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冴木学の場合
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「美羽姉ってば傍にいたなら、俺に声をかければよかったのに!」
肩に触れていた両手で、美羽姉の体をゆさゆさ揺さぶった。まるで駄々っ子みたいなことをしてる自覚があったものの、せずにはいられない。
「学くんはお仕事中だったしね。かわいい彼女との仲を、邪魔しちゃ悪いかなと思ったので」
「彼女はライターさんで、友達みたいな感じで仲はいいけど、美羽姉が思うような間柄じゃない!」
「もう学くん、そんなに揺らしたら酔っちゃうよ」
「あ~、昼間のあのときに美羽姉に逢いたかった!」
美羽姉から手を放して、頭を抱え込みながら床に突っ伏した。今の俺はみっともない、小さな子どもみたい。過去に戻れるわけないのに、無理なことを口にしてしまった。
「私と逢っていたなら、どうなっていたの?」
笑いを噛み殺した問いかけに、チラッと腕の隙間から顔を覗かせて告げる。
「めちゃくちゃ仕事が捗ったに違いない」
もしかしたら、いい写真が撮れたかもしれない!
「それだけ?」
「美羽姉に対する、好きな気持ちが濃くなる」
逢うたびに濃くなる想いは、どんどん重くなる――。
「あとは?」
「美羽姉に逢えた喜びを伝えるために、この時間にここに来て、さっきと同じようなキスをする」
「そして、私の肩を揉むところまで同じなんでしょ?」
美羽姉は駄々をこねる俺の背中に抱きつき、すりりと頬擦りした。
「学くん、かわいい」
「かわいいよりも、好きって言ってほしい」
「好きって言うときは、特別なときだけ。わかるでしょ?」
意味深なまなざしで、俺を見つめる。今日はできない日なのに、そんな目で見られたら、手を出してしまう恐れがあるのがわかって、俺を試すようにこんな顔をする。美羽姉は本当に厄介な恋人だな。
「特別なときだけなのに、あのとき呟いたんだ?」
「だって、妬いちゃった……」
「俺は美羽だけだよ。妬く必要ないじゃん」
「妬くよ。私は学くんが好きだから」
「つ~~~っ! このタイミングでそれを言うとか、犯罪級にヤバいんだけど!」
「キャッ! ちょっと学くん!?」
俺はいきなり起きあがり、美羽姉の体を抱きしめながら、床にゆっくり押し倒した。
「我慢できないけど、ガマンする。キスだけでなんとかするから、受け止めて♡」
真横に顔を傾けて唇に近づけたときに、それに気づいた。
「美羽姉、あのさ」
「ん?」
「髪の毛切ろうと思うんだけど、次はどんな髪型がいいと思う?」
パーマがとれてきたことと髪が伸びた事で、前髪が目に留まる。というかこのタイミングで言ってしまうなんて、無意識に自分の行動を制御しているのかもしれない。
美羽姉は俺のおでこに手をやり、顔を遠のかせて距離をとってから、まじまじと眺める。
「そうねぇ、いっそのこと、坊主にしたら?」
「マジで言ってる?」
「ふふっ、冗談!」
「真面目な顔で言われたら、それを実行するであろう俺の素直な気持ちを、弄ばないでくれよ」
「だけど全体的にもっとカットして、緩くパーマをかけたら、学くんの寝癖の心配をしなくて済むかな」
言いながら俺の髪の毛を手に取り、指先で摘んで引っ張る。
「なるほど」
「それに写真を撮るのも、邪魔にならないでしょ?」
「うん、そうだね」
「だけど困ったことがあるのよねぇ」
髪に触れていた手が俺の頬に触れて、愛おしそうに指先が皮膚を撫でる。
「俺の髪を切ることで、美羽姉が困ることなんてあるっけ?」
なんだろうと思考を巡らせる。
「大アリよ。だって髪を短くすると、学くんのイケメンが前面に晒されるの。たくさんの女のコの目に留まっちゃうってわけ」
「なんだ、そんなことか」
正直くだらないと思った俺に、美羽姉が目の前でめちゃくちゃ怒った。
「なんだじゃないわよ、わかってないなぁ! モテる彼氏をもつ彼女の気持ちは、すっごく複雑なんだから!」
モテても、そんなの関係ないというのに。だって俺は、美羽姉しか見えない。
「俺は美羽が好き。昔も今も美羽だけなんだよ」
「お願いだから、学くんは変わらないでいてね」
「絶対に変わらない。美羽だけを愛してる」
そして、やりかけたキスの続きをする。限られた時間だから念入りに、愛を込めて美羽姉に想いを捧げたのだった。
肩に触れていた両手で、美羽姉の体をゆさゆさ揺さぶった。まるで駄々っ子みたいなことをしてる自覚があったものの、せずにはいられない。
「学くんはお仕事中だったしね。かわいい彼女との仲を、邪魔しちゃ悪いかなと思ったので」
「彼女はライターさんで、友達みたいな感じで仲はいいけど、美羽姉が思うような間柄じゃない!」
「もう学くん、そんなに揺らしたら酔っちゃうよ」
「あ~、昼間のあのときに美羽姉に逢いたかった!」
美羽姉から手を放して、頭を抱え込みながら床に突っ伏した。今の俺はみっともない、小さな子どもみたい。過去に戻れるわけないのに、無理なことを口にしてしまった。
「私と逢っていたなら、どうなっていたの?」
笑いを噛み殺した問いかけに、チラッと腕の隙間から顔を覗かせて告げる。
「めちゃくちゃ仕事が捗ったに違いない」
もしかしたら、いい写真が撮れたかもしれない!
「それだけ?」
「美羽姉に対する、好きな気持ちが濃くなる」
逢うたびに濃くなる想いは、どんどん重くなる――。
「あとは?」
「美羽姉に逢えた喜びを伝えるために、この時間にここに来て、さっきと同じようなキスをする」
「そして、私の肩を揉むところまで同じなんでしょ?」
美羽姉は駄々をこねる俺の背中に抱きつき、すりりと頬擦りした。
「学くん、かわいい」
「かわいいよりも、好きって言ってほしい」
「好きって言うときは、特別なときだけ。わかるでしょ?」
意味深なまなざしで、俺を見つめる。今日はできない日なのに、そんな目で見られたら、手を出してしまう恐れがあるのがわかって、俺を試すようにこんな顔をする。美羽姉は本当に厄介な恋人だな。
「特別なときだけなのに、あのとき呟いたんだ?」
「だって、妬いちゃった……」
「俺は美羽だけだよ。妬く必要ないじゃん」
「妬くよ。私は学くんが好きだから」
「つ~~~っ! このタイミングでそれを言うとか、犯罪級にヤバいんだけど!」
「キャッ! ちょっと学くん!?」
俺はいきなり起きあがり、美羽姉の体を抱きしめながら、床にゆっくり押し倒した。
「我慢できないけど、ガマンする。キスだけでなんとかするから、受け止めて♡」
真横に顔を傾けて唇に近づけたときに、それに気づいた。
「美羽姉、あのさ」
「ん?」
「髪の毛切ろうと思うんだけど、次はどんな髪型がいいと思う?」
パーマがとれてきたことと髪が伸びた事で、前髪が目に留まる。というかこのタイミングで言ってしまうなんて、無意識に自分の行動を制御しているのかもしれない。
美羽姉は俺のおでこに手をやり、顔を遠のかせて距離をとってから、まじまじと眺める。
「そうねぇ、いっそのこと、坊主にしたら?」
「マジで言ってる?」
「ふふっ、冗談!」
「真面目な顔で言われたら、それを実行するであろう俺の素直な気持ちを、弄ばないでくれよ」
「だけど全体的にもっとカットして、緩くパーマをかけたら、学くんの寝癖の心配をしなくて済むかな」
言いながら俺の髪の毛を手に取り、指先で摘んで引っ張る。
「なるほど」
「それに写真を撮るのも、邪魔にならないでしょ?」
「うん、そうだね」
「だけど困ったことがあるのよねぇ」
髪に触れていた手が俺の頬に触れて、愛おしそうに指先が皮膚を撫でる。
「俺の髪を切ることで、美羽姉が困ることなんてあるっけ?」
なんだろうと思考を巡らせる。
「大アリよ。だって髪を短くすると、学くんのイケメンが前面に晒されるの。たくさんの女のコの目に留まっちゃうってわけ」
「なんだ、そんなことか」
正直くだらないと思った俺に、美羽姉が目の前でめちゃくちゃ怒った。
「なんだじゃないわよ、わかってないなぁ! モテる彼氏をもつ彼女の気持ちは、すっごく複雑なんだから!」
モテても、そんなの関係ないというのに。だって俺は、美羽姉しか見えない。
「俺は美羽が好き。昔も今も美羽だけなんだよ」
「お願いだから、学くんは変わらないでいてね」
「絶対に変わらない。美羽だけを愛してる」
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