「い、いやいや。楽しみはとっておきたい、みたいな」
今度は航希くんが照れる番。ガッツポーズを作った手で後頭部を搔いて、顔を赤らめさせる。
「ごめんね、もったいぶって」
「ヤりたいだけじゃなくて、あの……大好きな絵里さんに、直接触れたいだけなんです。この世で一番近い存在になりたくて」
「そういうこと、ぽんぽん言われると対処に困る」
これまでのことを含めて思い切って言ってみると、航希くんはしゃがんでいた姿勢から勢いよく立ち上がり、熱を込めた視線を私に注ぐ。
「俺は正直な気持ちを言ってるだけです。絵里さんに俺のことを知ってほしいから」
「そうやって、何度も直球を投げられる、私の身にもなってほしい」
まじまじと見つめられる視線にどうにも照れてしまい、俯いてしまった。
「絵里さんは直球、投げてくれないんですか?」
「直球なんて、なにを言えばいいのやら……」
困ってる私の体を、逞しい二の腕がぎゅっと抱きしめた。
「さっきみたいに、俺にしてほしいことを言えばいいだけですよ」
「マッサージしてほしい、みたいに?」
ちなみに現在いるところは、ときどき人が行き交う歩道のど真ん中である。バカップルがこんなところでなにをやってるんだろうかと、白い目で見ていた側だった、ちょっと前の私。
人の目につくところで恥ずかしいって思う一方で、航希くんが私を想ってくれる気持ちが伝わるおかげで、ふたりだけの世界を堪能できた。航希くんから伝わってくる心音の速さを聞くだけで、嬉しくて笑みが浮かんでしまう。
「絵里さんが思ってることを、口に出してみてほしいです。俺はどんな小さなことでも知りたい。アナタのことが大好きだから」
耳元で甘やかに囁かれたセリフに導かれるように私は頭をあげ、カッコイイ航希くんの顔を見つめる。
「自分が食べ頃なのかわからないんだけど、試しに味見してみる?」
「しますします! 味見なんて言わずに、絵里さんのすべてを完食させてください、俺の家で!!」
頬を上気させた航希くんが力任せに私を横抱きにして、いきなり駆けだした。あまりの素早さに私は慌てて航希くんの首元に両腕を巻きつけ、自身の安全を確保。彼を落ち着かせるべく、声をかける。
「航希くん、私は逃げたりしないから安心して」
(なんだか、頭からバリバリ食べられちゃいそうだな――)
「1分1秒すら惜しいんです。だってふたりきりでいられる時間は、限られているんですよ」
なんて言われちゃったら、それ以上の苦情が言えない。だって私も、航希くんと過ごせる時間が惜しいと思った。
こうして無事に、初心なカップルから脱却することができたのだけれど、私を完落ちさせるべく、ハナが事務所にて航希くんにあれこれ指南していたことが後日発覚した。
『絵里には結婚資金で貯めていた大金を使わせて、私をまっとうな道に戻してもらったお礼をしなきゃいけなかったからね。これくらいは、当然のことでしょ』
親友のしあわせを導くためのハナのミッションに、私は深く感謝したのだった。
おしまい
閲覧とコメントなどのリアクション、ありがとうございました。
おかげさまで最後まで書ききることができました。
お礼にちょっとした番外編をこのあと連載しますので、お楽しみくださいませ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~
葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』
ハッピーエンドのちょっと先😊
結ばれた瞳子と大河
そしてアートプラネッツのメンバーのその後…
•• ⊰❉⊱……登場人物……⊰❉⊱••
冴島(間宮) 瞳子(26歳)… 「オフィス フォーシーズンズ」イベントMC
冴島 大河(30歳)… デジタルコンテンツ制作会社 「アートプラネッツ」代表取締役
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる