26 / 35
恋のマッチアップ番外編 膠着状態5
しおりを挟む
***
こじんまりしたアパートの1階、『加賀谷』という表札をしっかり確認してから、インターフォンを押してみた。ピンポーン♪という音が響き渡ったものの、それ以外の音がまったく聞こえてこない。
(大学にも顔を出さず、自宅を留守する理由。バイトをしている話も聞いてないし、それ以外で加賀谷がやっていることと言えば、たったひとつだ!)
ジーンズのポケットからスマホを取り出して、アパート近くにある公園を検索した。ここから徒歩5分の場所にあることがわかったので、地図を頼りに向かってみる。
米兵とストリートバスケをしている話を以前聞いていたからこそ、そこを目指した。
(公園にいなければ、探すあてがないな。加賀屋の住所を教えてくれた同期に、行きそうな場所を訊ねてみるか――)
加賀谷がいなかったことを考慮しながら歩いていると、背の高いバスケのリングとバックボードが、木々の間から見え隠れする。ドリブルやその他の音がしないか耳を澄ましてみたのに、なにも聞こえなかった。
それでも確認しなければと、コートを目指した俺の目に映ったのは、ど真ん中で大の字に倒れている加賀屋だった。
「うわっ、大丈夫かっ?」
目の前の事態に、心臓が破裂しそうな勢いでバクバクした。絡まりかける足を動かし、加賀屋の傍に駆け寄る。
「加賀屋っ、加賀屋しっかりしろ!」
上半身を慎重に抱き起こしてから、頬を叩いてみる。
見たことがないくらい髪はボサボサで顔色は青白く、目が虚ろな状態だった。抱きしめた躰からは湿気った熱がじわじわ伝わってきて、素人の俺でもただごとじゃないというのがわかる。
「加賀屋…加賀屋っ!」
音が鳴るくらい頬を叩いているのに、荒い息を繰り返すばかり。救急車を呼ぼうと考えたタイミングで、力ない声が聞こえてきた。
「俺もぅ死ぬのかな。笹良がすぐ傍にいる感覚がある……」
「なに馬鹿なことを言ってるんだ。おまえの傍に、俺がいるっていうのに」
存在を知らしめるために両腕の力を込めて、ぼんやりする加賀屋を抱きしめてやった。
「本物の、笹良?」
重たそうな瞼をやっと開けて、俺の顔を見上げた。
「そうだよ。なんでこんなことになってるんだ? まさか、また無茶な練習をしたんじゃないだろうな」
俺の問いかけに、バツの悪そうな顔をする。
目を頼りにしないシュートをするために、馬鹿みたいな練習を何度もする加賀谷だから、無理をするのは簡単に想像できた。
「あー……。ちょっとだけ」
「ちょっとじゃないだろ、こんなにボロボロになってるのに!」
「笹良からキスしてくれたら、すぐに元気になるって」
加賀谷はいつものようにへらっと笑ってみせるが、俺としては笑う気になれなかった。
「それ、違うトコロが元気になるだけだろ」
「バレたか、残念」
いつもはくだないことをベラベラ喋るくせに、端的な回答と覇気のない声が、加賀屋の疲労具合を表していた。
こじんまりしたアパートの1階、『加賀谷』という表札をしっかり確認してから、インターフォンを押してみた。ピンポーン♪という音が響き渡ったものの、それ以外の音がまったく聞こえてこない。
(大学にも顔を出さず、自宅を留守する理由。バイトをしている話も聞いてないし、それ以外で加賀谷がやっていることと言えば、たったひとつだ!)
ジーンズのポケットからスマホを取り出して、アパート近くにある公園を検索した。ここから徒歩5分の場所にあることがわかったので、地図を頼りに向かってみる。
米兵とストリートバスケをしている話を以前聞いていたからこそ、そこを目指した。
(公園にいなければ、探すあてがないな。加賀屋の住所を教えてくれた同期に、行きそうな場所を訊ねてみるか――)
加賀谷がいなかったことを考慮しながら歩いていると、背の高いバスケのリングとバックボードが、木々の間から見え隠れする。ドリブルやその他の音がしないか耳を澄ましてみたのに、なにも聞こえなかった。
それでも確認しなければと、コートを目指した俺の目に映ったのは、ど真ん中で大の字に倒れている加賀屋だった。
「うわっ、大丈夫かっ?」
目の前の事態に、心臓が破裂しそうな勢いでバクバクした。絡まりかける足を動かし、加賀屋の傍に駆け寄る。
「加賀屋っ、加賀屋しっかりしろ!」
上半身を慎重に抱き起こしてから、頬を叩いてみる。
見たことがないくらい髪はボサボサで顔色は青白く、目が虚ろな状態だった。抱きしめた躰からは湿気った熱がじわじわ伝わってきて、素人の俺でもただごとじゃないというのがわかる。
「加賀屋…加賀屋っ!」
音が鳴るくらい頬を叩いているのに、荒い息を繰り返すばかり。救急車を呼ぼうと考えたタイミングで、力ない声が聞こえてきた。
「俺もぅ死ぬのかな。笹良がすぐ傍にいる感覚がある……」
「なに馬鹿なことを言ってるんだ。おまえの傍に、俺がいるっていうのに」
存在を知らしめるために両腕の力を込めて、ぼんやりする加賀屋を抱きしめてやった。
「本物の、笹良?」
重たそうな瞼をやっと開けて、俺の顔を見上げた。
「そうだよ。なんでこんなことになってるんだ? まさか、また無茶な練習をしたんじゃないだろうな」
俺の問いかけに、バツの悪そうな顔をする。
目を頼りにしないシュートをするために、馬鹿みたいな練習を何度もする加賀谷だから、無理をするのは簡単に想像できた。
「あー……。ちょっとだけ」
「ちょっとじゃないだろ、こんなにボロボロになってるのに!」
「笹良からキスしてくれたら、すぐに元気になるって」
加賀谷はいつものようにへらっと笑ってみせるが、俺としては笑う気になれなかった。
「それ、違うトコロが元気になるだけだろ」
「バレたか、残念」
いつもはくだないことをベラベラ喋るくせに、端的な回答と覇気のない声が、加賀屋の疲労具合を表していた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
若旦那からの甘い誘惑
すいかちゃん
BL
使用人として、大きな屋敷で長年奉公してきた忠志。ある日、若旦那が1人で淫らな事をしているのを見てしまう。おまけに、その口からは自身の名が・・・。やがて、若旦那の縁談がまとまる。婚礼前夜。雨宿りをした納屋で、忠志は若旦那から1度だけでいいと甘く誘惑される。いけないとわかっていながら、忠志はその柔肌に指を・・・。
身分差で、誘い受けの話です。
第二話「雨宿りの秘密」
新婚の誠一郎は、妻に隠れて使用人の忠志と関係を続ける。
雨の夜だけの関係。だが、忠志は次第に独占欲に駆られ・・・。
冒頭は、誠一郎の妻の視点から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる