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番外編
自立するために2
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***
俺が編集部に顔を出すことができたのは、抱えていた仕事がひと段落したのもあったけど、これからのことを誰かに相談したくて、ここに来てしまった感があった。
自分のデスクに腰をおろし、パソコンを起動しようと顔をあげたら、副編集長と目が合う。真顔というよりも、どこか怒ったように見えるその表情で、俺がなにかやらかしたのが自然とわかってしまった。
注がれるまなざしに導かれるように、副編集長のデスクに足を運ぶ。
「おはようございます。あの……」
「相変わらずしけたツラしてるのね。ちょっと隣のミーティングルームに移動するわよ」
顎で隣を指し示し、颯爽と先に部署を出て行く大きな背中を、まじまじと見つめてしまった。俺はいつになったら、ああいうふうに仕事のできる大人になれるんだろうと、思わずにはいられない。
ミーティングルームの扉を閉めたと同時に振り返る副編集長。
「ウチにいるメンバーはね、一応精鋭揃いなの。編集長はライバル雑誌フォーカス ショットの元副編集長だしね」
「はい……」
その精鋭揃いのところに、俺みたいなのが在籍させてもらってるだけでもありがたかった。
「私が副編集長をまかされるようになってからは、さらに磨きをかけたつもりよ。中途半端な仕事をするヤツなんて言語道断。一度でもトラブルを起こしたら、ここを出て行ってもらってる。二度はないのよ」
そのセリフで、最近異動した若槻さんを思い出す。ここでやっていく厳しさを知っているゆえに、みずからここを出て行ったのをあとから知った。
あらためて背筋を伸ばして、目の前にいる副編集長を見下ろす。
「そうしてメンバーのクオリティを維持してるの。アンタひとりがいなくなったって、こっちはぜんぜん困らないというわけよ」
「副編集長……」
まだなにも言ってないのに、こんなことを言われてしまったら、ここに残りたいと言いづらくなってしまう。
「冴木商事、大変だったようね」
言い淀む俺に、いきなり本題をぶつけられてしまった。
「はい。よくご存知で」
重い口を開くと「あーあ、まったくもう!」なんて苛立った声をあげて、腰に手を当てながら、大きなため息を吐かれてしまった。
「私を誰だと思ってるの。なにかあったときのために、メンバーの実家のことくらい、把握して当然でしょ。会社経営してたら尚のこと、株価の値動きくらいチェックするわよ」
副編集長は持っていたファイルを、目の前に掲げる。ファイルには『冴木商事』というラベルが貼られていて、中になにかの書類が挟められているのが見てとれた。
「冴木商事は、白鳥の亡くなったおじいさんが経営していた会社だったのね。それを長男のお父さんが社長で、次男の叔父さんが副社長として経営を引き継いだ」
「そうです。おじいさんからまかされた会社を経営するのに、ふたりとも仲良くしていると俺は思ってました」
「よくある話よ。お家騒動なんて。金銭欲が絡むことだから、ドロドロした骨肉の争いになること間違いなし」
持っていたファイルを引っ込めて、副編集長は鋭いまなざしを俺に向ける。
「誰でも知ってるような大企業ならネタとして、雑誌に掲載するところなんだけど、中小企業程度じゃたかがしれてるの。だけど火消が早く済んでよかったわね」
「株の買い占めに早く気づけたことが、難を逃れるキッカケになったのは間違いないです」
言いながら両手をぎゅっと握りしめる。今回のことを調べていくうちに、父さんがどれだけ苦労して、会社を経営していたのか痛いくらいにわかった。
仲良く経営しているように思ったのは俺の想像の話で、実際は経営方針の違う兄弟間の間柄を表すように、社長派と副社長派で分かれていた。しかも副社長派には彼の息子も加わっているらしく、社内で後押しする動きもあったようだ。
「白鳥のお父さんは仕事のできる人でしょうけど、周りの人にもたくさん助けてもらったんでしょうね」
