上 下
102 / 126
番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一2

しおりを挟む
*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜

 今日は定例の編集長会議。文藝社所有のビルの大広間でおこなわれる。

 上條春菜の事件で雑誌が一時的に完売したが、その後それに続くようなネタに巡りあえていないため、フォーカス ショットにトップの座を譲ってしまった現状を、上役から嫌味をまじえたお小言をいただく。

 今後の対応策として、上條良平のインタビューを載せることを提案し、一時的に難を逃れた。

(この件について、臥龍岡ながおか副編集長が異様に張り切っていたから、暴走しないように先手を打たなければ――)

 副編集長の提案を使い、ちゃっかり逃げ果せることができて、会議中はいつもより気が楽だった。

 その後、社長がほかの部署の編集長に喝を入れてから、会議は無事に終了。満足しながら大広間を出る。

「伊達編集長!」

 背中にかけられた、辺りに響くような甲高い声に、弾んでいた気持ちが一瞬で沈んだ。

雲母きらら編集長、お疲れ様です……」

 渋々立ち止まり、振り返りながら挨拶したら、真顔で隣に並ばれた。

 彼女は雲母きららサヨリ。新入社員で文藝社に入った当時、教育係に定評のある臥龍岡ながおかが面倒をみた逸材。その後、各部署を転々としたあとに、史上最年少で経済紙社会部の編集長に抜擢された、かなり仕事のデキる女性だった。

臥龍岡ながおか先輩はお元気ですか?」

(臥龍岡は元気が有り余って、社内に盗撮カメラを仕込み、チェックするのに必要以上に熱が入ってます!)

「それなりに、元気でやってますよ。ウチから異動した若槻は、うまくやってます?」

 事実を告げるわけにはいかないので、それなりにという言葉でうまいこと濁し、異動したメンバーの名前を口にした。

「臥龍岡先輩に頼まれたコですから、私が直に指導してます。現在は打たれ弱いメンタルを、少しずつ強化しているところなんですよ」

 眉毛の上にきちんと揃えられた、漆黒の前髪。その下にある瞳をキラキラさせて語る姿に、正直ゲンナリした。

 新人の教育係を手がけていたせいか、臥龍岡を崇拝する社員がそこかしこに居て、しかも揃って性格が過激寄りだったりする。

「ウチは忙しくて、きちんとした教育が行き届かず、若槻の本質を見抜けなかったことが、今回の異動の原因でした。雲母きらら編集長の手を煩わせることになってしまい、申し訳ないです」

 社会部は、別名ゴミ処理場とも呼ばれている部署だった。ハラスメントで問題を起こした社員や問題を起こした社員が、最初に飛ばされる場所でもある。

 集められた問題児たちを統括する雲母編集長の指導は相当厳しいらしく、一ヶ月を待たずに自主退職するか、それでも食らいついて仕事を全うするかの二択だけだと噂に聞いた。

「臥龍岡先輩からは、若槻はガッツがあるから、遠慮なく使ってやってねと言伝をいただいているので、そのとおりにこき使ってますよ♡」

「そ、そうなんですか……」

 弾んだ口調で告げているのに、目がまったく笑っていないせいで、リアクションに困り果てた。

「ついでに臥龍岡先輩を社会部に寄越してくだされば、もっともっと有効利用しますけど、お考えいただけないでしょうか?」

 彼女と会話をかわすと、必ずといっていいほど、臥龍岡を欲しがるセリフが口から出される。

「すみませんね~。彼はウチで存分に、有効利用している身なので」

 雲母きらら編集長に謙っている俺の横を、他所の部署の編集長が白い目でチラリと見、通り過ぎていく。

 売上が安定していない、雑誌の編集長――この現実を覆すには、まだまだ苦労をせざるを得ないだろう。

 ひきつり笑いを口元に浮かべていると思われる俺に、雲母きらら編集長はかわいらしく小首を傾げて、にっこりほほ笑む。

「久しぶりに臥龍岡先輩の顔を拝みに、編集部にお邪魔していいでしょうか?」

(Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッ!! ここで解放されると思っていたのに、どんだけ臥龍岡ラブなんだよ!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...