上 下
49 / 126
冴木学の場合

44

しおりを挟む
☆☆☆

 午前中、デスクで忙しそうに仕事をしてる若槻さんに、思いきって話しかけた。

「若槻さん、お昼奢るから一緒にどうかな?」

 本当は社内で話がしたかったものの、副編集長の監視カメラのことを考えたら、外に出て話をするのが安全だと判断。それで誘ってみたのである。

(今回のことが副編集長の耳に入ったりしたら、まず間違いなく二人そろって、仲良くお説教を食らうことになるのがわかる!)

 副編集長は美羽姉と一緒に飲みながら、いろんな話をしたことで、彼女をとても気に入ったらしい。なにかにつけて『白鳥が美羽ちゃんの彼氏で羨ましい』など、いろいろ言われている。

 そんなお気に入りの美羽姉を傷つけることをした俺たちの行為を、副編集長が知ったらどうなるか、火を見るより明らかだった。

「白鳥の奢りって、なにか頼み事をしたくて奢ってくれる感じ?」

 若槻さんは、訝しさマックスの面持ちで俺を見る。

「頼み事というか、お礼を兼ねている感じ」

「お礼?」

「若槻さんがボツになった、例の記事で教えてくれた知識のおかげで、犯罪者の手から彼女を守ることができたんだ」

『痴漢』や『いじめ』という言葉で、犯罪を軽いものとは思わないでほしい。というコンセプトで若槻さんが記事をつくった際に、予備知識として頭に入れてみてと、性犯罪や暴行罪についてあれこれメモったことが、あのとき生かされた。その結果、堀田さんの魔の手から美羽姉を守ることができた。

(あのセリフのおかげで、向こうが俺を警察官だと思ったこと間違いなし!)

「よくわかんないけど、奢ってくれるのなら黙って奢られるわ」

 こうしてふたりでお昼時に社外に出て、近所にあるファミレスで昼食をとることになった。

 他愛ない話をしながら食事をし、食後のコーヒーを飲むときになって、やっと本題を切り出す。

「あのね若槻さん、この間の呼び出しのときのことなんだけどさ」

「あー、あれね。本当にごめん。力を入れたネタがボツになったくらいで弱気になって、白鳥に甘えてしまって」

「実は一部始終を、彼女に見られていたんだ」

 俺が言った途端に、若槻さんは持っていたコーヒーカップをガシャンと大きな音を鳴らして置く。

「ちょっと、それすごい問題じゃないの……」

「うん。少しだけ揉めた」

「なんでそのこと、私にすぐに言ってくれなかったの? 誤解を解くために、速攻で頭を下げに行くのに!」

 テーブルを拳で殴りながら怒鳴られたせいで、ビビりまくるしかない。

「あれは、俺の態度もよくなかったからさ。誰にでも優しい態度で接しちゃいけないって、わかったことに繋がったし。だから事後報告になったというわけ」

「だとしても、私としてはこのままじゃ嫌だよ。彼女に会わせて!」

「もう終わったことだから、いまさらいいって」

「よくないに決まってるでしょ! 今この話を聞いた私が、まだ終わってない! 彼女に会わせて!」

 俺が絶対に断れないであろう、めちゃくちゃ怖い顔つきで言われたため、美羽姉にLINEでそのことを報告したら、今日は早めに帰るらしく、俺のマンション近くの公園で待ち合わせることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...