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親友の愛した人が既婚者で、奥さんを欺きながら、会社にいる若い女性ふたりと付き合ってる現実――自分が愛した人の裏の顔を突きつけられたら、誰だってショックで錯乱するに決まってる。第三者の私でさえも、かなりの衝撃を受けた。
しかも奥さんと離婚すると言いながらも、彼は自分の奥さんに不妊治療に行かせている。到底離婚するとは思えない。それなのにその一方で、ハナに夢を見させるべく結婚式場巡りをするなんて。
「ハナ、私は津久野さんのことが許せない。ハナの気持ちを知っていながら、見えないところで酷いことばかりしている」
「…………」
「彼の実態を知ってもまだ、このまま付き合い続けていくつもりなの?」
「絵里には私の気持ちなんて、全然わからないんだよ!」
ハナのやるせない声が部屋に響いた。彼女の中にある感情の表れたその声が、妙に耳に残る。私は黙ったまま、目の前を見つめるしかない。
「既婚者の部長を好きになった時点で、許されない恋をしたことだってわかってる。どうして奥さんよりも早く出逢えなかったんだろうって、何度も何度も考えたりした」
私の目に映るハナは、恋に傷ついたひとりの女性に見えた。津久野さんと付き合っていることをしばらく隠していたのだって、私に反対されると思ったからだろう。
「部長が私の好意に気づいて、手を差し伸べてくれたのが夢みたいだった。妻と別れて、私と結婚するって言ってくれたときは、天にも昇るくらいに嬉しかったのに」
「ハナ……」
「ずっとこの夢の中に浸っていたかったのに、知りたくなかった現実を晒されたせいで、部長とのしあわせな時間を私は過ごすことができなくなったじゃない。私の夢の時間を返して、絵里のせいでもうすべてが壊れちゃったんだよ」
ハナはローテーブルに置いてある書類を手に取ると、私に目がけて投げつけた。真っ白な紙が目の前を一瞬だけ塞いだけれど、すぐにハナの顔を見ることができた。
怒りと悲しみに暮れた、哀れな親友の姿がそこにあった。
「ハナ、誰かを欺いて付き合っていても、いつかは不幸になるだけだって」
「そんな正論を押しつけられて、はいそうですかって私が言うと思った? 人の気持ちは、そんなものでは量れないんだよ。だからいつまで経っても、絵里に彼氏ができないんだ……」
捨て台詞を吐いて私に背を向け、出て行こうとするハナの肩を、慌てて捕まえる。
「絵里なんて、大っ嫌い!」
大声で叫ぶなり、私の掴んだ手を叩き落とし、足早に部屋をあとにしたハナ。心のキズが深いからこそ、手を差し伸べてあげたかったのに、この日を境にしてありとあらゆるツールをブロックされてしまい、連絡する手段を断たれてしまったのだった。
しかも奥さんと離婚すると言いながらも、彼は自分の奥さんに不妊治療に行かせている。到底離婚するとは思えない。それなのにその一方で、ハナに夢を見させるべく結婚式場巡りをするなんて。
「ハナ、私は津久野さんのことが許せない。ハナの気持ちを知っていながら、見えないところで酷いことばかりしている」
「…………」
「彼の実態を知ってもまだ、このまま付き合い続けていくつもりなの?」
「絵里には私の気持ちなんて、全然わからないんだよ!」
ハナのやるせない声が部屋に響いた。彼女の中にある感情の表れたその声が、妙に耳に残る。私は黙ったまま、目の前を見つめるしかない。
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「ハナ……」
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