上 下
107 / 126
番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一7

しおりを挟む
♡♡♡

 先輩、大変なことになりました。これから私は、どうしたらいいでしょうか?

 臥龍岡先輩に伝えたい言葉を心の中で呟く私に、くっきりした二重まぶたの持ち主が怖い顔で睨む。しかもイケメンなので、怖さも二割増!

雲母きらら編集長、昨日も一昨日もその前も残業していたよな?」

 社会部の私のデスクの前に、文藝冬秋の伊達編集長がなぜだかいらっしゃいます。しかも、すごい迫力です。

「よ、よくご存知ですね」

 大好きな人の問いかけに、ドキドキしながら答えた。しかしここは私の職場。部下たちの目があるので、必死に平静を装う。

「俺が帰るとき、いつもビルの明かりがついているから。それで今は、なにをやっているんだ?」

「明日の仕事の準備を、ちょっとだけ前倒しで。ちなみに昨日は、仕事の進みが悪い部下の手伝いを――」

 パソコンの画面から目の前に視線を移し、困った顔で説明した。すると伊達編集長は目尻をつりあげるなり、私の顔に指を差す。

「明日の仕事なんて、明日やればいい。まずはパソコンの電源を落とせ!」

「え、でも……」

「残業していいのは1日限りだ。それ以上続けていたら、日中おこなう仕事の効率がどんどん悪くなる一方なんだぞ。いいから、さっさと電源を切れ!」

 ぎゃんぎゃん喚く伊達編集長の声を聞きながら、やっていた仕事を慌ててバックアップし、電源をシャットダウンする。私よりも長く編集長業をやっている方の意見を尊重し、素直に従うことにした。

「パソコン落としました」

「よし、じゃあ――」

 目の前から移動して、私の傍らに来た伊達編集長が、椅子に座った私をひょいと持ち上げ、肩に軽々と担ぎあげる。まるで人攫い状態!

「ひーっ!」

 伊達編集長は意外と背が高く、たぶん185センチくらいはあるはず。150センチ弱の私としては、普段見たことのない高さを体感しているため、思いっきり変な声が出てしまった。

 編集長のデスクで、他所の編集長に攫われる自分の上司を、部下はどんな目で見ているのでしょうか。というか、せめてお姫様抱っこでお願いしたい!

「おい、若槻!」

「はっ、はい!」

 すぐ傍で仕事をしていた若槻さんを呼ぶ伊達編集長の声は、言い知れぬ迫力があり、聞いてるだけで背筋が伸びそう。

「雲母編集長の鞄を取って、本人に渡してやってくれ」

 伊達編集長に言われたとおりに、若槻さんはデスクの足元に置いてある愛用している鞄に腕を伸ばし、私の手にそれを握らせた。

「ありがとうございます……」

「伊達編集長は面倒見のいい方なので、きっと大丈夫です」

 そう言って、なぜか親指をたてる若槻さん。

「なにが、どう大丈夫なのでしょうか」

 部下に訊ねた私を担いだまま、伊達編集長は足早に社会部をあとにした。

 元上司に連れ去られる雲母編集長を見送った若槻に、同僚のひとりが駆け寄る。

「なぁなあ、伊達男だておって、キラリンと付き合ってんのかな?」

「そんなの、興味ないから知りません」

「興味もとーぜ。なにかあったときにトラブルに巻き込まれるの、俺たちなんだしさ」

 嫌なしたり笑いを浮かべた同僚が、腰に手を回そうとしたので、若槻は容赦なく振りかぶって、その手を叩き落とした。

「ポップエイジでもそういうセクハラして、問題を起こしてるっていうのに、反省してないんですか? 雲母編集長に言いつけますよ!」

「触ってもらえるのも、若いうちだけなのによ。減るもんじゃないのに」

「最低! もう私に話しかけないでください」

 わざと同僚にぶつかってから、自分のデスクに戻る。机上に置かれている赤ペンで修正された原稿を読み込むために、視線を落とした。雲母編集長が自分の仕事の時間を割いて修正してくれたことに若槻は感謝しつつ、さらなるステップアップを目指して、勉強に勤しんだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】

衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。 でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。 実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。 マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。 セックスシーンには※、 ハレンチなシーンには☆をつけています。

【完結*R-18】あいたいひと。

瑛瑠
恋愛
あのひとの声がすると、ドキドキして、 あのひとの足音、わかるようになって あのひとが来ると、嬉しかった。 すごく好きだった。 でも。なにもできなかった。 あの頃、好きで好きでたまらなかった、ひと。 突然届いた招待状。 10年ぶりの再会。 握りしめたぐしゃぐしゃのレシート。 青いネクタイ。 もう、あの時のような後悔はしたくない。 また会いたい。 それを望むことを許してもらえなくても。 ーーーーー R-18に ※マークつけてますのでご注意ください。

【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ
恋愛
高校三年生の冬。『お嬢様』だった波奈の日常は、両親の死により一変する。 幼なじみで婚約者の彩人と別れなければならなくなった波奈は、どうしても別れる前に、一度だけ想い出が欲しくて、嘘を吐き、彼を騙して一夜をともにする。 六年後、波奈は彩人と再会するのだが……。 ※別サイトに投稿していたものに性描写を入れ、ストーリーを少し改変したものになります。性描写のある話には◆マークをつけてます。

おっぱい、触らせてください

スケキヨ
恋愛
社畜生活に疲れきった弟の友達を励ますべく、自宅へと連れて帰った七海。転職祝いに「何が欲しい?」と聞くと、彼の口から出てきたのは―― 「……っぱい」 「え?」 「……おっぱい、触らせてください」 いやいや、なに言ってるの!? 冗談だよねー……と言いながらも、なんだかんだで年下の彼に絆されてイチャイチャする(だけ)のお話。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

処理中です...