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「ドリーム、ありがとう……」
馬よりは遅いけど、僕が走るよりは断然速いドリームの足に感謝しつつ、街外れまで駆け抜ける。小一時間ほどで、隣町との国境沿いまで来ることができた。
峠の傍にある森の中に身を隠すことにし、あてのない状態でしばらく奥へと進んでみる。自分が生まれ育った砂漠地帯から離れていくに従い、緑地帯が増えていくことを羨ましく思った。
砂漠にいた頃は日差しのキツさにうんざりしたけれど、こうして森の中の木漏れ日の下で浴びる日差しは、とても優しく感じる。まるで傷ついた心を癒してくれるような、柔らかい光だった。
閑散とした森の中で人の気配を探ってみたが、なにも感じなかったので、ドリームの首元を撫でながら話しかける。
「ここで一旦休憩しよう。ドリーム、喉が渇いただろう? 走りっぱなしだったもんな」
よいしょとドリームから降りて、荒れ放題の店内に入り込む。
華奢な調理器具は壊されたが、大型のものには手をつけられていなかったことがラッキーだった。水を溜めているタンクから割れていない食器に水を注ぎ入れ、疲れているであろうドリームの前にそれを置いてやる。
ドリームは長いまつげを上下させながら僕の顔を見、大きなあくびをしたあとに、勢いよく水を飲みだした。
「さて、これからどうやって生活していこうか……」
美味しそうに水を飲むドリームの姿を見つつ、自分も本当はなにかを口にしたかったが、そんな気になれなかった。
裏の仕事は、誰に見られることなくやり遂げることができたのに、表の仕事でこんな目に遭うとは夢にも思わなかった。
あの状況下、医院長から逃げた時点で、僕はアンジェラに危害を加えたお尋ね者になっただろう。それを解消するために、アンジェラにぶつかった中年男性を見つけ、彼らの前に突き出せば僕の無実が証明される。
「捜すしかないか、あの中年男性を――」
チラッとしか見ていないが、服装と顔の特徴は覚えている。中年男性がアンジェラとぶつかったあとに入っていったバーに行き、男のことを訊ねてみようと考えた。
「ドリーム、ちょっと出かけてくる。ここで待っていてくれ」
食器に水を足してドリームの足元に置いたら、いきなり髪の毛を咥えられた。
「ちょっ、ドリーム放してくれ! 痛いじゃないか」
まるで行くなというように、ぐいぐい引っ張る。
「ドリーム、僕はどうしても行かなきゃいけないんだ」
宥めるようにドリームの顎の下を撫でてみたら、前足を使って何度もその場を蹴り上げる。
「もしかしておまえ、連れて行けと言っているのか?」
そう言ったら、前足の動きがピタリととまった。大きな瞳が僕の顔をじっと見つめる。
「さすがは、天使様が用意したラクダだよ。危ない目に遭うかもしれないのに、おまえってヤツは」
太い首にぎゅっと抱きついて、頬擦りした。皮膚に伝わってくる体温が僕よりも低くてひんやりしている。いろんなことを考えすぎて熱暴走している、僕の頭を冷やしてくれているみたいだった。
「わかった、一緒に行こう。店はここに置いて行けばいいか」
ドリームに繋いでいた太い綱を外し、最低限の食料と水を携帯してから、ふたたびあの街に向かった。
馬よりは遅いけど、僕が走るよりは断然速いドリームの足に感謝しつつ、街外れまで駆け抜ける。小一時間ほどで、隣町との国境沿いまで来ることができた。
峠の傍にある森の中に身を隠すことにし、あてのない状態でしばらく奥へと進んでみる。自分が生まれ育った砂漠地帯から離れていくに従い、緑地帯が増えていくことを羨ましく思った。
砂漠にいた頃は日差しのキツさにうんざりしたけれど、こうして森の中の木漏れ日の下で浴びる日差しは、とても優しく感じる。まるで傷ついた心を癒してくれるような、柔らかい光だった。
閑散とした森の中で人の気配を探ってみたが、なにも感じなかったので、ドリームの首元を撫でながら話しかける。
「ここで一旦休憩しよう。ドリーム、喉が渇いただろう? 走りっぱなしだったもんな」
よいしょとドリームから降りて、荒れ放題の店内に入り込む。
華奢な調理器具は壊されたが、大型のものには手をつけられていなかったことがラッキーだった。水を溜めているタンクから割れていない食器に水を注ぎ入れ、疲れているであろうドリームの前にそれを置いてやる。
ドリームは長いまつげを上下させながら僕の顔を見、大きなあくびをしたあとに、勢いよく水を飲みだした。
「さて、これからどうやって生活していこうか……」
美味しそうに水を飲むドリームの姿を見つつ、自分も本当はなにかを口にしたかったが、そんな気になれなかった。
裏の仕事は、誰に見られることなくやり遂げることができたのに、表の仕事でこんな目に遭うとは夢にも思わなかった。
あの状況下、医院長から逃げた時点で、僕はアンジェラに危害を加えたお尋ね者になっただろう。それを解消するために、アンジェラにぶつかった中年男性を見つけ、彼らの前に突き出せば僕の無実が証明される。
「捜すしかないか、あの中年男性を――」
チラッとしか見ていないが、服装と顔の特徴は覚えている。中年男性がアンジェラとぶつかったあとに入っていったバーに行き、男のことを訊ねてみようと考えた。
「ドリーム、ちょっと出かけてくる。ここで待っていてくれ」
食器に水を足してドリームの足元に置いたら、いきなり髪の毛を咥えられた。
「ちょっ、ドリーム放してくれ! 痛いじゃないか」
まるで行くなというように、ぐいぐい引っ張る。
「ドリーム、僕はどうしても行かなきゃいけないんだ」
宥めるようにドリームの顎の下を撫でてみたら、前足を使って何度もその場を蹴り上げる。
「もしかしておまえ、連れて行けと言っているのか?」
そう言ったら、前足の動きがピタリととまった。大きな瞳が僕の顔をじっと見つめる。
「さすがは、天使様が用意したラクダだよ。危ない目に遭うかもしれないのに、おまえってヤツは」
太い首にぎゅっと抱きついて、頬擦りした。皮膚に伝わってくる体温が僕よりも低くてひんやりしている。いろんなことを考えすぎて熱暴走している、僕の頭を冷やしてくれているみたいだった。
「わかった、一緒に行こう。店はここに置いて行けばいいか」
ドリームに繋いでいた太い綱を外し、最低限の食料と水を携帯してから、ふたたびあの街に向かった。
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