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☆☆彡.。
これまでの移動手段は、近場ならラクダのドリームで、遠い場所は組織が所有している馬車だった。
悪魔の翼というのは解せないが、今はひとっ飛びで好きな場所に短時間で飛んで行ける。
「僕が生まれ育ったところと、さっきいたお屋敷はかなり離れた場所なのに、もう目の前に見える」
マリカに逢えるまであと少し――彼女がいると思しきガビール様のお屋敷は、王宮のすぐ傍にあった。
上空から眺めたことで、その大きさを改めて思い知る。装飾が施された五階建ての立派なお屋敷はまるで、彼の持つ権力を誇示してるみたいに見える。そして――。
「マリカを閉じ込めるための牢獄にも見える。どこに彼女を隠しているんだろう?」
その大きさにゲンナリしながら、屋敷の周りをぐるぐる飛び回り、窓が少しだけ開いてる三階のバルコニーに気づいて降り立つ。僕の影が室内に入り込むことで、月がよく見える部屋なのがわかった。
「今夜の月明かりを見ながら寝てるのかな」
コソッと呟き、音が出ないように大きく窓を開けると、すぐ近くにベッドが配置されていて、安らかな寝息が聞こえた。
侵入がバレないように、抜き足差し足で忍び込み、そのまま部屋を突っ切ろうとしながら、寝ている人物に視線を注ぐ。
「えっ?」
見覚えのある人物なのに、それが自分の知っている面影がないことに、言葉を失った。
「マリカ……。本当にマリカなのか?」
ベッドに横たわる彼女は瘦せこけていて、月明かりに照らされた肌の色つやも悪く、血の気のない青白い顔色をしていた。
鋭い爪が刺さらないように、そっと頬に触れてみる。指先にひんやりした体温を感じて、今すぐにでもあたためてやりたくなった。
「マリカ、マリカ!」
頬に触れながら、もう片方の手で布団ごと体を揺さぶった。僕からの刺激でやっとといった感じで、気だるげに瞳が開けられる。
「マリカ僕だよ、わかる?」
「だ、れ?」
声は昔のままだったことに、かなり安堵した。
「マリカ、君を迎えに来た。一緒にここを出よう」
背後から月の光が差し込んでいるせいで逆光になり、誰なのかわからないだろうと考え、ベッドに腰かけて、僕の姿が見えるように施した。
「うそ……ハサン、なの?」
「当初の予定では、天使の翼を授けてもらうハズだったのに、どうやら間違えたらしい」
肩を竦めてカラカラ笑ったというのに、マリカの面持ちは一向に晴れなかった。
「ハサンどうしちゃったの? 瞳の色はチョーカーについてる石と同じ色をしているし、その翼……」
ふらつきながら起き上がったマリカが、僕の顔をじっと見つめる。誤魔化しを許さないまなざしが、心に深く突き刺さった。
「マリカをここから攫うために、ある人からこの翼を貰ったんだ。その関係で、瞳の色も変わってしまった。やっぱり怖いよね?」
「ハサンがそんな姿になるなんて、なにがあったというの。もしかして、貴方の大事なものを捧げたんじゃないの?」
マリカは僕の質問には答えずに、疑問に思ったことを口にした。
これまでの移動手段は、近場ならラクダのドリームで、遠い場所は組織が所有している馬車だった。
悪魔の翼というのは解せないが、今はひとっ飛びで好きな場所に短時間で飛んで行ける。
「僕が生まれ育ったところと、さっきいたお屋敷はかなり離れた場所なのに、もう目の前に見える」
マリカに逢えるまであと少し――彼女がいると思しきガビール様のお屋敷は、王宮のすぐ傍にあった。
上空から眺めたことで、その大きさを改めて思い知る。装飾が施された五階建ての立派なお屋敷はまるで、彼の持つ権力を誇示してるみたいに見える。そして――。
「マリカを閉じ込めるための牢獄にも見える。どこに彼女を隠しているんだろう?」
その大きさにゲンナリしながら、屋敷の周りをぐるぐる飛び回り、窓が少しだけ開いてる三階のバルコニーに気づいて降り立つ。僕の影が室内に入り込むことで、月がよく見える部屋なのがわかった。
「今夜の月明かりを見ながら寝てるのかな」
コソッと呟き、音が出ないように大きく窓を開けると、すぐ近くにベッドが配置されていて、安らかな寝息が聞こえた。
侵入がバレないように、抜き足差し足で忍び込み、そのまま部屋を突っ切ろうとしながら、寝ている人物に視線を注ぐ。
「えっ?」
見覚えのある人物なのに、それが自分の知っている面影がないことに、言葉を失った。
「マリカ……。本当にマリカなのか?」
ベッドに横たわる彼女は瘦せこけていて、月明かりに照らされた肌の色つやも悪く、血の気のない青白い顔色をしていた。
鋭い爪が刺さらないように、そっと頬に触れてみる。指先にひんやりした体温を感じて、今すぐにでもあたためてやりたくなった。
「マリカ、マリカ!」
頬に触れながら、もう片方の手で布団ごと体を揺さぶった。僕からの刺激でやっとといった感じで、気だるげに瞳が開けられる。
「マリカ僕だよ、わかる?」
「だ、れ?」
声は昔のままだったことに、かなり安堵した。
「マリカ、君を迎えに来た。一緒にここを出よう」
背後から月の光が差し込んでいるせいで逆光になり、誰なのかわからないだろうと考え、ベッドに腰かけて、僕の姿が見えるように施した。
「うそ……ハサン、なの?」
「当初の予定では、天使の翼を授けてもらうハズだったのに、どうやら間違えたらしい」
肩を竦めてカラカラ笑ったというのに、マリカの面持ちは一向に晴れなかった。
「ハサンどうしちゃったの? 瞳の色はチョーカーについてる石と同じ色をしているし、その翼……」
ふらつきながら起き上がったマリカが、僕の顔をじっと見つめる。誤魔化しを許さないまなざしが、心に深く突き刺さった。
「マリカをここから攫うために、ある人からこの翼を貰ったんだ。その関係で、瞳の色も変わってしまった。やっぱり怖いよね?」
「ハサンがそんな姿になるなんて、なにがあったというの。もしかして、貴方の大事なものを捧げたんじゃないの?」
マリカは僕の質問には答えずに、疑問に思ったことを口にした。
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