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第21話
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俺の目に映った笹良は、イップスを患っていたときとは違い、自信に満ち溢れる姿になっていて、もっともっと好きになってしまいそうになる。
慌てて顔を伏せると、俺の足は笹良の影を踏んでいた。なんの気なしに振り返ると、笹良の影と自分の影が重なり、黒さが一層濃くなっていた。
男同士の恋。まともとは思えない恋をするなら、笹良と一緒に堕ちたい。
「加賀谷は負けず嫌いだろ。このまま諦めるのか?」
「いいのかよ。俺が本気になってレギュラーを狙いにいったら、あっという間に控えの選手になるかもしれないんだぞ」
「そんな戯言を言うなんて、もしかすると今回の選抜試合では、本気で俺に挑んでなかったから、加賀谷は控えの選手になったんだ。かわいそうな俺に、情けをかけた?」
きつい目をしながら、突っかかるような口調で言うなり、ふたたび後退る。逃げる影を追いかけようと、慌ててにじり寄った。
「情けなんて、そんなのかけていない。俺は真面目に……」
自分のポジションを守れば、笹良と付き合える。だから俺としてはいつも以上に、真面目にプレイしたつもりだった。
「加賀谷のほうが、シュートの成功率は高い。それなのに、俺がレギュラーとして選ばれた。理由はなんだと思う?」
「スリーポイントシュートの貴公子として、名を馳せた笹良を使ったほうが、チームの士気があがるから」
俺が告げた途端に、笹良はさっきよりも顔を曇らせた。
「なにを言い出すかと思ったら、そんな理由で使われるわけがないだろう。だいぶ前に使われた俗称くらいで、チームの士気はあがらないって。頭がいいくせに、見えていないところが多すぎて残念すぎる」
俺のことを思いっきり罵った笹良に、反論する言葉が宙に舞った。
「加賀谷のプレイは、比較的に単独行動が多い。ひとりで敵陣に速攻で突っ切って、シュートするなんていう、無謀なプレイばかりしているだろう。パスを回すことによって、相手をかく乱させて体力を奪ったり、陣形を崩したりしないからだ。チームを信じて、一緒にプレイをしなきゃ」
笹良に指摘されたことは、監督によく注意されているところだった。
「だってよ……」
「それこそ、頭の良さがアダになってるよな。ぱっと見でショートカットできるところを瞬時に見極めて、速攻でドリブルしていく。その速さについていけない、チームメイトが悪いのか?」
俺は黙ったまま、首を横に振った。すると笹良はグーパンチで、胸元を軽くたたく。
「俺、加賀谷の速さに追いつきたい。他のメンバーも同じ気持ちだと思う。俺のイップスを治したみたいな特別な練習メニューを、加賀谷なら作ることが可能じゃないのか?」
「そ、そんなこと言われても」
慈愛に満ちた笹良のまなざしが、俺の心をくすぐった。
言われたとおりに特別な練習メニューを組んで、今まで以上に練習をしたら、レギュラーを奪還できるかもしれない。それは、笹良と付き合えることにつながるのだが。
「笹良は、それでいいのかよ?」
静まり返った坂の上で、俺の声が妙に響いた。
「黄金のレフティからレギュラーを奪った俺に、いろんな人が近づいてきた。中には、可愛い女のコもいたんだけどさ」
「へえ、そうなんだ」
可愛い女のコという単語に、嫌な予感が胸を支配する。男に迫られるよりも、女に迫られたほうが、やっぱり嬉しいだろう。
「だけど誰と喋っていても、全然楽しくなかった」
胸元で止まっていた笹良の右手が、俺のシャツの襟に触れる。肌に触れられているわけじゃないのに、ドキドキが止まらない。指先で布地の質を確かめるようにいじる手から、笹良の顔に視線を動かした。ひとみを細めて微笑む姿に、目が釘付けになる。
「加賀谷とこうして喋ってるほうが、何倍も楽しい」
「それは不思議なことだな」
「俺の周りに誰かいたら、講義を写しに来れないだろう。自力でやってるのか?」
「やるしかないだろ。他のヤツに頼みたくないし」
「だったら意地でも、レギュラー奪えよな。そしたら前のように、気軽に写しに来れるわけだし」
襟に触れていた手が、ゆっくりと離れていく。慌てて左手で掴み寄せた。
「絶対に奪う。俺はおまえの恋人になりたい」
「ちゃんと奪わないと全部あげない。それが条件だ」
(笹良の全部って、つまりアレだよな。心だけじゃなく、躰も捧げられちゃうということになるのか)
「あのさ笹良、忘れないように、約束のキスをしてもいい?」
俺としては、奪う気が満々だった。頭の片隅でこれからの練習メニューを、あれこれ考える。
「駄目に決まってるだろう。俺からレギュラーを奪ってからだ!」
「笹良にされたさっきの痛いキスを、俺としてはやり直したい」
「うっ、わかった……」
「勢いは唇を重ねてから。そこにいきつくまでは優しく、こうするんだ」
掴んだ笹良の右手を引っ張って、掬いあげるようにキスをした。
レギュラー奪還まで、あとどれくらいかかるだろうか。
次回の試合に向けて、しっかり練習することを、このあと笹良に誓ったのだった。
おしまい
たくさん読んでくれたお礼に、このあとのふたりを番外編として連載していこうと思います。
慌てて顔を伏せると、俺の足は笹良の影を踏んでいた。なんの気なしに振り返ると、笹良の影と自分の影が重なり、黒さが一層濃くなっていた。
男同士の恋。まともとは思えない恋をするなら、笹良と一緒に堕ちたい。
「加賀谷は負けず嫌いだろ。このまま諦めるのか?」
「いいのかよ。俺が本気になってレギュラーを狙いにいったら、あっという間に控えの選手になるかもしれないんだぞ」
「そんな戯言を言うなんて、もしかすると今回の選抜試合では、本気で俺に挑んでなかったから、加賀谷は控えの選手になったんだ。かわいそうな俺に、情けをかけた?」
きつい目をしながら、突っかかるような口調で言うなり、ふたたび後退る。逃げる影を追いかけようと、慌ててにじり寄った。
「情けなんて、そんなのかけていない。俺は真面目に……」
自分のポジションを守れば、笹良と付き合える。だから俺としてはいつも以上に、真面目にプレイしたつもりだった。
「加賀谷のほうが、シュートの成功率は高い。それなのに、俺がレギュラーとして選ばれた。理由はなんだと思う?」
「スリーポイントシュートの貴公子として、名を馳せた笹良を使ったほうが、チームの士気があがるから」
俺が告げた途端に、笹良はさっきよりも顔を曇らせた。
「なにを言い出すかと思ったら、そんな理由で使われるわけがないだろう。だいぶ前に使われた俗称くらいで、チームの士気はあがらないって。頭がいいくせに、見えていないところが多すぎて残念すぎる」
俺のことを思いっきり罵った笹良に、反論する言葉が宙に舞った。
「加賀谷のプレイは、比較的に単独行動が多い。ひとりで敵陣に速攻で突っ切って、シュートするなんていう、無謀なプレイばかりしているだろう。パスを回すことによって、相手をかく乱させて体力を奪ったり、陣形を崩したりしないからだ。チームを信じて、一緒にプレイをしなきゃ」
笹良に指摘されたことは、監督によく注意されているところだった。
「だってよ……」
「それこそ、頭の良さがアダになってるよな。ぱっと見でショートカットできるところを瞬時に見極めて、速攻でドリブルしていく。その速さについていけない、チームメイトが悪いのか?」
俺は黙ったまま、首を横に振った。すると笹良はグーパンチで、胸元を軽くたたく。
「俺、加賀谷の速さに追いつきたい。他のメンバーも同じ気持ちだと思う。俺のイップスを治したみたいな特別な練習メニューを、加賀谷なら作ることが可能じゃないのか?」
「そ、そんなこと言われても」
慈愛に満ちた笹良のまなざしが、俺の心をくすぐった。
言われたとおりに特別な練習メニューを組んで、今まで以上に練習をしたら、レギュラーを奪還できるかもしれない。それは、笹良と付き合えることにつながるのだが。
「笹良は、それでいいのかよ?」
静まり返った坂の上で、俺の声が妙に響いた。
「黄金のレフティからレギュラーを奪った俺に、いろんな人が近づいてきた。中には、可愛い女のコもいたんだけどさ」
「へえ、そうなんだ」
可愛い女のコという単語に、嫌な予感が胸を支配する。男に迫られるよりも、女に迫られたほうが、やっぱり嬉しいだろう。
「だけど誰と喋っていても、全然楽しくなかった」
胸元で止まっていた笹良の右手が、俺のシャツの襟に触れる。肌に触れられているわけじゃないのに、ドキドキが止まらない。指先で布地の質を確かめるようにいじる手から、笹良の顔に視線を動かした。ひとみを細めて微笑む姿に、目が釘付けになる。
「加賀谷とこうして喋ってるほうが、何倍も楽しい」
「それは不思議なことだな」
「俺の周りに誰かいたら、講義を写しに来れないだろう。自力でやってるのか?」
「やるしかないだろ。他のヤツに頼みたくないし」
「だったら意地でも、レギュラー奪えよな。そしたら前のように、気軽に写しに来れるわけだし」
襟に触れていた手が、ゆっくりと離れていく。慌てて左手で掴み寄せた。
「絶対に奪う。俺はおまえの恋人になりたい」
「ちゃんと奪わないと全部あげない。それが条件だ」
(笹良の全部って、つまりアレだよな。心だけじゃなく、躰も捧げられちゃうということになるのか)
「あのさ笹良、忘れないように、約束のキスをしてもいい?」
俺としては、奪う気が満々だった。頭の片隅でこれからの練習メニューを、あれこれ考える。
「駄目に決まってるだろう。俺からレギュラーを奪ってからだ!」
「笹良にされたさっきの痛いキスを、俺としてはやり直したい」
「うっ、わかった……」
「勢いは唇を重ねてから。そこにいきつくまでは優しく、こうするんだ」
掴んだ笹良の右手を引っ張って、掬いあげるようにキスをした。
レギュラー奪還まで、あとどれくらいかかるだろうか。
次回の試合に向けて、しっかり練習することを、このあと笹良に誓ったのだった。
おしまい
たくさん読んでくれたお礼に、このあとのふたりを番外編として連載していこうと思います。
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