69 / 126
恋愛クライシス 一ノ瀬成臣の場合
16
しおりを挟む
半年間という時間が経ってしまうと、過去のことを冷静に眺めることができた。幸恵さんにとって俺は、都合のいいオトコだったというだけ。ただそれだけの存在なんだって。
そんな彼女を恨み、復讐心に駆られていろいろ考えてみたものの、それをする価値のない人間だということもわかった。
俺を捨てたあとに、ほかの誰かと関係を持つのは、なんとなく予想できたし、俺が手を下すまでもない、彼女が同じような傷つく捨て方をすれば、きっと誰かがやるだろう。
「一ノ瀬、もうエネルギーは、充分にたまってるわよね?」
俺を現実に引き戻す、副編集長から訊ねられた言葉。だからこそ落ち込みまくった、当時のやり取りをしっかり思い出す。
「悪いが俺は、毎日を適当に生きるのに必死だ。恋愛なんてくだらないことに、エネルギーを割くなんてできない」
「今後ちゃんとした恋愛しないと、いい写真が撮れないってわかってんの?」
より一層低い声で副編集長は言いながら、黄門様の印籠のように、自分のスマホを掲げる。そこに映っていたのは、白鳥の幼なじみちゃんで、くすぐったさを感じさせるような照れたほほ笑みが、彼女のしあわせな様子を表していた。
「これは白鳥が撮影したものよ。見たらわかるでしょ、構図からなにから、まるでなっていないけど、自然と目の惹きつけられるなにかがあるって!」
「そうだな、素直にいい写真だと言いきれる」
感動する気持ちを押し殺すように、しれっとしながら思ったことを口にした。俺が表現できないことをやってのけた白鳥に、すげぇなって思わされる。
「プロのアンタの写真からは、これが感じられないの。仕事に支障をきたしているのよ!」
副編集長として仕事目線から、そして友人として心配しているからこそ的確なアドバイスは、ときに俺を傷つける。以前ならそれに反発して「うっせぇな、やればいいんだろ!」って捨て台詞を怒鳴り声でやり返していたが。
「恋愛する気になれないのに、そんな写真撮れない……」
恋愛することに拒否しかできない俺は、反発することも無理な話だった。
「成臣くん、無理じゃないよ」
椅子に腰かけていた千草ちゃんが立ち上がり、俺の前まで来て跪く。そして利き手をぎゅっと両手で握りしめた。包み込まれた利き手から千草ちゃんのぬくもりがじわりと伝わり、荒んでいた気持ちが少しだけ和らぐ。
彼女を傷つけないように、顔を見つめながらやんわりと告げる。
「千草ちゃん、そんなこと言っても、俺は無理なんだって」
「一ノ瀬、上司命令よ。友だちから彼女と付き合ってみて」
「は? 友達?」
奇妙ともとれる上司命令に、眉根を寄せた。
「そうよ。そして一緒に遊びに出かけたときは、必ず写真を撮ること。スマホで撮ってね。それを私に送ってちょうだい」
「おまっ、なにを言って――」
「千草ちゃん、そこからはじめても大丈夫よね?」
副編集長は俺の返事を聞かずに、千草ちゃんに問いかけた。俺の利き手を掴んだまま、小さく頷いた千草ちゃんの顔は、どこからみてもやる気満々にしか見えない。
「成臣くん、よろしくね!」
迫力のある笑顔と断りきれない覇気のある『よろしくね!』は、俺の拒否する返答を見事に奪ったのだった。
そんな彼女を恨み、復讐心に駆られていろいろ考えてみたものの、それをする価値のない人間だということもわかった。
俺を捨てたあとに、ほかの誰かと関係を持つのは、なんとなく予想できたし、俺が手を下すまでもない、彼女が同じような傷つく捨て方をすれば、きっと誰かがやるだろう。
「一ノ瀬、もうエネルギーは、充分にたまってるわよね?」
俺を現実に引き戻す、副編集長から訊ねられた言葉。だからこそ落ち込みまくった、当時のやり取りをしっかり思い出す。
「悪いが俺は、毎日を適当に生きるのに必死だ。恋愛なんてくだらないことに、エネルギーを割くなんてできない」
「今後ちゃんとした恋愛しないと、いい写真が撮れないってわかってんの?」
より一層低い声で副編集長は言いながら、黄門様の印籠のように、自分のスマホを掲げる。そこに映っていたのは、白鳥の幼なじみちゃんで、くすぐったさを感じさせるような照れたほほ笑みが、彼女のしあわせな様子を表していた。
「これは白鳥が撮影したものよ。見たらわかるでしょ、構図からなにから、まるでなっていないけど、自然と目の惹きつけられるなにかがあるって!」
「そうだな、素直にいい写真だと言いきれる」
感動する気持ちを押し殺すように、しれっとしながら思ったことを口にした。俺が表現できないことをやってのけた白鳥に、すげぇなって思わされる。
「プロのアンタの写真からは、これが感じられないの。仕事に支障をきたしているのよ!」
副編集長として仕事目線から、そして友人として心配しているからこそ的確なアドバイスは、ときに俺を傷つける。以前ならそれに反発して「うっせぇな、やればいいんだろ!」って捨て台詞を怒鳴り声でやり返していたが。
「恋愛する気になれないのに、そんな写真撮れない……」
恋愛することに拒否しかできない俺は、反発することも無理な話だった。
「成臣くん、無理じゃないよ」
椅子に腰かけていた千草ちゃんが立ち上がり、俺の前まで来て跪く。そして利き手をぎゅっと両手で握りしめた。包み込まれた利き手から千草ちゃんのぬくもりがじわりと伝わり、荒んでいた気持ちが少しだけ和らぐ。
彼女を傷つけないように、顔を見つめながらやんわりと告げる。
「千草ちゃん、そんなこと言っても、俺は無理なんだって」
「一ノ瀬、上司命令よ。友だちから彼女と付き合ってみて」
「は? 友達?」
奇妙ともとれる上司命令に、眉根を寄せた。
「そうよ。そして一緒に遊びに出かけたときは、必ず写真を撮ること。スマホで撮ってね。それを私に送ってちょうだい」
「おまっ、なにを言って――」
「千草ちゃん、そこからはじめても大丈夫よね?」
副編集長は俺の返事を聞かずに、千草ちゃんに問いかけた。俺の利き手を掴んだまま、小さく頷いた千草ちゃんの顔は、どこからみてもやる気満々にしか見えない。
「成臣くん、よろしくね!」
迫力のある笑顔と断りきれない覇気のある『よろしくね!』は、俺の拒否する返答を見事に奪ったのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
アダルト漫画家とランジェリー娘
茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。
今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。
☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。
☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる