上 下
19 / 126
冴木学の場合

14

しおりを挟む
「あら若槻、なにか物言いたげな感じね。白鳥となにかあったの?」

「張り込み中の暇な時間に、白鳥の彼女のことを相談されました。年上の彼女の隣に並べる、大人の男になりたいそうです」

 提出された書類から顔をあげた副編集長が、若槻に視線を注ぎながら、ゲンナリとした口調で告げる。

「やっぱり余計なことを考えてるのね、あのコ。クソ真面目だから、しょうがないんだけど。それで若槻は、なんて答えてあげたの?」

「私の目から見て、ちゃんとした男だよって答えてあげました。私も年上の人と付き合ったときは、同じことを考えてたから、白鳥の気持ちがすごくわかるんです」

 若者同士で仲良く交流してることを知った副編集長は、考え込むように自分の顎に触れて訊ねる。

「そのこと、白鳥に言った?」

「言いませんでした。昔の話だったので……」

 若槻が言い終わらないうちに、目の前でパチンと指を鳴らした。

「それ正解よ! 恋愛は当人たちがするものだから、若槻のアドバイスを聞いたところで、意味がないのよね」

「一ノ瀬さんのアドバイスも、どうかと思いますけど。問題がグチャっとって表現。もっとわかりやすい、別な言い方をすればいいのに」

 眉根を寄せて嫌そうな表情をする若槻に、副編集長は小さなため息を吐いた。

「さっきの、若槻の耳に聞こえてたんだ。一ノ瀬という男は、見かけ以上に不器用なヤツなのよ。白鳥のことを心配したから、気にかかるように、わざと変な言葉を使っただけなの」

「伝わりませんよ、そんなの……」

「ちょっとでも伝わればいいんだって。白鳥の目の前を問題が塞いだときに、一ノ瀬の言ったセリフが浮かんできたら、少しでも気が楽になるでしょ。思い浮かばなかったときはきっと、若槻に相談するんじゃないかしらね」

 副編集長は言い終えるなり、ふたたび書類に目を落とした。若槻はなにも言わずに、その様子をじっと見つめる。

「この記事、私はいいと思うけど、編集長のOKをもらわなきゃ駄目だから。それと1本、若槻のやってみたいことを記事にしてみていいわよ。タイミングがよければ、雑誌に掲載してみようかって話があがっているの」

「ホントですか?」

 デスクに身を乗り出した若槻を見て、「若いっていいわね」なんて告げてから、今週出した自社の雑誌を掲げた。

「例の事件を大々的に取りあげたことで、世間の注目を浴びてる。ライターとして自分の声を大勢に届けたいと思うのなら、気負わずに正々堂々とやってみなさい」

「カメラマンは白鳥がいいです」

「あのコも引っ張りだこね。タイミングが合わなかったときは、諦めてちょうだい」

「白鳥、いい写真撮りますもんね」

「顔だけじゃなく、写真の腕もいいときてるから。師匠がヘッドハンティングされていなくなった仁木さんだし、白鳥の腕がいいのは当然なのよね。だけどウチに残ってるカメラマンでいい仕事をするヤツって、数人しかいないのが、痛いところだわぁ」

「ウチの会社にいるカメラマン、それなりに腕がいいのは認めますけど、性格は正直どうかと思います」

「そんなこと言ってると、誰も若槻と組んでくれなくなるわよぉ」

 いつもは殺伐としている編集部に、和やかな雰囲気が流れたことで、ほかの社員もそれを感じ、穏やかな気持ちで仕事に勤しむことができたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...