「はい、そう思います」
俺が編集部に顔を出すことができたのは、抱えていた仕事がひと段落したのもあったけど、これからのことを誰かに相談したくて、ここに来てしまった感があった。
自分のデスクに腰をおろし、パソコンを起動しようと顔をあげたら、副編集長と目が合う。真顔というよりも、どこか怒ったように見えるその表情で、俺がなにかやらかしたのが自然とわかってしまった。
注がれるまなざしに導かれるように、副編集長のデスクに足を運ぶ。
「おはようございます。あの……」
「相変わらずしけたツラしてるのね。ちょっと隣のミーティングルームに移動するわよ」
顎で隣を指し示し、颯爽と先に部署を出て行く大きな背中を、まじまじと見つめてしまった。俺はいつになったら、ああいうふうに仕事のできる大人になれるんだろうと、思わずにはいられない。
ミーティングルームの扉を閉めたと同時に振り返る副編集長。
「ウチにいるメンバーはね、一応精鋭揃いなの。編集長はライバル雑誌フォーカス ショットの元副編集長だしね」
「はい……」
その精鋭揃いのところに、俺みたいなのが在籍させてもらってるだけでもありがたかった。
「私が副編集長をまかされるようになってからは、さらに磨きをかけたつもりよ。中途半端な仕事をするヤツなんて言語道断。一度でもトラブルを起こしたら、ここを出て行ってもらってる。二度はないのよ」
そのセリフで、最近異動した若槻さんを思い出す。ここでやっていく厳しさを知っているゆえに、みずからここを出て行ったのをあとから知った。
あらためて背筋を伸ばして、目の前にいる副編集長を見下ろす。
「そうしてメンバーのクオリティを維持してるの。アンタひとりがいなくなったって、こっちはぜんぜん困らないというわけよ」
「副編集長……」
まだなにも言ってないのに、こんなことを言われてしまったら、ここに残りたいと言いづらくなってしまう。
「冴木商事、大変だったようね」
言い淀む俺に、いきなり本題をぶつけられてしまった。
「はい。よくご存知で」
重い口を開くと「あーあ、まったくもう!」なんて苛立った声をあげて、腰に手を当てながら、大きなため息を吐かれてしまった。
「私を誰だと思ってるの。なにかあったときのために、メンバーの実家のことくらい、把握して当然でしょ。会社経営してたら尚のこと、株価の値動きくらいチェックするわよ」
副編集長は持っていたファイルを、目の前に掲げる。ファイルには『冴木商事』というラベルが貼られていて、中になにかの書類が挟められているのが見てとれた。
「冴木商事は、白鳥の亡くなったおじいさんが経営していた会社だったのね。それを長男のお父さんが社長で、次男の叔父さんが副社長として経営を引き継いだ」
「そうです。おじいさんからまかされた会社を経営するのに、ふたりとも仲良くしていると俺は思ってました」
「よくある話よ。お家騒動なんて。金銭欲が絡むことだから、ドロドロした骨肉の争いになること間違いなし」
持っていたファイルを引っ込めて、副編集長は鋭いまなざしを俺に向ける。
「誰でも知ってるような大企業ならネタとして、雑誌に掲載するところなんだけど、中小企業程度じゃたかがしれてるの。だけど火消が早く済んでよかったわね」
「株の買い占めに早く気づけたことが、難を逃れるキッカケになったのは間違いないです」
言いながら両手をぎゅっと握りしめる。今回のことを調べていくうちに、父さんがどれだけ苦労して、会社を経営していたのか痛いくらいにわかった。
仲良く経営しているように思ったのは俺の想像の話で、実際は経営方針の違う兄弟間の間柄を表すように、社長派と副社長派で分かれていた。しかも副社長派には彼の息子も加わっているらしく、社内で後押しする動きもあったようだ。
「白鳥のお父さんは仕事のできる人でしょうけど、周りの人にもたくさん助けてもらったんでしょうね」
「はい、そう思います」
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