純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一11

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 さっちゃんから『伊達編集長とお付き合いすることができました。臥龍岡ながおか先輩、いろいろアドバイスをいただき、ありがとうございました!』というコメントをもらって、一ヶ月以上が経過している現状なのに。

「彼女の尻に敷かれてる、デレデレした情けないツラの一ノ瀬と違って、編集長はまったく変化がないのよね」

 なので、彼女持ちにまったく見えない。しかも相変わらず隙がないから、仕事以外のことを訊ねるなんてできやしない。というか、訊ねたくはない。だって彼は俺にとって。

「ライバルだった存在なんだからさぁ……」

 あれは忘れもしない、М高等学校の校内体罰事件について、一ノ瀬を引きつれて調べていたとき。ウチとフォーカス ショットとクローズアップの三誌の記者が学校の外で取材をしていた。

 伊達誠一という自分の名刺を配って、生徒にヘコヘコ頭をさげてる記者を見て、俺はもっと手っ取り早い方法でこのネタをものにしてやると意気込み、一ノ瀬には女性教諭を落とすように頼んで、ほかにアクセスできそうな教諭を俺が担当した。

 二対一なんだから、絶対に俺たちのほうが有利だと思ったのも束の間、一ノ瀬がさっさと根をあげやがった。

『どいつもコイツもガードが異常にかたくて、けんもほろろで無理だ』

 それはおまえの魅力が足りないからだろ! と叱責したかったが、俺自身も人のことを言える顔のつくりをしていないので、このときは文句を言わずに我慢した。

 頼りない一ノ瀬には保護者側からアクセスするように指示し、俺は引き続き取材を受けてくれそうな教諭を探し出す。酒なんかで簡単に動きそうなヤツにターゲットを絞り、見事にヒットしたのは奇跡だった。

 だって体罰をおこなっていた問題の体育教師から、話を直接聞くことができたのだから!

 取材を終えて急いで会社に戻り、原稿を作成している最中に、当時の編集長から手渡された一枚のメモが、俺のやっていた仕事の手を止めた。

 それはフォーカス ショットの次号の予告が手書きされていたのだが、例の記事について前後編で特集が組まれているのを目にして、愕然としながら顔をあげて編集長を見上げた。

『まんまと先を越されたな。ヤツより早く、次のネタを探すことだ』

 これまでの苦労が、一瞬で無になった瞬間だった。

 敗北を期した俺はその後も負けじと取材を続けたのだが、伊達誠一という男がトンビになって、俺の目の前からネタという油揚げを搔っ攫っていったことは、この記事だけにとどまらなかった。

 しかも彼を慕った女のコがウチに入社して、伊達誠一みたいな仕事がしたいと言い出したときは眩暈がした。

 だけど新人の女のコ、さっちゃんはすごく優秀だったから教え甲斐があり、楽しかったのもあって、いつどこから声をかけられてもいいくらいに、仕事を仕込んであげることができた。

 そしたらなぜだか伊達誠一みずから、ウチにやってくるなんて、誰も思わない事態が発生! しかも自分の上司として現れるとか、なんの因果があって、そうなったのやら!

「臥龍岡副編集長、今日は先に失礼するぞ。残ってるヤツが早く帰るように、おまえから積極的に声をかけてやってくれ」

 言いたいことを言うなり、足早に編集部を出て行った上司の背中を、こっそり追いかける。なぜか階段を使って上に行ったことで、さっちゃんに逢いにのぼっていくのがわかった。

 ノックをせずに、自分の編集部に入るように堂々と入室していく姿に、顔を引きつらせながらゲンナリした。他所の編集部に対して、少しは気を遣えと思った瞬間。

雲母きらら編集長~、今日もお得意の残業やってんですか。昼間、どんだけサボってるんでしょうねぇ!」

(さっちゃんを煽りまくった大きな声が廊下にまで響き渡るとか、伊達のヤツなにやってんの!)
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