18 / 39
17
しおりを挟む
☆☆彡.。
両親の暮らす見慣れた質素なテント前に到着したのは、夜明け前だった。いつものように中に入ると、テントの隅っこで仲良く並んで寝ている姿が目に留まる。
僕はチョーカーを首から外しながら、ベッドの上に横たわる彼らに近づいた。
「父さん、起きて。父さん!」
声をかけながら体を強く揺さぶると、眠そうな顔で僕を見上げる。
「んあ? なんだこんな夜更けに」
「これを見てほしいんだ」
考える隙を与えずに、目の前に赤い石を見せつけた瞬間、父さんは苦しげな顔をしながら胸元を押さえて、そのまま白目を剥いて絶命する。やけにあっさりした死を目の前にしたせいか、妙に落ち着いていられた。
「母さん、起きて大変だ。父さんが変なんだ」
今度は隣で寝てる母さんの体に手をかけて、ゆさゆさ揺り起こす。
「うるさいね、まったく。父さんがどうしたんだい?」
「これを見て……」
起き上がって眠そうに目を擦る母さんの顔の前に、赤い石を掲げた。隣で死んでる父さんを見る前に、母さんは必然的にそれを見ることになる。
すると父さんと同じように胸元を握りしめ、くたっとベッドに倒れ込んだ。やがてふたりの口元から白い煙が出てきて、光り輝く真っ白な玉になった。
僕の足元に音のなく現れた黒い箱に、ふたつの玉が勢いよく吸い込まれ、蓋がゆっくり閉じられる。漆黒の箱の蓋の上部に『2』という数字が金色で浮かびあがった。
「おめでとう、ハサン」
「ヒッ!」
背後からかけられた声に驚き、変な声を出して飛び上がってしまった。恐るおそる振り返ると、男の子がテントの中にいた。
「俺の力を引き継ぎ、夢に向けて進むんだな」
「僕の夢……?」
「めでたい門出に、なにかプレゼントしてやろう。好きなものを言ってみろ、用意してやるぞ?」
「用意してやるぞと言われても――」
自分が殺めた両親を前にしてるのに、罪悪感がまったく沸き起こらない。むしろスッキリした感があるのは、これから彼らに虐げられることなく、自由に生きていけることが理由だろう。
「僕としては両親を殺した以上、この土地に長居することはできません。外にある店を移動できるように、改造することは可能でしょうか?」
このあと、僕がしなければならないこと――そして自分の夢を叶えるために、人を殺め続けなければならないことなど、頭の中でいろいろ思考する。
「おもしろいことを考えたな。改造については、今日半日時間をくれ。やってみせよう」
「ありがとうございます。僕はこれから、両親を共同墓地に埋葬してきます」
身寄りがなかったりお金のない平民の墓地は、大抵共同で埋葬されることになっていた。
隣近所との付き合いもほとんどなく、彼らが仲がいいのは、酒場に出入りしているアルコール依存症の人や賭博所に通うギャンブラーばかり。いきなり両親が消えたところで、悲しむ人はもちろん、怪しむ人は誰もいないと思った。
淡々と両親の遺体の埋葬を終えたタイミングで、男の子がひょっこり現れる。
「ラクダで店を移動できるように、うまいこと作ってやったぞ。とりあえず確認してみてくれ」
得意げに言った男の子に導かれて、店のある場所に赴くと、そこは建物が綺麗さっぱりなくなっていて、大きな荷車がついた店舗と、それを引くラクダがあるだけだった。
「中で飲み食いできなくなったが、折り畳みできるパラソル付きのテーブルと椅子を3セット天井にくっつけておいた。調理するスペースももとの店舗と、同じくらいの広さにしておいたが大丈夫か?」
荷車に乗り込みながら説明を受けつつ、あちこちチェックしてみた。
「至れり尽くせりと言ったところです。ありがとうございました」
新品のシンクに触れてお礼を告げたら、男の子は胸の前に両腕を組み、にんまり笑った。
「何年かかるかわからないが、おまえがやりきることを期待してる。がんばれよ」
男の子が小さく右手をあげた瞬間、足元から黒い霧のようなものが現れ、それに紛れる感じでいなくなってしまった。
「本当に何年かかるんだろうな……。でもやるしかないんだ、マリカを手に入れるために」
店舗から勢いよく飛び出し、ラクダに跨ってあてのない旅路に出発する。住み慣れた土地から離れることは寂しかったけど、天使の翼を手に入れるためにまっすぐ前に進み続けた。
両親の暮らす見慣れた質素なテント前に到着したのは、夜明け前だった。いつものように中に入ると、テントの隅っこで仲良く並んで寝ている姿が目に留まる。
僕はチョーカーを首から外しながら、ベッドの上に横たわる彼らに近づいた。
「父さん、起きて。父さん!」
声をかけながら体を強く揺さぶると、眠そうな顔で僕を見上げる。
「んあ? なんだこんな夜更けに」
「これを見てほしいんだ」
考える隙を与えずに、目の前に赤い石を見せつけた瞬間、父さんは苦しげな顔をしながら胸元を押さえて、そのまま白目を剥いて絶命する。やけにあっさりした死を目の前にしたせいか、妙に落ち着いていられた。
「母さん、起きて大変だ。父さんが変なんだ」
今度は隣で寝てる母さんの体に手をかけて、ゆさゆさ揺り起こす。
「うるさいね、まったく。父さんがどうしたんだい?」
「これを見て……」
起き上がって眠そうに目を擦る母さんの顔の前に、赤い石を掲げた。隣で死んでる父さんを見る前に、母さんは必然的にそれを見ることになる。
すると父さんと同じように胸元を握りしめ、くたっとベッドに倒れ込んだ。やがてふたりの口元から白い煙が出てきて、光り輝く真っ白な玉になった。
僕の足元に音のなく現れた黒い箱に、ふたつの玉が勢いよく吸い込まれ、蓋がゆっくり閉じられる。漆黒の箱の蓋の上部に『2』という数字が金色で浮かびあがった。
「おめでとう、ハサン」
「ヒッ!」
背後からかけられた声に驚き、変な声を出して飛び上がってしまった。恐るおそる振り返ると、男の子がテントの中にいた。
「俺の力を引き継ぎ、夢に向けて進むんだな」
「僕の夢……?」
「めでたい門出に、なにかプレゼントしてやろう。好きなものを言ってみろ、用意してやるぞ?」
「用意してやるぞと言われても――」
自分が殺めた両親を前にしてるのに、罪悪感がまったく沸き起こらない。むしろスッキリした感があるのは、これから彼らに虐げられることなく、自由に生きていけることが理由だろう。
「僕としては両親を殺した以上、この土地に長居することはできません。外にある店を移動できるように、改造することは可能でしょうか?」
このあと、僕がしなければならないこと――そして自分の夢を叶えるために、人を殺め続けなければならないことなど、頭の中でいろいろ思考する。
「おもしろいことを考えたな。改造については、今日半日時間をくれ。やってみせよう」
「ありがとうございます。僕はこれから、両親を共同墓地に埋葬してきます」
身寄りがなかったりお金のない平民の墓地は、大抵共同で埋葬されることになっていた。
隣近所との付き合いもほとんどなく、彼らが仲がいいのは、酒場に出入りしているアルコール依存症の人や賭博所に通うギャンブラーばかり。いきなり両親が消えたところで、悲しむ人はもちろん、怪しむ人は誰もいないと思った。
淡々と両親の遺体の埋葬を終えたタイミングで、男の子がひょっこり現れる。
「ラクダで店を移動できるように、うまいこと作ってやったぞ。とりあえず確認してみてくれ」
得意げに言った男の子に導かれて、店のある場所に赴くと、そこは建物が綺麗さっぱりなくなっていて、大きな荷車がついた店舗と、それを引くラクダがあるだけだった。
「中で飲み食いできなくなったが、折り畳みできるパラソル付きのテーブルと椅子を3セット天井にくっつけておいた。調理するスペースももとの店舗と、同じくらいの広さにしておいたが大丈夫か?」
荷車に乗り込みながら説明を受けつつ、あちこちチェックしてみた。
「至れり尽くせりと言ったところです。ありがとうございました」
新品のシンクに触れてお礼を告げたら、男の子は胸の前に両腕を組み、にんまり笑った。
「何年かかるかわからないが、おまえがやりきることを期待してる。がんばれよ」
男の子が小さく右手をあげた瞬間、足元から黒い霧のようなものが現れ、それに紛れる感じでいなくなってしまった。
「本当に何年かかるんだろうな……。でもやるしかないんだ、マリカを手に入れるために」
店舗から勢いよく飛び出し、ラクダに跨ってあてのない旅路に出発する。住み慣れた土地から離れることは寂しかったけど、天使の翼を手に入れるためにまっすぐ前に進み続けた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~
マチバリ
恋愛
美しい見た目ゆえ、領主の養女となったレナ。
有用な道具に仕立てとする厳しい教育や義兄の異常な執着にうんざりしながらも何もかもを諦めて生きていた。
だが、その運命は悪政を働く領主一家を捕えに来た<狼将軍>と呼ばれる男の登場により激変する。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる