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恋のマッチアップ番外編 膠着状態4
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加賀屋が練習に来なくなって、1週間が経った。大学の講義にも顔を出していない。煩いヤツ兼ライバルが目の前からいなくなった事実は、いつもの日常を取り戻したことになる。
以前の俺なら加賀谷を気にせず、変につきまとわれないことに安堵して、毎日を送っているだろう。しかし残念ながら、心をかける相手がいるという状況が、考えを一変させた。
(俺が友達やめるなんて言ったのがショックで、落ちるところまで落ちて、動けなくなってるわけじゃないよな)
練習の途中で帰ったのも、熱が出たからというのを同期から聞いていたので、病気が治れば呑気な顔して、また現れるだろうと思った。
だけどもしや、普通の病気じゃなかったのだろうか。そのせいで、今まで調子があがらなかったのかもしれない。
「笹良、動きが止まってるけど、そろそろパス練再開してくれないか?」
「ごめん。あのさ!」
ボールをパスした同期に、思いきって話しかけてみた。
「なに?」
「加賀屋、ここのところ姿が見えないなって」
「ああ。ちょっと前に熱出したときの風邪が、相当悪いのかもな。LINEしても返事が遅いし。生きてるのは確かだけどさ」
「風邪……」
同期は渋い表情で、ボールを勢いよく投げて寄越した。
「1週間前、後半のトレーニングの説明を聞いてる最中に、俺の隣でかなりつらそうな顔して、変な呻き声をあげててさ。だから声かけたんだ、大丈夫かって」
(――俺と話をしたときは、そんなふうに見えなかった。もしかして具合が悪いのを、加賀谷なりに隠していたのか?)
パスされたボールを手に、その場に立ち止まってしまう。
加賀谷の状況がわからないだけじゃなく、自分の心に迷いがあったせいで、なかなか行動に移せなかった。だけど病気で困っているかもしれないアイツに、手を差し伸べなければいけないことが、自然と湧き上がってくる。
「……加賀屋のお見舞い行きたいんだけど、住んでるところ知ってる?」
気づいたら、居所を訊ねる言葉が口を突いて出た。
「ポジション争いをするライバルの見舞いなんて、笹良は優しいのな。加賀屋なんて放置しとけば、そのうちケロッとした顔で練習に参加しそう」
「確かにそうだよね。ハハッ……」
「アイツが住んでるアパート知ってるから、練習終わったら教えるよ。とりあえず今はプレイに集中! ほらほら、パスを回してくれって」
笑顔でボールを要求されたのに、俺は笑うことができなかった。パスしようとしたボールに、キメ顔した加賀谷が表面に浮かびあがり、ウインクまでする。
「笹良、ボールのパスじゃなく、今日の練習をパスしろ!」
「へっ?」
「急病だって監督に伝えてやる。急いで着替えてこい。その間に加賀屋の住所、LINEで送ってやるからさ」
「でも……」
急な申し出に戸惑う俺を見て、同期は腰に手を当てながら説明する。
「気になって仕方ないって顔してる。そんなんじゃ練習にならないだろ。たまにはサボって気分をリフレッシュするのも、次の練習にいかせると思うんだ。ここのところ笹良、頑張りすぎてる部分もあるなって思ってたし」
「ありがと。すぐに着替えてくる!」
練習から離脱する理由までつけてくれた同期に、持っていたボールをパスした。ボールと一緒にサボるという心暗い気持ちもパスしたお蔭で、スムーズに加賀谷のアパートに赴くことができたのだった。
加賀屋が練習に来なくなって、1週間が経った。大学の講義にも顔を出していない。煩いヤツ兼ライバルが目の前からいなくなった事実は、いつもの日常を取り戻したことになる。
以前の俺なら加賀谷を気にせず、変につきまとわれないことに安堵して、毎日を送っているだろう。しかし残念ながら、心をかける相手がいるという状況が、考えを一変させた。
(俺が友達やめるなんて言ったのがショックで、落ちるところまで落ちて、動けなくなってるわけじゃないよな)
練習の途中で帰ったのも、熱が出たからというのを同期から聞いていたので、病気が治れば呑気な顔して、また現れるだろうと思った。
だけどもしや、普通の病気じゃなかったのだろうか。そのせいで、今まで調子があがらなかったのかもしれない。
「笹良、動きが止まってるけど、そろそろパス練再開してくれないか?」
「ごめん。あのさ!」
ボールをパスした同期に、思いきって話しかけてみた。
「なに?」
「加賀屋、ここのところ姿が見えないなって」
「ああ。ちょっと前に熱出したときの風邪が、相当悪いのかもな。LINEしても返事が遅いし。生きてるのは確かだけどさ」
「風邪……」
同期は渋い表情で、ボールを勢いよく投げて寄越した。
「1週間前、後半のトレーニングの説明を聞いてる最中に、俺の隣でかなりつらそうな顔して、変な呻き声をあげててさ。だから声かけたんだ、大丈夫かって」
(――俺と話をしたときは、そんなふうに見えなかった。もしかして具合が悪いのを、加賀谷なりに隠していたのか?)
パスされたボールを手に、その場に立ち止まってしまう。
加賀谷の状況がわからないだけじゃなく、自分の心に迷いがあったせいで、なかなか行動に移せなかった。だけど病気で困っているかもしれないアイツに、手を差し伸べなければいけないことが、自然と湧き上がってくる。
「……加賀屋のお見舞い行きたいんだけど、住んでるところ知ってる?」
気づいたら、居所を訊ねる言葉が口を突いて出た。
「ポジション争いをするライバルの見舞いなんて、笹良は優しいのな。加賀屋なんて放置しとけば、そのうちケロッとした顔で練習に参加しそう」
「確かにそうだよね。ハハッ……」
「アイツが住んでるアパート知ってるから、練習終わったら教えるよ。とりあえず今はプレイに集中! ほらほら、パスを回してくれって」
笑顔でボールを要求されたのに、俺は笑うことができなかった。パスしようとしたボールに、キメ顔した加賀谷が表面に浮かびあがり、ウインクまでする。
「笹良、ボールのパスじゃなく、今日の練習をパスしろ!」
「へっ?」
「急病だって監督に伝えてやる。急いで着替えてこい。その間に加賀屋の住所、LINEで送ってやるからさ」
「でも……」
急な申し出に戸惑う俺を見て、同期は腰に手を当てながら説明する。
「気になって仕方ないって顔してる。そんなんじゃ練習にならないだろ。たまにはサボって気分をリフレッシュするのも、次の練習にいかせると思うんだ。ここのところ笹良、頑張りすぎてる部分もあるなって思ってたし」
「ありがと。すぐに着替えてくる!」
練習から離脱する理由までつけてくれた同期に、持っていたボールをパスした。ボールと一緒にサボるという心暗い気持ちもパスしたお蔭で、スムーズに加賀谷のアパートに赴くことができたのだった。
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