18 / 35
第18話
しおりを挟む
「だって思ってる以上に、笹良の感度が良くて、すげぇ興奮しちゃってさ」
「俺は男だぞ、興奮する相手じゃない」
さっきと同じようなやり取りになったが、言わずにはいられなかった。
「男だけど好きな相手だ」
「良すぎる頭が、アダになったのかもな」
さっきから憎まれ口を叩かれているというのに、微笑みを絶やさない加賀谷。溢れていた涙は乾いているというのに、何度も何度も優しく頬に触れる。優しくされるせいで、その手を退かすことができなかった。
「その良すぎる頭を使った、いい考えがあるんだ」
「下半身をおっ勃てたままで、いいアイデアが浮かぶとは思えない」
「俺が笹良をディレクションする」
頬に触れていた片手を外すなり、それを使って目の前でピースサインを作った。
「ディレクションって、いったい」
「今までの笹良をぶっ壊して『コイツって、実はこんなにすごいヤツだったのか』とみんなに思わせる笹良を、俺が作るんだ。そうすれば俺の隣にいようが、何をしようが、誰も何も言わないだろ?」
「くだらない。俺を壊す前に、加賀谷の頭がぶっ壊れてるとしか思えない」
自信満々に言いきられても、胡散臭い話にしか聞こえなかった。
「まずは笹良に憑りついている、イップスを治してみせる。これが完治したら、間違いなくレギュラー入りするだろうから、俺とポジション争いをすると思うんだ」
「そんな夢みたいな話、簡単に信じられるかよ。高校大学と時間がかかっても、治らなかったものなのに」
胸の前に腕を組んで、顔を逸らしながら吐き捨ててやる。
「俺の頭の中でイップスを治すための、プログラムを作ってる。さっきのやり取りをもとにしてるから、絶対いい線いくぞ。尚、笹良がレギュラー入りしなかった場合は、俺がバスケを辞めるという手もあるが」
「バカなことを言うなよ。加賀谷の黄金のレフティを、みすみすドブに捨てるっていうのか!?」
「だったら素直に、俺の考えたプログラムに従ってくれよな」
(これってどう考えても、俺が不利だろ。加賀谷に、謀られたとしか思えない)
「笹良、そんな悔しそうな顔すんなって。おまえにとって、有利な提案がある」
「加賀谷がそれを口にしても、有利とはまったく思えない」
じと目で首を横に振りながら指摘すると、得意げな顔で右手人差し指を立てた。
「おまえが俺からポジションを奪ったら、引き下がってやるという条件なんだけどさ」
「うわぁ……。黄金のレフティから、ポジションを奪えるわけないだろ」
「その可能性があるから、提案してるんだって。笹良のバスケセンスは、俺よりも上だ。なんつーか、天才型って感じだと思う」
「信じられない」
「イップスを治して、主力選手と一緒に練習をしたら、間違いなくレギュラー入りできる」
「こっちはいろいろ問題を抱えてるっていうのに、簡単に言ってくれるよな」
俺が天才型だの、レギュラー入りできるなんていうことを言われても、説得力の欠片すらない。
「しかも俺はサボり魔で、監督からの信頼度がめっちゃ低い。そこに主力選手として使えそうな天才の笹良がいたら、どうなると思う?」
「加賀谷のポジションを……」
「そういうこと。だけど俺も、簡単にポジションを明け渡すつもりはない。笹良と付き合いたいし」
「もしも俺が、この条件から逃げたりしたら?」
「さっきみたいにエロいことして、笹良を無理やり堕とす作戦に切り替える」
デレっとした顔をしながら、両手の指先をもにょもにょ動かして、襲っちゃうぞというリアクションをする。そのせいで、思いっきり身の危険を感じた。
「それは反則だぞ!」
「見た目は潔癖症で、そういうのを一切受けつけませんっていうふうなのに、意外とエロくて、俺は嬉しかった。さっきの続き、したくない?」
「するわけないだろ、バカ加賀谷っ!」
「それなら、俺の考えたプログラムで練習するのは決定な。あ~、これからのバスケの練習が楽しみすぎる」
「この勝負、俺が勝って、加賀谷から逃げきってやるからな」
「ハハッ、俺だって負けない」
このことがきっかけとなり、自称サボり魔だった加賀谷が、ほぼ毎日練習に顔を出すようになった。
イップスを治すために、真面目にプログラムに励む俺と一緒に、加賀谷も練習を頑張るお蔭で、これまで崩れていた監督やメンバーとの信頼関係が、自然と構築されていった。
そんな状況下のもとだからこそ、すんなりとイップスが完治してしまった。以前にも増して練習が楽しくなり、気がついたら失われていた実力を取り戻していたのだった。
