24 / 39
23
しおりを挟む
「ドリーム、ありがとう……」
馬よりは遅いけど、僕が走るよりは断然速いドリームの足に感謝しつつ、街外れまで駆け抜ける。小一時間ほどで、隣町との国境沿いまで来ることができた。
峠の傍にある森の中に身を隠すことにし、あてのない状態でしばらく奥へと進んでみる。自分が生まれ育った砂漠地帯から離れていくに従い、緑地帯が増えていくことを羨ましく思った。
砂漠にいた頃は日差しのキツさにうんざりしたけれど、こうして森の中の木漏れ日の下で浴びる日差しは、とても優しく感じる。まるで傷ついた心を癒してくれるような、柔らかい光だった。
閑散とした森の中で人の気配を探ってみたが、なにも感じなかったので、ドリームの首元を撫でながら話しかける。
「ここで一旦休憩しよう。ドリーム、喉が渇いただろう? 走りっぱなしだったもんな」
よいしょとドリームから降りて、荒れ放題の店内に入り込む。
華奢な調理器具は壊されたが、大型のものには手をつけられていなかったことがラッキーだった。水を溜めているタンクから割れていない食器に水を注ぎ入れ、疲れているであろうドリームの前にそれを置いてやる。
ドリームは長いまつげを上下させながら僕の顔を見、大きなあくびをしたあとに、勢いよく水を飲みだした。
「さて、これからどうやって生活していこうか……」
美味しそうに水を飲むドリームの姿を見つつ、自分も本当はなにかを口にしたかったが、そんな気になれなかった。
裏の仕事は、誰に見られることなくやり遂げることができたのに、表の仕事でこんな目に遭うとは夢にも思わなかった。
あの状況下、医院長から逃げた時点で、僕はアンジェラに危害を加えたお尋ね者になっただろう。それを解消するために、アンジェラにぶつかった中年男性を見つけ、彼らの前に突き出せば僕の無実が証明される。
「捜すしかないか、あの中年男性を――」
チラッとしか見ていないが、服装と顔の特徴は覚えている。中年男性がアンジェラとぶつかったあとに入っていったバーに行き、男のことを訊ねてみようと考えた。
「ドリーム、ちょっと出かけてくる。ここで待っていてくれ」
食器に水を足してドリームの足元に置いたら、いきなり髪の毛を咥えられた。
「ちょっ、ドリーム放してくれ! 痛いじゃないか」
まるで行くなというように、ぐいぐい引っ張る。
「ドリーム、僕はどうしても行かなきゃいけないんだ」
宥めるようにドリームの顎の下を撫でてみたら、前足を使って何度もその場を蹴り上げる。
「もしかしておまえ、連れて行けと言っているのか?」
そう言ったら、前足の動きがピタリととまった。大きな瞳が僕の顔をじっと見つめる。
「さすがは、天使様が用意したラクダだよ。危ない目に遭うかもしれないのに、おまえってヤツは」
太い首にぎゅっと抱きついて、頬擦りした。皮膚に伝わってくる体温が僕よりも低くてひんやりしている。いろんなことを考えすぎて熱暴走している、僕の頭を冷やしてくれているみたいだった。
「わかった、一緒に行こう。店はここに置いて行けばいいか」
ドリームに繋いでいた太い綱を外し、最低限の食料と水を携帯してから、ふたたびあの街に向かった。
馬よりは遅いけど、僕が走るよりは断然速いドリームの足に感謝しつつ、街外れまで駆け抜ける。小一時間ほどで、隣町との国境沿いまで来ることができた。
峠の傍にある森の中に身を隠すことにし、あてのない状態でしばらく奥へと進んでみる。自分が生まれ育った砂漠地帯から離れていくに従い、緑地帯が増えていくことを羨ましく思った。
砂漠にいた頃は日差しのキツさにうんざりしたけれど、こうして森の中の木漏れ日の下で浴びる日差しは、とても優しく感じる。まるで傷ついた心を癒してくれるような、柔らかい光だった。
閑散とした森の中で人の気配を探ってみたが、なにも感じなかったので、ドリームの首元を撫でながら話しかける。
「ここで一旦休憩しよう。ドリーム、喉が渇いただろう? 走りっぱなしだったもんな」
よいしょとドリームから降りて、荒れ放題の店内に入り込む。
華奢な調理器具は壊されたが、大型のものには手をつけられていなかったことがラッキーだった。水を溜めているタンクから割れていない食器に水を注ぎ入れ、疲れているであろうドリームの前にそれを置いてやる。
ドリームは長いまつげを上下させながら僕の顔を見、大きなあくびをしたあとに、勢いよく水を飲みだした。
「さて、これからどうやって生活していこうか……」
美味しそうに水を飲むドリームの姿を見つつ、自分も本当はなにかを口にしたかったが、そんな気になれなかった。
裏の仕事は、誰に見られることなくやり遂げることができたのに、表の仕事でこんな目に遭うとは夢にも思わなかった。
あの状況下、医院長から逃げた時点で、僕はアンジェラに危害を加えたお尋ね者になっただろう。それを解消するために、アンジェラにぶつかった中年男性を見つけ、彼らの前に突き出せば僕の無実が証明される。
「捜すしかないか、あの中年男性を――」
チラッとしか見ていないが、服装と顔の特徴は覚えている。中年男性がアンジェラとぶつかったあとに入っていったバーに行き、男のことを訊ねてみようと考えた。
「ドリーム、ちょっと出かけてくる。ここで待っていてくれ」
食器に水を足してドリームの足元に置いたら、いきなり髪の毛を咥えられた。
「ちょっ、ドリーム放してくれ! 痛いじゃないか」
まるで行くなというように、ぐいぐい引っ張る。
「ドリーム、僕はどうしても行かなきゃいけないんだ」
宥めるようにドリームの顎の下を撫でてみたら、前足を使って何度もその場を蹴り上げる。
「もしかしておまえ、連れて行けと言っているのか?」
そう言ったら、前足の動きがピタリととまった。大きな瞳が僕の顔をじっと見つめる。
「さすがは、天使様が用意したラクダだよ。危ない目に遭うかもしれないのに、おまえってヤツは」
太い首にぎゅっと抱きついて、頬擦りした。皮膚に伝わってくる体温が僕よりも低くてひんやりしている。いろんなことを考えすぎて熱暴走している、僕の頭を冷やしてくれているみたいだった。
「わかった、一緒に行こう。店はここに置いて行けばいいか」
ドリームに繋いでいた太い綱を外し、最低限の食料と水を携帯してから、ふたたびあの街に向かった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~
マチバリ
恋愛
美しい見た目ゆえ、領主の養女となったレナ。
有用な道具に仕立てとする厳しい教育や義兄の異常な執着にうんざりしながらも何もかもを諦めて生きていた。
だが、その運命は悪政を働く領主一家を捕えに来た<狼将軍>と呼ばれる男の登場により激変する。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる