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冴木学の場合
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「あら若槻、なにか物言いたげな感じね。白鳥となにかあったの?」
「張り込み中の暇な時間に、白鳥の彼女のことを相談されました。年上の彼女の隣に並べる、大人の男になりたいそうです」
提出された書類から顔をあげた副編集長が、若槻に視線を注ぎながら、ゲンナリとした口調で告げる。
「やっぱり余計なことを考えてるのね、あのコ。クソ真面目だから、しょうがないんだけど。それで若槻は、なんて答えてあげたの?」
「私の目から見て、ちゃんとした男だよって答えてあげました。私も年上の人と付き合ったときは、同じことを考えてたから、白鳥の気持ちがすごくわかるんです」
若者同士で仲良く交流してることを知った副編集長は、考え込むように自分の顎に触れて訊ねる。
「そのこと、白鳥に言った?」
「言いませんでした。昔の話だったので……」
若槻が言い終わらないうちに、目の前でパチンと指を鳴らした。
「それ正解よ! 恋愛は当人たちがするものだから、若槻のアドバイスを聞いたところで、意味がないのよね」
「一ノ瀬さんのアドバイスも、どうかと思いますけど。問題がグチャっとって表現。もっとわかりやすい、別な言い方をすればいいのに」
眉根を寄せて嫌そうな表情をする若槻に、副編集長は小さなため息を吐いた。
「さっきの、若槻の耳に聞こえてたんだ。一ノ瀬という男は、見かけ以上に不器用なヤツなのよ。白鳥のことを心配したから、気にかかるように、わざと変な言葉を使っただけなの」
「伝わりませんよ、そんなの……」
「ちょっとでも伝わればいいんだって。白鳥の目の前を問題が塞いだときに、一ノ瀬の言ったセリフが浮かんできたら、少しでも気が楽になるでしょ。思い浮かばなかったときはきっと、若槻に相談するんじゃないかしらね」
副編集長は言い終えるなり、ふたたび書類に目を落とした。若槻はなにも言わずに、その様子をじっと見つめる。
「この記事、私はいいと思うけど、編集長のOKをもらわなきゃ駄目だから。それと1本、若槻のやってみたいことを記事にしてみていいわよ。タイミングがよければ、雑誌に掲載してみようかって話があがっているの」
「ホントですか?」
デスクに身を乗り出した若槻を見て、「若いっていいわね」なんて告げてから、今週出した自社の雑誌を掲げた。
「例の事件を大々的に取りあげたことで、世間の注目を浴びてる。ライターとして自分の声を大勢に届けたいと思うのなら、気負わずに正々堂々とやってみなさい」
「カメラマンは白鳥がいいです」
「あのコも引っ張りだこね。タイミングが合わなかったときは、諦めてちょうだい」
「白鳥、いい写真撮りますもんね」
「顔だけじゃなく、写真の腕もいいときてるから。師匠がヘッドハンティングされていなくなった仁木さんだし、白鳥の腕がいいのは当然なのよね。だけどウチに残ってるカメラマンでいい仕事をするヤツって、数人しかいないのが、痛いところだわぁ」
「ウチの会社にいるカメラマン、それなりに腕がいいのは認めますけど、性格は正直どうかと思います」
「そんなこと言ってると、誰も若槻と組んでくれなくなるわよぉ」
いつもは殺伐としている編集部に、和やかな雰囲気が流れたことで、ほかの社員もそれを感じ、穏やかな気持ちで仕事に勤しむことができたのだった。
「張り込み中の暇な時間に、白鳥の彼女のことを相談されました。年上の彼女の隣に並べる、大人の男になりたいそうです」
提出された書類から顔をあげた副編集長が、若槻に視線を注ぎながら、ゲンナリとした口調で告げる。
「やっぱり余計なことを考えてるのね、あのコ。クソ真面目だから、しょうがないんだけど。それで若槻は、なんて答えてあげたの?」
「私の目から見て、ちゃんとした男だよって答えてあげました。私も年上の人と付き合ったときは、同じことを考えてたから、白鳥の気持ちがすごくわかるんです」
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眉根を寄せて嫌そうな表情をする若槻に、副編集長は小さなため息を吐いた。
「さっきの、若槻の耳に聞こえてたんだ。一ノ瀬という男は、見かけ以上に不器用なヤツなのよ。白鳥のことを心配したから、気にかかるように、わざと変な言葉を使っただけなの」
「伝わりませんよ、そんなの……」
「ちょっとでも伝わればいいんだって。白鳥の目の前を問題が塞いだときに、一ノ瀬の言ったセリフが浮かんできたら、少しでも気が楽になるでしょ。思い浮かばなかったときはきっと、若槻に相談するんじゃないかしらね」
副編集長は言い終えるなり、ふたたび書類に目を落とした。若槻はなにも言わずに、その様子をじっと見つめる。
「この記事、私はいいと思うけど、編集長のOKをもらわなきゃ駄目だから。それと1本、若槻のやってみたいことを記事にしてみていいわよ。タイミングがよければ、雑誌に掲載してみようかって話があがっているの」
「ホントですか?」
デスクに身を乗り出した若槻を見て、「若いっていいわね」なんて告げてから、今週出した自社の雑誌を掲げた。
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「ウチの会社にいるカメラマン、それなりに腕がいいのは認めますけど、性格は正直どうかと思います」
「そんなこと言ってると、誰も若槻と組んでくれなくなるわよぉ」
いつもは殺伐としている編集部に、和やかな雰囲気が流れたことで、ほかの社員もそれを感じ、穏やかな気持ちで仕事に勤しむことができたのだった。
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