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☆☆彡.。
父上の住む魔王城に到着したのが、制限時間が残り2時間だった。
頼みごとをする時間が限られているゆえに、このまま父上にお目通りが叶わなかったら、無理にでも押し入るつもりだった。しかしながらほかに来客がいなかったのか、すんなりと逢うことができてしまい、思いっきり肩透かしを食らってしまった。
「お久しぶりです、父上」
謁見の間に通された俺は、所定の位置にて片膝をつき、深く頭を垂れた。そんな俺を玉座から見下ろす父上の姿は、何百年前に顔を合わせた頃となにも変わりない。
「怠惰の悪魔よ、久しぶりだな。我の生誕祭をしてもまったく顔を出さなかったのに、今さらどうした?」
「理由を言わずとも、父上ならわかっているのではないですか? 予知の力がおありなのですから」
自分にはない能力を、たくさん備えている父上。反発や反論するだけ無駄なので、さっさと要件を済ませようと試みる。
「予知の力があっても、自らそれを口にするのは、つまらないことだとは思わないのか?」
「俺の口から回答を聞き、答え合わせをしたほうが楽しいかもしれませんね」
下げた頭をあげて答えると、父上は満足げにほほ笑む。俺が持ってきた面倒ごとは父上にとって、いい暇つぶしになるのかもしれない。
「わかっているではないか。それで何用だ?」
「俺の眷属になった者と、コイツが死んだ原因になった人間の転生をお願いしたいのです」
持っていた小袋を両手で差し出し、父上に見せた。
「おまえの眷属をわざわざ元の人間に戻して転生させるなんて、なにかあったのか?」
「それは――」
「悪魔のおまえが、人間ごときに心を動かされるような、なにか深い出来事があったというのか?」
訊ねられた口調は厳しいものではなく、どこか優しさを感じさせるものだったので、臆することなく答えることができる。
「コイツは……ハサンは地位や名誉を欲しない、とても珍しい人間でした」
「この世に数多の人間がいる。すべての者が、おまえの言ったものをを欲するとは限らない。愛の足りないものは愛を欲し、親に見捨てられたものは親を欲する」
「ハサンは天使の翼を欲しました」
「……それがどうした?」
妙な間のあとで訊ねられた。しかもほほ笑みを消し去り、真顔で聞かれたゆえに、変に緊張してしまう。
答えのわかっている父上を説得するには、どうしたらいいのか、正直わからなくなってきた。これまで人間相手に言葉巧みに騙していたが、予知の能力を備えている父上には、騙しがまるできかない。
「怠惰の悪魔であるおまえが、ハサンという者に天使の翼を授けることは、どうあがいてもできまい」
なにを言ってるんだと言わんばかりの口調に、追いつめられた気持ちになっていく。
「はい。眷属にして、悪魔の翼を授けることが精一杯でした」
「何年もかけて、千人もの人間を手にかけたハサンにとって、天使じゃなく悪魔の翼を授けられた事実は、どれだけ気落ちしたことであろうな」
「それは――」
「おまえは悪魔の翼を授けるだけしかできない、ただの能無しということがわかっていながら、なぜハサンの願いを叶えてやろうとしなかった?」
ここではじめて、父上の口調が厳しいものに変化した。
父上の住む魔王城に到着したのが、制限時間が残り2時間だった。
頼みごとをする時間が限られているゆえに、このまま父上にお目通りが叶わなかったら、無理にでも押し入るつもりだった。しかしながらほかに来客がいなかったのか、すんなりと逢うことができてしまい、思いっきり肩透かしを食らってしまった。
「お久しぶりです、父上」
謁見の間に通された俺は、所定の位置にて片膝をつき、深く頭を垂れた。そんな俺を玉座から見下ろす父上の姿は、何百年前に顔を合わせた頃となにも変わりない。
「怠惰の悪魔よ、久しぶりだな。我の生誕祭をしてもまったく顔を出さなかったのに、今さらどうした?」
「理由を言わずとも、父上ならわかっているのではないですか? 予知の力がおありなのですから」
自分にはない能力を、たくさん備えている父上。反発や反論するだけ無駄なので、さっさと要件を済ませようと試みる。
「予知の力があっても、自らそれを口にするのは、つまらないことだとは思わないのか?」
「俺の口から回答を聞き、答え合わせをしたほうが楽しいかもしれませんね」
下げた頭をあげて答えると、父上は満足げにほほ笑む。俺が持ってきた面倒ごとは父上にとって、いい暇つぶしになるのかもしれない。
「わかっているではないか。それで何用だ?」
「俺の眷属になった者と、コイツが死んだ原因になった人間の転生をお願いしたいのです」
持っていた小袋を両手で差し出し、父上に見せた。
「おまえの眷属をわざわざ元の人間に戻して転生させるなんて、なにかあったのか?」
「それは――」
「悪魔のおまえが、人間ごときに心を動かされるような、なにか深い出来事があったというのか?」
訊ねられた口調は厳しいものではなく、どこか優しさを感じさせるものだったので、臆することなく答えることができる。
「コイツは……ハサンは地位や名誉を欲しない、とても珍しい人間でした」
「この世に数多の人間がいる。すべての者が、おまえの言ったものをを欲するとは限らない。愛の足りないものは愛を欲し、親に見捨てられたものは親を欲する」
「ハサンは天使の翼を欲しました」
「……それがどうした?」
妙な間のあとで訊ねられた。しかもほほ笑みを消し去り、真顔で聞かれたゆえに、変に緊張してしまう。
答えのわかっている父上を説得するには、どうしたらいいのか、正直わからなくなってきた。これまで人間相手に言葉巧みに騙していたが、予知の能力を備えている父上には、騙しがまるできかない。
「怠惰の悪魔であるおまえが、ハサンという者に天使の翼を授けることは、どうあがいてもできまい」
なにを言ってるんだと言わんばかりの口調に、追いつめられた気持ちになっていく。
「はい。眷属にして、悪魔の翼を授けることが精一杯でした」
「何年もかけて、千人もの人間を手にかけたハサンにとって、天使じゃなく悪魔の翼を授けられた事実は、どれだけ気落ちしたことであろうな」
「それは――」
「おまえは悪魔の翼を授けるだけしかできない、ただの能無しということがわかっていながら、なぜハサンの願いを叶えてやろうとしなかった?」
ここではじめて、父上の口調が厳しいものに変化した。
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