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番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一13

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「だだだ代償に俺の命を捧げるなんて、絶対にしないんだからぁ!」

 聞くに堪えない声を出した瞬間、首を掴んでいた手の力が緩められる。鬼のように怖い編集長から解放されて、へなへなとその場に座り込んでしまった。

「臥龍岡先輩、大丈夫ですか?」

 情けない姿を晒す俺に駆け寄ったさっちゃん。マジ天使に見える!!

「聞いてよ、さっちゃん。いっつもこんな扱いを受けてんのよ、信じられないでしょう?」

「でしたらウチに異動しませんか?」

「却下だ、臥龍岡は渡さん!」

 俺たちを見下ろした伊達編集長がフロアに響くデカい声で、異動の話をなきものにしようとした。

「編集長ともあろう人間が、そんな高圧的な態度で部下に接するなんて、まんまパワハラじゃないですか!」

 しゃがんで俺の背中を擦ってくれたさっちゃんは勢いよく立ち上がり、伊達編集長と対峙して、ふたたびバトルに突入した。当然巻き込まれたくないから、その場に正座して様子を見守る。不意に俺の目が、若槻の視線と絡んだ。

 キョトンとしてそれを見つめたら、若槻は煩いふたりに指を差し、そのあと両手でハートマークを作り、嫌そうな表情を浮かべて親指を床に向けた。

(あー、なるほどね。上司たちの猿芝居はバレてるのに、それがわからずにおバカな姿を晒してるということだったのか。ご愁傷さまです)

 他所でこんなふうにイチャコラしているのを知って、伊達編集長のマヌケぶりを垣間見ることができたのは、尾行した甲斐があったと思わずにはいられなかったのだった。


*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜

 結局臥龍岡ながおかを叱り飛ばし、文藝冬秋の部署に戻してから、サヨを送るため、いつものようにふたり並んで、地下駐車場に足を進めた。

「あのね、誠一さん……」

 キーレスエントリーでドアを開け、車に乗り込んだタイミングで話しかけられる。外に会話が漏れ聞こえないようにしたサヨの的確な判断で、他者に聞かれたくない話をするのがわかった。

「どうした? ああ、さっきはウチの臥龍岡が騒いで、本当に悪かったな」

 最初は騒がしさを極めていたのに、なぜか途中から妙に大人しくなり、残した仕事をするように命令した途端に、脱兎のごとく部署に戻ったことで、予定していた時間にサヨと一緒に帰ることができた。

「久しぶりに元気な臥龍岡先輩の姿を見ることができて、私は嬉しかったですよ」

「なんであんなのが好かれるのか、俺にはサッパリわからん」

 謎に思っていたことを口にしつつ、エンジンをかける。

「誠一さん、昨日のことなんですけど――」

 落ち込んだ口調で告げられたことで、昨日一日一緒に過ごしたことを指してるのがわかり、サヨの利き手に自分の手をそっと重ねた。

「気にする必要ない、無理してやることでもないし」

「でも愛し合った男女が、絶対に通る道じゃないですか。私が痛がってる場合じゃなかったと思うんです」

 肩を竦めてしょんぼりする姿を、昨夜も見ているせいで、慰める言葉を選ばなければと頭をフル回転させた。

「誠一さんのキノコだって、あのまま放置しちゃったし」

「あ、それは別に、というかキノコって」

「じゃあナスビ。いやズッキーニ」

 どんどん大きくなって表現されるナニの様子で、サヨが想像以上に思いつめていることがわかってしまった。

「誠一さんのエッチな手つきで、すごく感じさせられた挙句にイカされて、恥ずかしいくらいに濡れまくったところに、大きいのをぶっ刺すことができなくて、本当にごめんなさい!」

 重ねた俺の手を痛いくらいに握りしめたと思ったら、卑猥さを感じさせるようなことを口走りながらも、ぶっ刺すという言葉でそれを無にしたサヨのセンスに、思わず笑いだしそうになる。
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