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「おまえに俺の力を分け与えるには、エネルギーが必要なんだ。その養分が人の命になる」
「人の生命なんて奪ってしまったら、その人が死んでしまうじゃないですか!」
当たり前のことを言ったのに、天使様は冷ややかに笑いながら、ご自分の胸に手を当てて僕に語りかける。
「それだけ、この俺の力が絶大ということだ。欲しくはないか? もれなく好きな女と、希望のところに飛んでいくことができるぞ?」
男の子の瞳が茶色から赤い色に変わり、僕の目を引きつけた。
(どうしてだろう。このコから目が離せない――)
「ハサン、俺の仲間になれ。愛するマリカを手に入れたいだろう?」
「君は……なんで僕の名前やマリカの、ことを……」
天使様は赤い色の瞳を隠すように、糸目になる。
「それは天使様だからさ、なんでもお見通しだってことだ。天使様は優しいからな、かわいそうなおまえの恋を叶えてやりたいと思うのは、当然のことだろう?」
「僕の恋――」
「おまえの恋を成就させるために人の命を奪うなど、どうってことはない。とりあえず、大きな通りに出るぞ。ついて来い」
天使様は羽を隠し、僕の利き手を掴むと、急ぎ足でメインストーリートに向かった。すると向こう側の角から、足のおぼつかない酔っ払いのおじさんがタイミングよく出て来た。
「おまえはここで、俺のすることを見ていろ」
男の子は僕と繋いでいた手を放し、小走りでおじさんのもとに向かう。おじさんは男の子の存在にすぐに気付き、その場に立ち止まる。
「こんなべっぴんが俺に用とか、アレだろ? いいことしてくれんのか?」
「喜べ、いいことしてあげてもいいぞ」
おじさんの目には、男の子は女性に見えているのがセリフでわかったのだが、僕の目にはどう見ても、天使様は男の子にしか見えない。
「ぐひひひ、今すぐそこの物陰でいいことしてもいいんだぜ、だから安くしろよ?」
「安くしてあげるから、この眼を見ろ」
横顔からもわかる男の子の瞳が赤さを増し、おじさんを魅了した。すると次の瞬間にはおじさんは足元から崩れ、ゴム人形のように力なく倒れてしまった。
「ハサン、こっちに来い」
振り向いた男の子が僕を呼んだので、急ぎ足で向かうと、倒れているおじさんの口から、真っ白な煙がゆったりと出始める。
「この煙が魂さ。そのまま見ていろ」
天に向かって出続ける煙が僕の目の高さになったら、光り輝く丸い玉に変化した。それを見計らったように、真っ黒な箱が音もなく地面から現れ、蓋を大きく開けた。
「俺の眼を見た男の心臓をとめた。だから簡単に命を奪うことができたんだ」
光り輝く真っ白な玉は、黒い箱の中に吸い込まれ、蓋が閉じられるとその光を一瞬でなくした。
「こうして命を集め、エネルギーに変えて、おまえに分け与えてやることになる」
男の子は両手を合わせて、なにか呪文を唱える。合わせた手の隙間が金色に光った。
「ハサン、これをおまえに授けてやる。ここに跪け」
そう言った男の子の手には、黒い革紐とつながった、歪な形をした赤黒い石が握られていた。得も言われぬ禍々しさを感じさせるそれを見たせいか、男の子の言うことを聞けず、立ち竦んでしまう。
「なぜ躊躇う? 愛するマリカと一緒になりたくないのか?」
「その石はなんですか?」
質問を質問で返した僕に、男の子は笑いながら答える。
「これは俺の眼と同じ力を持っている。さっき俺が言ったように、この石を見るように命令した相手の心臓をとめることのできるアイテムだ」
男の子はぎょっとすることを言いながら、僕の手に無理やり石を押しつけた。僕の手に触れた瞬間、石は白く輝いたあとに、もっている色を変える。
「綺麗な赤……」
思わず声に出てしまうくらいに、透明感のある赤い色がとても綺麗だった。
「人の生命なんて奪ってしまったら、その人が死んでしまうじゃないですか!」
当たり前のことを言ったのに、天使様は冷ややかに笑いながら、ご自分の胸に手を当てて僕に語りかける。
「それだけ、この俺の力が絶大ということだ。欲しくはないか? もれなく好きな女と、希望のところに飛んでいくことができるぞ?」
男の子の瞳が茶色から赤い色に変わり、僕の目を引きつけた。
(どうしてだろう。このコから目が離せない――)
「ハサン、俺の仲間になれ。愛するマリカを手に入れたいだろう?」
「君は……なんで僕の名前やマリカの、ことを……」
天使様は赤い色の瞳を隠すように、糸目になる。
「それは天使様だからさ、なんでもお見通しだってことだ。天使様は優しいからな、かわいそうなおまえの恋を叶えてやりたいと思うのは、当然のことだろう?」
「僕の恋――」
「おまえの恋を成就させるために人の命を奪うなど、どうってことはない。とりあえず、大きな通りに出るぞ。ついて来い」
天使様は羽を隠し、僕の利き手を掴むと、急ぎ足でメインストーリートに向かった。すると向こう側の角から、足のおぼつかない酔っ払いのおじさんがタイミングよく出て来た。
「おまえはここで、俺のすることを見ていろ」
男の子は僕と繋いでいた手を放し、小走りでおじさんのもとに向かう。おじさんは男の子の存在にすぐに気付き、その場に立ち止まる。
「こんなべっぴんが俺に用とか、アレだろ? いいことしてくれんのか?」
「喜べ、いいことしてあげてもいいぞ」
おじさんの目には、男の子は女性に見えているのがセリフでわかったのだが、僕の目にはどう見ても、天使様は男の子にしか見えない。
「ぐひひひ、今すぐそこの物陰でいいことしてもいいんだぜ、だから安くしろよ?」
「安くしてあげるから、この眼を見ろ」
横顔からもわかる男の子の瞳が赤さを増し、おじさんを魅了した。すると次の瞬間にはおじさんは足元から崩れ、ゴム人形のように力なく倒れてしまった。
「ハサン、こっちに来い」
振り向いた男の子が僕を呼んだので、急ぎ足で向かうと、倒れているおじさんの口から、真っ白な煙がゆったりと出始める。
「この煙が魂さ。そのまま見ていろ」
天に向かって出続ける煙が僕の目の高さになったら、光り輝く丸い玉に変化した。それを見計らったように、真っ黒な箱が音もなく地面から現れ、蓋を大きく開けた。
「俺の眼を見た男の心臓をとめた。だから簡単に命を奪うことができたんだ」
光り輝く真っ白な玉は、黒い箱の中に吸い込まれ、蓋が閉じられるとその光を一瞬でなくした。
「こうして命を集め、エネルギーに変えて、おまえに分け与えてやることになる」
男の子は両手を合わせて、なにか呪文を唱える。合わせた手の隙間が金色に光った。
「ハサン、これをおまえに授けてやる。ここに跪け」
そう言った男の子の手には、黒い革紐とつながった、歪な形をした赤黒い石が握られていた。得も言われぬ禍々しさを感じさせるそれを見たせいか、男の子の言うことを聞けず、立ち竦んでしまう。
「なぜ躊躇う? 愛するマリカと一緒になりたくないのか?」
「その石はなんですか?」
質問を質問で返した僕に、男の子は笑いながら答える。
「これは俺の眼と同じ力を持っている。さっき俺が言ったように、この石を見るように命令した相手の心臓をとめることのできるアイテムだ」
男の子はぎょっとすることを言いながら、僕の手に無理やり石を押しつけた。僕の手に触れた瞬間、石は白く輝いたあとに、もっている色を変える。
「綺麗な赤……」
思わず声に出てしまうくらいに、透明感のある赤い色がとても綺麗だった。
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