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番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一10

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「私を見下す態度で接する部下に負けないように、仕事をしなければならないんですね」

「それは当たり前のことだし、いつもやってるだろう?」

 勇んで答えたというのに、伊達編集長は唇に浮かべた笑みを消して、私に問いかけた。

「そこまで見下されてはいませんけど。ファーストコンタクトで、相手の弱いところを見極めて、十二分に揺さぶりをかけてますし」

「へー、やるな。ちなみに俺の弱いところってどこ?」

 伊達編集長は前を見据えたまま、今度は楽しげに訊ねる。

「そっそんなの、まだ見つけられません……」

(大好きになる要素しか、見つけることができないというのに――)

「見つけたら教えてくれ。強化しておかないと、いつか誰かにやられてしまうかもしれないからな」

 狭い車内での会話。緊張してあまり喋ることができないと思っていたのに、気づいたら伊達編集長の話にうまくのせられている。難しい話ばかりするんじゃなく、合間合間にジョークをまじえたりと、勉強になることばかりだった。

「サヨ、また数日経ったら同じように乗り込むから、そのときは抵抗すれよ」

「抵抗ですか?」

「そして犬猿の仲になる。堂々と俺に反発する女上司にたてつく部下は、まずいないだろう。それがキッカケで、今よりは仕事がしやすくなればいいかなと思ったんだ」

 それは私が、伊達編集長に愚痴ったことのひとつだった。編集長としての威厳が自分にはないのではないかというのを、ポロっとこぼしたときは。

『編集長としての威厳よりも、頼りになるか否かだと俺は思うけどな』というひとことで、あっけなく終わっていたハズだったのに。

「誠一さんもしかして、ずっと考えてくれたんですか?」

 嬉しさが弾んだ口調になって、表れてしまった。しかも自然に、名前まで呼ぶことができた。

「彼氏として、彼女の憂いを払うくらいのことはしてやりたいだろ」

「ぶっ!」

 彼氏というワードが、グサッと心に深く突き刺さった。突然の直球は、本当に心臓に悪すぎる!

「色気のないリアクションだな」

「だってだって、彼氏なんてそんな!」

「だってだってなんて、俺の名字とかけたのか?」

「そうじゃなくて、あーもう……。頭がうまくまわらない」

 困惑する私をよそに、伊達編集長はハンドルを握りながら、しばらくの間ゲラゲラ声をあげて笑い倒した。

「誠一さん、笑いすぎですよ」

「俺をここまで笑わせることができるのは、この世でサヨだけだ。これからも期待してる」

 なぁんて言われてしまったせいで、妙なプレッシャーを与えられてしまった。だけどこれからもという言葉は、長く付き合おうというふうに捉えることのできるもので、結果的に私としては嬉しいことになったのだった。
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