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番外編
文藝冬秋編集長 伊達誠一7
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♡♡♡
先輩、大変なことになりました。これから私は、どうしたらいいでしょうか?
臥龍岡先輩に伝えたい言葉を心の中で呟く私に、くっきりした二重まぶたの持ち主が怖い顔で睨む。しかもイケメンなので、怖さも二割増!
「雲母編集長、昨日も一昨日もその前も残業していたよな?」
社会部の私のデスクの前に、文藝冬秋の伊達編集長がなぜだかいらっしゃいます。しかも、すごい迫力です。
「よ、よくご存知ですね」
大好きな人の問いかけに、ドキドキしながら答えた。しかしここは私の職場。部下たちの目があるので、必死に平静を装う。
「俺が帰るとき、いつもビルの明かりがついているから。それで今は、なにをやっているんだ?」
「明日の仕事の準備を、ちょっとだけ前倒しで。ちなみに昨日は、仕事の進みが悪い部下の手伝いを――」
パソコンの画面から目の前に視線を移し、困った顔で説明した。すると伊達編集長は目尻をつりあげるなり、私の顔に指を差す。
「明日の仕事なんて、明日やればいい。まずはパソコンの電源を落とせ!」
「え、でも……」
「残業していいのは1日限りだ。それ以上続けていたら、日中おこなう仕事の効率がどんどん悪くなる一方なんだぞ。いいから、さっさと電源を切れ!」
ぎゃんぎゃん喚く伊達編集長の声を聞きながら、やっていた仕事を慌ててバックアップし、電源をシャットダウンする。私よりも長く編集長業をやっている方の意見を尊重し、素直に従うことにした。
「パソコン落としました」
「よし、じゃあ――」
目の前から移動して、私の傍らに来た伊達編集長が、椅子に座った私をひょいと持ち上げ、肩に軽々と担ぎあげる。まるで人攫い状態!
「ひーっ!」
伊達編集長は意外と背が高く、たぶん185センチくらいはあるはず。150センチ弱の私としては、普段見たことのない高さを体感しているため、思いっきり変な声が出てしまった。
編集長のデスクで、他所の編集長に攫われる自分の上司を、部下はどんな目で見ているのでしょうか。というか、せめてお姫様抱っこでお願いしたい!
「おい、若槻!」
「はっ、はい!」
すぐ傍で仕事をしていた若槻さんを呼ぶ伊達編集長の声は、言い知れぬ迫力があり、聞いてるだけで背筋が伸びそう。
「雲母編集長の鞄を取って、本人に渡してやってくれ」
伊達編集長に言われたとおりに、若槻さんはデスクの足元に置いてある愛用している鞄に腕を伸ばし、私の手にそれを握らせた。
「ありがとうございます……」
「伊達編集長は面倒見のいい方なので、きっと大丈夫です」
そう言って、なぜか親指をたてる若槻さん。
「なにが、どう大丈夫なのでしょうか」
部下に訊ねた私を担いだまま、伊達編集長は足早に社会部をあとにした。
元上司に連れ去られる雲母編集長を見送った若槻に、同僚のひとりが駆け寄る。
「なぁなあ、伊達男って、キラリンと付き合ってんのかな?」
「そんなの、興味ないから知りません」
「興味もとーぜ。なにかあったときにトラブルに巻き込まれるの、俺たちなんだしさ」
嫌なしたり笑いを浮かべた同僚が、腰に手を回そうとしたので、若槻は容赦なく振りかぶって、その手を叩き落とした。
「ポップエイジでもそういうセクハラして、問題を起こしてるっていうのに、反省してないんですか? 雲母編集長に言いつけますよ!」
「触ってもらえるのも、若いうちだけなのによ。減るもんじゃないのに」
「最低! もう私に話しかけないでください」
わざと同僚にぶつかってから、自分のデスクに戻る。机上に置かれている赤ペンで修正された原稿を読み込むために、視線を落とした。雲母編集長が自分の仕事の時間を割いて修正してくれたことに若槻は感謝しつつ、さらなるステップアップを目指して、勉強に勤しんだのだった。
先輩、大変なことになりました。これから私は、どうしたらいいでしょうか?
臥龍岡先輩に伝えたい言葉を心の中で呟く私に、くっきりした二重まぶたの持ち主が怖い顔で睨む。しかもイケメンなので、怖さも二割増!
「雲母編集長、昨日も一昨日もその前も残業していたよな?」
社会部の私のデスクの前に、文藝冬秋の伊達編集長がなぜだかいらっしゃいます。しかも、すごい迫力です。
「よ、よくご存知ですね」
大好きな人の問いかけに、ドキドキしながら答えた。しかしここは私の職場。部下たちの目があるので、必死に平静を装う。
「俺が帰るとき、いつもビルの明かりがついているから。それで今は、なにをやっているんだ?」
「明日の仕事の準備を、ちょっとだけ前倒しで。ちなみに昨日は、仕事の進みが悪い部下の手伝いを――」
パソコンの画面から目の前に視線を移し、困った顔で説明した。すると伊達編集長は目尻をつりあげるなり、私の顔に指を差す。
「明日の仕事なんて、明日やればいい。まずはパソコンの電源を落とせ!」
「え、でも……」
「残業していいのは1日限りだ。それ以上続けていたら、日中おこなう仕事の効率がどんどん悪くなる一方なんだぞ。いいから、さっさと電源を切れ!」
ぎゃんぎゃん喚く伊達編集長の声を聞きながら、やっていた仕事を慌ててバックアップし、電源をシャットダウンする。私よりも長く編集長業をやっている方の意見を尊重し、素直に従うことにした。
「パソコン落としました」
「よし、じゃあ――」
目の前から移動して、私の傍らに来た伊達編集長が、椅子に座った私をひょいと持ち上げ、肩に軽々と担ぎあげる。まるで人攫い状態!
「ひーっ!」
伊達編集長は意外と背が高く、たぶん185センチくらいはあるはず。150センチ弱の私としては、普段見たことのない高さを体感しているため、思いっきり変な声が出てしまった。
編集長のデスクで、他所の編集長に攫われる自分の上司を、部下はどんな目で見ているのでしょうか。というか、せめてお姫様抱っこでお願いしたい!
「おい、若槻!」
「はっ、はい!」
すぐ傍で仕事をしていた若槻さんを呼ぶ伊達編集長の声は、言い知れぬ迫力があり、聞いてるだけで背筋が伸びそう。
「雲母編集長の鞄を取って、本人に渡してやってくれ」
伊達編集長に言われたとおりに、若槻さんはデスクの足元に置いてある愛用している鞄に腕を伸ばし、私の手にそれを握らせた。
「ありがとうございます……」
「伊達編集長は面倒見のいい方なので、きっと大丈夫です」
そう言って、なぜか親指をたてる若槻さん。
「なにが、どう大丈夫なのでしょうか」
部下に訊ねた私を担いだまま、伊達編集長は足早に社会部をあとにした。
元上司に連れ去られる雲母編集長を見送った若槻に、同僚のひとりが駆け寄る。
「なぁなあ、伊達男って、キラリンと付き合ってんのかな?」
「そんなの、興味ないから知りません」
「興味もとーぜ。なにかあったときにトラブルに巻き込まれるの、俺たちなんだしさ」
嫌なしたり笑いを浮かべた同僚が、腰に手を回そうとしたので、若槻は容赦なく振りかぶって、その手を叩き落とした。
「ポップエイジでもそういうセクハラして、問題を起こしてるっていうのに、反省してないんですか? 雲母編集長に言いつけますよ!」
「触ってもらえるのも、若いうちだけなのによ。減るもんじゃないのに」
「最低! もう私に話しかけないでください」
わざと同僚にぶつかってから、自分のデスクに戻る。机上に置かれている赤ペンで修正された原稿を読み込むために、視線を落とした。雲母編集長が自分の仕事の時間を割いて修正してくれたことに若槻は感謝しつつ、さらなるステップアップを目指して、勉強に勤しんだのだった。
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