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番外編
臥龍岡全のボヤキ
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副編集長のデスク前に佇む一ノ瀬が、サラリと大事なことを告げた。
「はぁあ? プロポーズ大成功したら、妊娠しちゃたですって!?」
オネエ言葉まじりの素っ頓狂な驚きの声がデカすぎて、その場にいる編集部のメンバーは、一ノ瀬のめでたい近況を知った。心の中で盛大な拍手を贈るが、おめでとうというお祝いの言葉を送りたかったものの、副編集長に睨まれるのが怖くて、誰もできない。
「この一ノ瀬がパパになるなんてアメージング。信じられないわよ」
両手の人差し指で友人のことを指差す副編集長を、一ノ瀬は胸を張って見下ろす。
「ま、結果オーライだろ」
「あんたの顔見てわかっちゃった。さては私の脅しが現実化しないように、細工して妊娠させたんでしょ!」
「そんなこと……。たまたまだって」
「嘘がつけない性格なんだから。どんだけ自分に自信がないのよ」
核心を突かれた一ノ瀬は、げんなりした顔で大きなため息をついた。
「だって千草がかわいいし、頼もしいしで、本当に心配だったんだ」
「ほほぅ。子種のこと、ちゃんと種明かししたんでしょうね」
指を差していた手を引っ込め、頬杖をつきながら一ノ瀬を見上げる副編集長の脅しは怖いと、周りは震えながら見守る。
「さっきアキラが言ったろ、俺は嘘がつけないって。すぐに看破された」
「さすがね。それにしても彼女、悪阻は大丈夫なの? そんな状態で仕事してるでしょ?」
一ノ瀬が素直にゲロったことで、副編集長は態度を180度変えて、柔らかいものにした。
「空腹になると気持ち悪いって言ってる。食べすぎて体重増えるとヤバいから、常にガムを食べてやり過ごしているさ」
「体重管理は大変だけど、あんたの彼女はしっかりしてるから大丈夫でしょ」
「病院に行った後に、エコーの写真を見せてもらったら、ベビたんがちょっとずつ大きくなってるのが感動できる」
「ベビたん……」
真面目な友人の口から意外な言葉が出たことに、副編集長は思いっきり口元を歪ませた。
「名前は生まれてから決めようって、彼女と相談したんだ。だから仮の名は、ベビたんにすることにした」
「誰が考えたの?」
「俺!」
元気よく答えた一ノ瀬を見、副編集長は両手で自分の体を抱きしめながら震える。
「彼女、嫌がらなかった?」
「かわいらしくていいって言ってたけど、変か?」
「あんたが考えたっていうのが、なんか似合わなくて。かなりキショいとしか言えないわね」
「白鳥よりはいいだろ。結婚もまだなのに、10人分の子どもの名前を決めて、ウキウキしてたんだからさ」
副編集長はうんと嫌そうな表情を浮かべて無言を貫き、考える素振りをしたものの、素直に気持ちを告げることにした。
「どっちもどっちよ、まったく。頭の中がお花畑になってるんだから」
言いながら、目の前に右手を差し出した。
「なんだよ?」
「おめでとう! これから父親になるんだから精一杯頑張って、家族を養ってあげなさいな」
一ノ瀬は友人からのお祝いのセリフに満面の笑みで応え、がっちりとした握手を交わす。
「ありがとう。そんで白鳥が抜けた穴が塞ぎきれない話を、小耳に挟んだんだけど、今ならフォローする時間があるぞ」
「パパになると、やる気が満ち溢れるみたいね。いつもならどこかに雲隠れして、ノータッチを貫く一ノ瀬が……」
「副編集長様に精一杯頑張れと言われた手前、きちんと実行しなきゃ、あとが怖いしな」
「感謝するわ。ここに行ってちょうだい、小寺とバトンタッチしてほしいの。詳しいことは彼に聞いて」
メモに必要事項を手早く記入して一ノ瀬に渡すと、弾んだ足取りで編集部を出て行く。昔ならその隣に自分がいたハズなのにと、副編集長はこっそり寂しく思った。
「あーあ、今度はパパとしての心構えを、一ノ瀬に教えてやらなきゃならないのね。私ってばたいへーん!」
カラ元気で仕事に手をつけはじめた副編集長を支えるべく、編集部にいるメンバー全員が一丸となって仕事に邁進したのは、言うまでもない!
おしまい!
「はぁあ? プロポーズ大成功したら、妊娠しちゃたですって!?」
オネエ言葉まじりの素っ頓狂な驚きの声がデカすぎて、その場にいる編集部のメンバーは、一ノ瀬のめでたい近況を知った。心の中で盛大な拍手を贈るが、おめでとうというお祝いの言葉を送りたかったものの、副編集長に睨まれるのが怖くて、誰もできない。
「この一ノ瀬がパパになるなんてアメージング。信じられないわよ」
両手の人差し指で友人のことを指差す副編集長を、一ノ瀬は胸を張って見下ろす。
「ま、結果オーライだろ」
「あんたの顔見てわかっちゃった。さては私の脅しが現実化しないように、細工して妊娠させたんでしょ!」
「そんなこと……。たまたまだって」
「嘘がつけない性格なんだから。どんだけ自分に自信がないのよ」
核心を突かれた一ノ瀬は、げんなりした顔で大きなため息をついた。
「だって千草がかわいいし、頼もしいしで、本当に心配だったんだ」
「ほほぅ。子種のこと、ちゃんと種明かししたんでしょうね」
指を差していた手を引っ込め、頬杖をつきながら一ノ瀬を見上げる副編集長の脅しは怖いと、周りは震えながら見守る。
「さっきアキラが言ったろ、俺は嘘がつけないって。すぐに看破された」
「さすがね。それにしても彼女、悪阻は大丈夫なの? そんな状態で仕事してるでしょ?」
一ノ瀬が素直にゲロったことで、副編集長は態度を180度変えて、柔らかいものにした。
「空腹になると気持ち悪いって言ってる。食べすぎて体重増えるとヤバいから、常にガムを食べてやり過ごしているさ」
「体重管理は大変だけど、あんたの彼女はしっかりしてるから大丈夫でしょ」
「病院に行った後に、エコーの写真を見せてもらったら、ベビたんがちょっとずつ大きくなってるのが感動できる」
「ベビたん……」
真面目な友人の口から意外な言葉が出たことに、副編集長は思いっきり口元を歪ませた。
「名前は生まれてから決めようって、彼女と相談したんだ。だから仮の名は、ベビたんにすることにした」
「誰が考えたの?」
「俺!」
元気よく答えた一ノ瀬を見、副編集長は両手で自分の体を抱きしめながら震える。
「彼女、嫌がらなかった?」
「かわいらしくていいって言ってたけど、変か?」
「あんたが考えたっていうのが、なんか似合わなくて。かなりキショいとしか言えないわね」
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副編集長はうんと嫌そうな表情を浮かべて無言を貫き、考える素振りをしたものの、素直に気持ちを告げることにした。
「どっちもどっちよ、まったく。頭の中がお花畑になってるんだから」
言いながら、目の前に右手を差し出した。
「なんだよ?」
「おめでとう! これから父親になるんだから精一杯頑張って、家族を養ってあげなさいな」
一ノ瀬は友人からのお祝いのセリフに満面の笑みで応え、がっちりとした握手を交わす。
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「副編集長様に精一杯頑張れと言われた手前、きちんと実行しなきゃ、あとが怖いしな」
「感謝するわ。ここに行ってちょうだい、小寺とバトンタッチしてほしいの。詳しいことは彼に聞いて」
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「あーあ、今度はパパとしての心構えを、一ノ瀬に教えてやらなきゃならないのね。私ってばたいへーん!」
カラ元気で仕事に手をつけはじめた副編集長を支えるべく、編集部にいるメンバー全員が一丸となって仕事に邁進したのは、言うまでもない!
おしまい!
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