純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

これから一緒にいるために3

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「今日は千草の写真を撮りたいんだけど、いい?」

「えー……。写真映りよくないから、顔は嫌かな」

 立ち上がった成臣くんを見上げながら告げたら、顎に手を当てて少し考えたあと、小さく頷いた。

「わかった。じゃあさっきのように、川に手を入れてみて」

 的確な指示のもと、利き手を冷たい水の中に入れてみる。成臣くんはそれを見ながらカメラを近付けたり離したりして何枚か撮り、なぜか辺りをキョロキョロした。

「反対の手も入れてみてくれ。川の水を掬う感じで」

 言われたとおりにしたら、視界から一瞬消えた成臣くんが、なにかを手にして戻ってくる。そして私が掬っている水の中に、白くて小さな花と緑色の紅葉の葉をそっと浮かばせた。

 掬った川の水に、木陰の隙間から入り込む陽の光が乱反射して、きらきら煌めいてる。成臣くんが用意した小物が、いい感じにライトアップされることで、なにかのポスターみたいな見た目になった。

「成臣くん、すごい!」

「まだちょっと物足りない」

 そう言って、浮かべた花と紅葉の葉を取り上げ、ついでに私の右手も掴み、それを握らせると、今度は反対の手をぎゅっと握りしめる。

 川の水に入れていたせいで、結構冷たくなっていることを、あたたかい成臣くんの手のぬくもりで知った。

「成臣くん、どうしたの?」

 キョトンとする私を尻目に、成臣くんはポケットからゴソゴソなにかを取り出し、濡れた左手の薬指に指輪を素早く嵌めた。

「えっ?」

「千草、結婚しよう」

「へっ!?」

「俺には千草しかいない。こんな俺を好きになってくれるのも、千草しかいない」

 片手に花と紅葉の葉を持ち、もう片方の手は成臣くんに握りしめられた今の私は、すごくマヌケな顔をしてるかも。プロポーズされたのに、それが突然すぎて現実味がない。

「千草はかわいいし、気が利くし、仕事だってできるし、非の打ち所のない彼女と俺じゃあ、月とすっぽんかもしれないけどさ」

「ちょっと待って……」

「モテる千草を俺のものにするには、これが一番なんかじゃないかと思って」

「成臣くん、ちょっとストップ!」

 掴まれた左手を揺さぶって、喋りつづける成臣くんの言葉をとめた。

「千草?」

「成臣くんがなにを言ってるのか、全然わからない。まずは私、モテないから」

「なんで? こんなにかわいいのに?」

 信じられないものを見る目で眺められても、正直困ってしまう。アバタもえくぼ状態になってること、きっと気づいていないんだろうな。

「かわいいと思ってくれるのは、成臣くんだけよ。会社では私、アイアンマン村田って言われてるんだから」

「アイアンマン?」

「社内で上條良平の横領を白状させようとしたときに、会議室で暴れられて、取り押さえようとしたんだけど、それを男性社員数人でとめられちゃって、逃げられちゃったの。私だったら上條良平ひとりくらいならなんとかできたのにって、怒りにまかせてパイプ椅子をへし折ったら、そんなあだ名をつけられて、恐れられる存在になったというわけ」

 モテない現状を懇切丁寧に説明した途端に、納得するように目を何度も瞬かせた成臣くん。

「俺の彼女はかわいいだけじゃなく、こんなにも勇敢で強いとは。ますます月とすっぽんじゃないか」

 呆れられると思ったのに、なぜか高評価されてしまい、どんな顔していいのかわからなくなってしまった。
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