恋のマッチアップ

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
12 / 35

第12話

しおりを挟む
 反復練習で無理やり叩き込むという、荒業的な練習の仕方がすごく気になった。

「目をつぶって、あらゆる角度からシュート練習しまくった。何千回何万回かな、ひたすら繰り返した」

「それって、目をつぶる必要性はあるのか?」

 かなり無茶ぶりと思われる練習法を聞いて、思わず顔が引きつってしまった。

「見たままシュートすると、躰が勝手に距離を測って、力加減を調整するから駄目なんだ。不測の事態に備えられない」

「不測の事態?」

(馬鹿正直というか不器用を極めると、凡人が思いつかないことをするんだな)

「スリーをとられないようにしようと、わざとファウルをするヤツがいるだろ。体当たりしてぶつかったり、ユニフォームを掴んで蹴飛ばしたりしてさ」

「まぁな。接戦だったら相手も必死になるから」

「目を頼りにしないシュートをすれば、どんなにひどい妨害をされても、確実に決めることができる。後ろからどつかれても、絶対にシュートが入るんだ」

 言いきったセリフを実践するように、俺に顔を向けた状態でゴールポストに向かって左腕が上下した。

 それはぱっと見、加賀谷の性格を表しているみたいな、適当に投げつけられたものにしか感じなかった。

 さっき放たれたスリーよりも勢いのあるボールは、バックボードに真っ直ぐぶつかり、リングに高くワンバウンドしてから、網の中に向かって回転しながらすり抜けていく。

「すごっ! 俺のこと緻密とか言ったけど、こんな芸当ができる加賀谷のほうが、よっぽど緻密だろ」

「残念ながら苦手なところからのシュートの確率はめちゃくちゃ低い上に、体調の良し悪しで、同じようなシュートが毎日できない」

 ぺろっと舌を出したあとに、ゴール下に向かって悠然と歩いて行く後ろ姿を眺めながら、告げられた言葉をもとに考えた。

「加賀谷はしょっちゅう、練習をサボってるよな」

「ああ。大学の練習はダルいし、出たら出たで練習にちゃんと参加しろって、監督にどやされるしさ。いろいろ面倒くさいだろ」

「それじゃあおまえはいったい、毎日どこで練習してるんだ?」

 胸の前に腕を組みながら、ゴール下にいる加賀谷に鋭いまなざしを飛ばした。

「ま、毎日なんて練習してないって」

 妙に上擦った声で返事をする。

 シュートしたボールを手に視線を右往左往させる様子は、嘘をついているのが明らかだった。

「『体調の良し悪しで、同じようなシュートが毎日できない』という言葉は、毎日練習していないと、出てこないんじゃないのか?」

「俺、そんなこと言ったっけ」

「数秒前の会話だからな。加賀谷よりも頭が良くなくったって、しっかり覚えてるぞ」

 自分の頭を指差ししながら指摘したら、仕方なさそうな表情でドリブルしながら戻って来た。

「笹良と喋ってると、調子がすげぇ狂う」

「それは俺も同じだよ。大学の練習サボって、どこで何をしているんだ」

「まいったな、察しが良すぎる」

 持っているボールを、さっきと同じように手の中で弄ぶ。

「俺はイップスのことを言ったんだ。ちゃんと白状しろよ」

「自宅近くの公園の中にあるバスケットコートで練習をしてたら、ガタイのいい米兵たちに声をかけられた。ストリートバスケをしたいんだけど、メンツが足りないから入らないかって」

「米兵とストリートバスケって、考えただけでもすごそうだな」

 練習に滅多に顔を出さない加賀谷が、主力選手に負けない働きを試合でする理由が、嫌というほどわかった。

「うまくやれるわけがないだろ。相手はストリートバスケに慣れた上手なヤツばかりで、最初はコテンパンにやられっぱなしだった」

「最初はやられっぱなしということは、今はそれなりになったということか。だって加賀谷は、ものすごい負けず嫌いだしな」

 俺にとって負けず嫌いという言葉は、マイナスワードを示すものなのに、加賀谷はなぜか嬉しそうに微笑む。

「接近戦が苦手だった俺には、ストリートはもってこいの練習になった。しかも相手は格上だから、学ぶこともたくさんあった」

「やれやれ。加賀谷がバスケを学んでる最中に、俺は治らない病と無駄に向き合っていたってことか」

 バスケ馬鹿がここまでくると、嫌味も通じないらしい。相も変わらず表情はにこやかなままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...