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恋愛クライシス 一ノ瀬成臣の場合
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時間にしたら、ほんの数秒間。ものすごく短い時間のはずなのに、唇が重なってるときが、やけに長く感じた。
そして目を見開いたままの私の視界から、成臣くんの顔が遠のいていく。彼を引き止めたいのに、両手にコップを持っているので、それができない。
「成臣くん」
名残惜しくて名前を呼んだのに、私からの視線をスルーするように前を向き、優しい声で告げる。
「待たなくていい。それと変な小細工も必要ない。全部わかってる」
「わかってる?」
語尾のあがった私のセリフで、成臣くんは横目でチラッと私の顔を見る。
「猪突猛進型の千草ちゃんが、好きという言葉をあえて封印していたこと。どうせアキラの入れ知恵だろう?」
成臣くんはカラカラ豪快に笑ってコップを手に取り、ふたたび美味しそうに紅茶を飲む。落ち着き払った様子から、私にキスしたことを感じさせない冷静さをもどかしく思った。
(私はすごくドキドキしてるのに、なんで成臣くんはこんなに平静でいられるの?)
「アキラが手にした、空に飛んでいきそうな俺という風船の紐を、千草ちゃんに確実にバトンタッチできるように、アイツなりに考えた作戦なんだろうな。もっと趣向を凝らせばいいのに、まわりくどいことして」
「臥龍岡先輩に複雑なことを頼まれても、私がそれを実行できないと思う」
「そうなのか?」
「好きな気持ちを封印するのにも、すっごく苦労したんだよ!」
語気を強めたらコップの中の紅茶が揺れて、零れそうになる。それはまるで、私の想いのよう。少しだけぬるくなった紅茶を、半分ほど慌てて口をつけた。
「そのくせ、俺の見えないところで、好き好き言いまくっていただろ?」
「へっ?」
「バイクの後ろから、風に乗って声が聞こえてた」
「うそっ! 口に出した覚えはないよ」
成臣くんの声をかき消す勢いで、猛反発するしかない。頬が熱くなってるのは、きっと赤くなってるせいだろうな。
「サイドミラーに映ってた千草ちゃんの顔が、それを示してた。かなりデレた顔になっていたけど?」
「みっ、見てたの?」
思いっきりキョドる私に、してやったりな顔した成臣くんが人差し指を差す。
「運転しながら、ちゃっかり見てた。かわいいなって思ったら、何度も確認するように見てしまってさ。だからときどき運転ヤバかった」
「やだ、恥ずかしい!」
バイクに乗ってる最中は、私の顔は見えないわけだし、たとえ心の声が口から出たって、エンジン音や吹き抜ける風で絶対に聞こえないと思っていただけに、いろんな意味で衝撃を受けた。
「そのくせ顔を合わせたら、友達としてキッチリ接する切り替えっていうのかな、それは完璧だった。お昼を食べたコンビニでは、そういう態度だったよな?」
成臣くんは手にしたコップを私のコップに勝手に当てて乾杯し、一気に飲み干す。
「成臣くんには、誤魔化しがきかないんだね。参っちゃう……」
乾杯の意味がさっぱりわからず、呆然としたまま、隣をしげしげと眺めた。
「俺も参ったよ。何度も好きと言われて、すべてを拒否できるはずない。しかも好きと言われなくなったときは、それが物足りないと感じるなんて、相当やられてる」
(――これはもしかして、臥龍岡先輩の作戦勝ちなのでは!)
そして目を見開いたままの私の視界から、成臣くんの顔が遠のいていく。彼を引き止めたいのに、両手にコップを持っているので、それができない。
「成臣くん」
名残惜しくて名前を呼んだのに、私からの視線をスルーするように前を向き、優しい声で告げる。
「待たなくていい。それと変な小細工も必要ない。全部わかってる」
「わかってる?」
語尾のあがった私のセリフで、成臣くんは横目でチラッと私の顔を見る。
「猪突猛進型の千草ちゃんが、好きという言葉をあえて封印していたこと。どうせアキラの入れ知恵だろう?」
成臣くんはカラカラ豪快に笑ってコップを手に取り、ふたたび美味しそうに紅茶を飲む。落ち着き払った様子から、私にキスしたことを感じさせない冷静さをもどかしく思った。
(私はすごくドキドキしてるのに、なんで成臣くんはこんなに平静でいられるの?)
「アキラが手にした、空に飛んでいきそうな俺という風船の紐を、千草ちゃんに確実にバトンタッチできるように、アイツなりに考えた作戦なんだろうな。もっと趣向を凝らせばいいのに、まわりくどいことして」
「臥龍岡先輩に複雑なことを頼まれても、私がそれを実行できないと思う」
「そうなのか?」
「好きな気持ちを封印するのにも、すっごく苦労したんだよ!」
語気を強めたらコップの中の紅茶が揺れて、零れそうになる。それはまるで、私の想いのよう。少しだけぬるくなった紅茶を、半分ほど慌てて口をつけた。
「そのくせ、俺の見えないところで、好き好き言いまくっていただろ?」
「へっ?」
「バイクの後ろから、風に乗って声が聞こえてた」
「うそっ! 口に出した覚えはないよ」
成臣くんの声をかき消す勢いで、猛反発するしかない。頬が熱くなってるのは、きっと赤くなってるせいだろうな。
「サイドミラーに映ってた千草ちゃんの顔が、それを示してた。かなりデレた顔になっていたけど?」
「みっ、見てたの?」
思いっきりキョドる私に、してやったりな顔した成臣くんが人差し指を差す。
「運転しながら、ちゃっかり見てた。かわいいなって思ったら、何度も確認するように見てしまってさ。だからときどき運転ヤバかった」
「やだ、恥ずかしい!」
バイクに乗ってる最中は、私の顔は見えないわけだし、たとえ心の声が口から出たって、エンジン音や吹き抜ける風で絶対に聞こえないと思っていただけに、いろんな意味で衝撃を受けた。
「そのくせ顔を合わせたら、友達としてキッチリ接する切り替えっていうのかな、それは完璧だった。お昼を食べたコンビニでは、そういう態度だったよな?」
成臣くんは手にしたコップを私のコップに勝手に当てて乾杯し、一気に飲み干す。
「成臣くんには、誤魔化しがきかないんだね。参っちゃう……」
乾杯の意味がさっぱりわからず、呆然としたまま、隣をしげしげと眺めた。
「俺も参ったよ。何度も好きと言われて、すべてを拒否できるはずない。しかも好きと言われなくなったときは、それが物足りないと感じるなんて、相当やられてる」
(――これはもしかして、臥龍岡先輩の作戦勝ちなのでは!)
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