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「ありがとう。それでお願いします!」
お客様は、満面の笑みを見せてくれた。
(マリカと似た雰囲気を持っているせいか、彼女にすごく逢いたくなってしまったな……)
「それでは、はじめましてということで、お代は半額で提供させていただきます」
思いきった提案をするとお客様は嬉しそうに、両手で口元を押さえた。
「え? いいの?」
「はい。今月いっぱいはここで商売させてもらいますので、是非ともご贔屓のほどよろしくお願いします」
お客様に新鮮なグレープフルーツを見せながらお願いしたら、深々とおじぎをされてしまった。
「こちらこそよろしくね。私はアンジェラよ。これ、お代」
「ありがとうございます。僕はハサンです。お作りするのにお時間が少々かかりますので、そこにあるパラソルの下でお待ちください」
左手でパラソルを指し示して誘導する。アンジェラは適度に大きなお腹を擦りながらパラソルの下に移動して、椅子に腰かけた。
朝一で仕入れた果物を見ながら、妊婦のアンジェラに良さげなフルーツを見繕い、さっぱりした味を目指して、美味しいジュースを作りあげていく。こういう地味な作業が、実は好きだった。
透明なカップにできたてのジュースを注ぎ、蓋をしてストローをさす。そしてアンジェラのもとに急いだ。
「お待たせしました。どうぞ!」
中身が淡いピンク色のジュースを手渡し、お辞儀をしながら一歩退く。
「わぁ、見た目も綺麗。ありがとうハサン」
アンジェラはまじまじとジュースを見たあと、ストローからゆっくり中身を飲む。
「うん、想像以上にさっぱりしてる。ぐびぐび飲めちゃいそう」
「それは良かったです」
「あまりの美味しさに、お腹の赤ちゃんがグルグル動いてるわ」
お腹を擦りながら笑うアンジェラの姿に、喜んでもらえてよかったと、心の底からホッとした。
(こんな日常が毎日、ずっと送れたらいいのに――)
「お兄さんは、どこから来たの?」
不意にアンジェラから話しかけられてしまい、一瞬だけ言葉に詰まった。
「え、えっとですね、先週まで隣町で仕事をしてました」
「隣町って、今噂になってるところじゃない」
「噂?」
僕が首を傾げると、神妙な面持ちでアンジェラは説明をはじめた。
「悪徳高利貸しの一家が部下を含めて、屋敷の中でみんな死んでたって。全員が病死みたいな死に方をしてるけど、原因は不明みたいよ」
悪徳高利貸しというワードで、自分が裏でおこなったことを思い出し、弾んでいた気分が一気に急降下した。
「そういえば、なんか騒ぎがありました……」
「ほかにも似たような死に方をしてる人が多数いるみたいで、ミステリーだって噂になってるわ」
「女性はそういう噂話が好きですよね」
この暗い話題が変わらないかなと思いながら、なんとか口を開く。
「ふふっ、暇してると話題は噂話ばかりになっちゃうし、ネタを探しちゃうのよね」
「噂話のついでに、ウチの搾りたてのジュースが美味しかったことを広めていただけると助かります」
「もちろん! 私自身、ご近所にいる友達から話を聞いて、ここに来たんですもの。体に良さそうなジュースだからこそ、妊婦友達に広めるわ」
フレンドリーなアンジェラのおかげで、いろんな話をした。おかげで、この町の表側の部分を教えてもらうことに成功。有名な人物の名前も出てきたので、そこから裏ルートを探ろうと考えた。
お客様は、満面の笑みを見せてくれた。
(マリカと似た雰囲気を持っているせいか、彼女にすごく逢いたくなってしまったな……)
「それでは、はじめましてということで、お代は半額で提供させていただきます」
思いきった提案をするとお客様は嬉しそうに、両手で口元を押さえた。
「え? いいの?」
「はい。今月いっぱいはここで商売させてもらいますので、是非ともご贔屓のほどよろしくお願いします」
お客様に新鮮なグレープフルーツを見せながらお願いしたら、深々とおじぎをされてしまった。
「こちらこそよろしくね。私はアンジェラよ。これ、お代」
「ありがとうございます。僕はハサンです。お作りするのにお時間が少々かかりますので、そこにあるパラソルの下でお待ちください」
左手でパラソルを指し示して誘導する。アンジェラは適度に大きなお腹を擦りながらパラソルの下に移動して、椅子に腰かけた。
朝一で仕入れた果物を見ながら、妊婦のアンジェラに良さげなフルーツを見繕い、さっぱりした味を目指して、美味しいジュースを作りあげていく。こういう地味な作業が、実は好きだった。
透明なカップにできたてのジュースを注ぎ、蓋をしてストローをさす。そしてアンジェラのもとに急いだ。
「お待たせしました。どうぞ!」
中身が淡いピンク色のジュースを手渡し、お辞儀をしながら一歩退く。
「わぁ、見た目も綺麗。ありがとうハサン」
アンジェラはまじまじとジュースを見たあと、ストローからゆっくり中身を飲む。
「うん、想像以上にさっぱりしてる。ぐびぐび飲めちゃいそう」
「それは良かったです」
「あまりの美味しさに、お腹の赤ちゃんがグルグル動いてるわ」
お腹を擦りながら笑うアンジェラの姿に、喜んでもらえてよかったと、心の底からホッとした。
(こんな日常が毎日、ずっと送れたらいいのに――)
「お兄さんは、どこから来たの?」
不意にアンジェラから話しかけられてしまい、一瞬だけ言葉に詰まった。
「え、えっとですね、先週まで隣町で仕事をしてました」
「隣町って、今噂になってるところじゃない」
「噂?」
僕が首を傾げると、神妙な面持ちでアンジェラは説明をはじめた。
「悪徳高利貸しの一家が部下を含めて、屋敷の中でみんな死んでたって。全員が病死みたいな死に方をしてるけど、原因は不明みたいよ」
悪徳高利貸しというワードで、自分が裏でおこなったことを思い出し、弾んでいた気分が一気に急降下した。
「そういえば、なんか騒ぎがありました……」
「ほかにも似たような死に方をしてる人が多数いるみたいで、ミステリーだって噂になってるわ」
「女性はそういう噂話が好きですよね」
この暗い話題が変わらないかなと思いながら、なんとか口を開く。
「ふふっ、暇してると話題は噂話ばかりになっちゃうし、ネタを探しちゃうのよね」
「噂話のついでに、ウチの搾りたてのジュースが美味しかったことを広めていただけると助かります」
「もちろん! 私自身、ご近所にいる友達から話を聞いて、ここに来たんですもの。体に良さそうなジュースだからこそ、妊婦友達に広めるわ」
フレンドリーなアンジェラのおかげで、いろんな話をした。おかげで、この町の表側の部分を教えてもらうことに成功。有名な人物の名前も出てきたので、そこから裏ルートを探ろうと考えた。
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