「俺は男だぞ、興奮する相手じゃない」
さっきと同じようなやり取りになったが、言わずにはいられなかった。
「男だけど好きな相手だ」
「良すぎる頭が、アダになったのかもな」
さっきから憎まれ口を叩かれているというのに、微笑みを絶やさない加賀谷。溢れていた涙は乾いているというのに、何度も何度も優しく頬に触れる。優しくされるせいで、その手を退かすことができなかった。
「その良すぎる頭を使った、いい考えがあるんだ」
「下半身をおっ勃てたままで、いいアイデアが浮かぶとは思えない」
「俺が笹良をディレクションする」
頬に触れていた片手を外すなり、それを使って目の前でピースサインを作った。
「ディレクションって、いったい」
「今までの笹良をぶっ壊して『コイツって、実はこんなにすごいヤツだったのか』とみんなに思わせる笹良を、俺が作るんだ。そうすれば俺の隣にいようが、何をしようが、誰も何も言わないだろ?」
「くだらない。俺を壊す前に、加賀谷の頭がぶっ壊れてるとしか思えない」
自信満々に言いきられても、胡散臭い話にしか聞こえなかった。
「まずは笹良に憑りついている、イップスを治してみせる。これが完治したら、間違いなくレギュラー入りするだろうから、俺とポジション争いをすると思うんだ」
「そんな夢みたいな話、簡単に信じられるかよ。高校大学と時間がかかっても、治らなかったものなのに」
胸の前に腕を組んで、顔を逸らしながら吐き捨ててやる。
「俺の頭の中でイップスを治すための、プログラムを作ってる。さっきのやり取りをもとにしてるから、絶対いい線いくぞ。尚、笹良がレギュラー入りしなかった場合は、俺がバスケを辞めるという手もあるが」
「バカなことを言うなよ。加賀谷の黄金のレフティを、みすみすドブに捨てるっていうのか!?」
「だったら素直に、俺の考えたプログラムに従ってくれよな」
(これってどう考えても、俺が不利だろ。加賀谷に、謀られたとしか思えない)
「笹良、そんな悔しそうな顔すんなって。おまえにとって、有利な提案がある」
「加賀谷がそれを口にしても、有利とはまったく思えない」
じと目で首を横に振りながら指摘すると、得意げな顔で右手人差し指を立てた。
「おまえが俺からポジションを奪ったら、引き下がってやるという条件なんだけどさ」
「うわぁ……。黄金のレフティから、ポジションを奪えるわけないだろ」
「その可能性があるから、提案してるんだって。笹良のバスケセンスは、俺よりも上だ。なんつーか、天才型って感じだと思う」
「信じられない」
「イップスを治して、主力選手と一緒に練習をしたら、間違いなくレギュラー入りできる」
「こっちはいろいろ問題を抱えてるっていうのに、簡単に言ってくれるよな」
俺が天才型だの、レギュラー入りできるなんていうことを言われても、説得力の欠片すらない。
「しかも俺はサボり魔で、監督からの信頼度がめっちゃ低い。そこに主力選手として使えそうな天才の笹良がいたら、どうなると思う?」
「加賀谷のポジションを……」
「そういうこと。だけど俺も、簡単にポジションを明け渡すつもりはない。笹良と付き合いたいし」
「もしも俺が、この条件から逃げたりしたら?」
「さっきみたいにエロいことして、笹良を無理やり堕とす作戦に切り替える」
デレっとした顔をしながら、両手の指先をもにょもにょ動かして、襲っちゃうぞというリアクションをする。そのせいで、思いっきり身の危険を感じた。
「それは反則だぞ!」
「見た目は潔癖症で、そういうのを一切受けつけませんっていうふうなのに、意外とエロくて、俺は嬉しかった。さっきの続き、したくない?」
「するわけないだろ、バカ加賀谷っ!」
「それなら、俺の考えたプログラムで練習するのは決定な。あ~、これからのバスケの練習が楽しみすぎる」
「この勝負、俺が勝って、加賀谷から逃げきってやるからな」
「ハハッ、俺だって負けない」
このことがきっかけとなり、自称サボり魔だった加賀谷が、ほぼ毎日練習に顔を出すようになった。
イップスを治すために、真面目にプログラムに励む俺と一緒に、加賀谷も練習を頑張るお蔭で、これまで崩れていた監督やメンバーとの信頼関係が、自然と構築されていった。
そんな状況下のもとだからこそ、すんなりとイップスが完治してしまった。以前にも増して練習が楽しくなり、気がついたら失われていた実力を取り戻していたのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる