純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

副編集長と若槻

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「アンタ、なんてことしてくれたのよぉおおぉっ! このおバカっ!!」

 編集部に副編集長の一喝が響き渡り、その場にいた者は全員仕事をする手を止め、デスクにいる叱られた若槻に視線を飛ばした。

 厳つい顔をしている副編集長は、怒りに目を尖らせて体を震わせる。その様子でいったいどんな失敗をしたのか、編集長だけじゃなく職員揃って疑問に思ったが、誰も口を開く者はいなかった。

「ああ、もう! 白鳥のバカさ加減は想定内だったけど、若槻はもう少ししっかりしたヤツだと思っていただけに、裏切られた感が半端ないわ。どうしましょ、美羽ちゃんに顔を逢わせられない。ちょっと来なさい」

 自分のデスクで額に手を当てた副編集長はブツブツ呟いてから、若槻を連れて隣のミーティングルームに移動する。

「若槻が知らなくて当然のことだったとはいえ、迂闊だったわ。例の記事にかかわっていないものにとっては、秘匿事項だったし……」

 ミーティングルームの扉が閉まったと同時に口を開いた副編集長に、若槻は首を傾げた。

「例の記事……、秘匿事項っていったい?」

「あの上條良平の元奥さんが、白鳥の彼女だってことよ」

「えっ!」

 大きく体をビクつかせながら両手で口を押さえた若槻に、副編集長は大きなため息をついてから訊ねる。

「アンタがやらかした事の重大さを、ちゃんと理解してくれたかしら? ただの彼女持ちの男を、たぶらかしただけじゃないってことよ?」

「例の記事には目を通しているので、元奥さんがどんなにつらい目にあったのかわかっています。わかって、どうしよ……私、彼女を傷つけてしまいました」

「若槻も悪いけど、白鳥も本当にバカよね。恋愛経験がなさすぎて、小学生レベルだわ。きっと自分がなにをしたのか、わかっていないでしょうね。美羽ちゃんじゃなきゃ捨てられることをしたのも、気づいていないでしょうに」

 怒りを通り越して呆れた声で告げる副編集長に、若槻は静かに話しかけた。

「今回副編集長に報告したのは、白鳥と一緒に仕事をしないように配慮していただきたかったんです」

「配慮。そんなんで、みずから罰を与えようとしてるってわけ?」

 吐き捨てるような物言いに、若槻の体がより一層小さくなる。

「罰というか、ケジメっていう感じです」

「足りるわけないでしょ、そんなもの! なにがケジメよ、自己満じゃないの」

 副編集長の激しい怒声を浴びせられた若槻の瞳に、涙がじわりと滲む。

「美羽ちゃんは愛する夫を横取りされた挙句に子どもも奪われて、とても深く傷ついた。その傷を癒やしたのが、幼なじみの白鳥という存在なの。その白鳥に手を出した罪は、仕事でアイツとの距離をとったくらいで、簡単に償えるものじゃないわ。なにを寝ぼけたことを言ってんのよ、まったく!」

「すみません……」

「私に謝っても、どうしようもないことくらい、アンタならわかっているでしょう?」

 胸の前に両腕を組み、若槻の今後をどうしたらいいのか、副編集長は考えを巡らせた。

「あー、頭が痛いわね。若槻だけじゃなく、白鳥にもおこごとを言わなきゃならないんだから」

「本当にすみませんでした」

 ふたたび頭をさげる若槻に、副編集長は意を決して告げる。

「若いライターの中でも、アンタはガッツのあるヤツだと思っていたのよ。だから私なりに、目をかけていたのに。残念ね、本当。少し早いけど、異動してもらうことになるわ」

 ポケットからスマホを取り出し、どこかに連絡をしながら若槻に異動することを説明した副編集長。さきほどまで怒っていた顔から一転、いつもの様子を取り戻していた。

「あの、どこに異動することになるんでしょうか」

「社会部と言えばわかるでしょ?」

「もしかして経済紙の……」

 自分の異動先を知り、若槻の声が沈んだものになった。

「ここよりも地味なのに、激務を極める我が社でも地獄的な場所よ。そこで粘って、きちんとやっていくことができたら、何年かかるかわからないけど、確実にワンステップ上にあがれる。アンタがこの間ボツったものを知り合いに見せたら、社会部にほしいって言われていたのよ。それなりに鍛えたら、使えそうな人材になるんじゃないかって」

「副編集長?」

「一応断ったんだけどさ。もう一度かけあってみるけど、いいわよね? ちゃんと頑張ることができなきゃナシにするけど」

 副編集長の問いかけに、若槻は滲んだ涙を拭ってしっかり顔をあげ、大きな声で告げる。

「歯を食いしばって、頑張ってみせます!」

 そして深く頭をさげた。

 こうして若槻は左遷という形で編集部から異動し、白鳥と一緒に仕事をすることがなくなったのだった。
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