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第2話
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微妙な心境を抱えながら隣を見たら、うんざりする表情をありありと浮かべていた。
「試合なんてものは、出たいヤツが出ればいいんだって。面倒くさいし」
一言目はダルい。二言目には面倒くさいと文句を言う。みんなが羨む才能を、どうしてコイツは有効活用しないのだろうか。
「面倒くさい言うな。もったいない!」
「俺が出ないことで、出られないヤツがスタメン入りするんだから、それでいいんじゃねぇの」
「なんだよ、それ。そんな優しさ、俺なら必要ない」
「……スタメン入りして、試合に出たくないのか?」
遠慮がちな声が、俺をさらに苛つかせる。
ただでさえイライラさせられているというのに、図々しい態度を平然としていられるところとか、本当に無神経なヤツだと思った。
「そりゃあ試合には出たいさ。そのために成果は出てないけど、頑張って練習を地道にやってる」
注がれる視線をやり過ごすべく、思いっきりそっぽを向いた。
「俺よりもおまえのほうが、バスケのセンスはあると思うんだ」
「は?」
(なんだよ、それ。ルーズリーフを貸し渋った、俺に対する嫌味なのか?)
「バスケ部の初顔合わせのときだったか、同じチームになって一緒にプレイしたことがあったろ?」
「あったな」
そのときのことを、頭の中で思い出す。正直なところ、あまりいいものではないと記憶していた。
「俺さ、はじめて魅入ったんだ。他人のシュートフォームに目を奪われるなんて、今までしたことがなかった」
「ん? そんなにすごいヤツ、チームにいたっけ?」
同じチームになったメンツを思い出しながら視線をもとに戻すと、頬を染めて自分を見つめる、微妙な表情のアイツがそこにいた。
ペンを握りしめる左手がカタカタ小さく震える様子に、首を捻るしかない。
「おい、大丈夫なのか?」
苛立ちを隠して心配したら、意を決した顔で俺を凝視する。
「おまえが一緒に練習してくれたら、真面目になってやる」
「なんの脅しだよ、そりゃ……。最初から真面目に、練習に出ればいいだけだろ」
まじまじと見つめられる覚えがなくて、思いっきり狼狽えてしまった。
「俺としてはおまえと一緒に練習をしてみたかった。サボって気を引いたら、心配して練習に誘ってくれると思っていたのに、全然声をかけてくれなかったよな」
「俺から加賀谷に声をかけるなんて、するわけないだろう。それに俺とじゃレベルが違うんだから、一緒に練習なんてやらないって」
「レベルが違うなんて、そんなことはねぇよ。おまえを上達させる練習メニューを考えてるんだ」
(順風満帆なヤツの理論を応用しても、俺には通用しないというのに、何を言ってるんだか)
友達未満――俺なんて講義を写させる、都合のいいチームメイトの関係だ。それなのにどうして、こんなふうに執拗につきまとわれるのだろう。マジで鬱陶しい。
黄金のレフティから放たれる、綺麗な弧を描いたスリーポイントに感動して自分から声をかけなければ、こんなことにはならなかったと思われる。すべてのきっかけが、そこからはじまっていた。
「加賀谷、それ早く写さなきゃ、講義がはじまるぞ」
迷惑さを示すために顔をしかめて、いつもより低い声色で話しかけてやった。
「……俺は諦めない。おまえが好きだから」
授業がはじまる直前の騒々しい教室だったが、消え入りそうな加賀谷の言葉が、耳にハッキリと聞こえてきた。
告げられた内容があまりにも衝撃的すぎて、ひとことも声を出せずに固まったままでいる俺を加賀谷は一瞥してから、何事もなかったようにスラスラとペンを動かしてノートに写していく。
三日に一度だか一週間に二度など詳しくは知らないが、女子に告白されるくらいにモテる加賀谷が俺を好きって、どう考えてもおかしいだろ。
そのせいで授業がはじまっても、内容が頭にさっぱり入ってこない。
「ここの部分は大事だからな。きちんとノートをとっておくように!」
なんてことを先生に宣言されているにもかかわらず、ノートにそれを写す気力が湧かない。ただ漫然と授業を受け続けた。
俺の隣にいる加賀谷が今現在、どんな気持ちで授業を受けているのかが気になってしまったのである。
「試合なんてものは、出たいヤツが出ればいいんだって。面倒くさいし」
一言目はダルい。二言目には面倒くさいと文句を言う。みんなが羨む才能を、どうしてコイツは有効活用しないのだろうか。
「面倒くさい言うな。もったいない!」
「俺が出ないことで、出られないヤツがスタメン入りするんだから、それでいいんじゃねぇの」
「なんだよ、それ。そんな優しさ、俺なら必要ない」
「……スタメン入りして、試合に出たくないのか?」
遠慮がちな声が、俺をさらに苛つかせる。
ただでさえイライラさせられているというのに、図々しい態度を平然としていられるところとか、本当に無神経なヤツだと思った。
「そりゃあ試合には出たいさ。そのために成果は出てないけど、頑張って練習を地道にやってる」
注がれる視線をやり過ごすべく、思いっきりそっぽを向いた。
「俺よりもおまえのほうが、バスケのセンスはあると思うんだ」
「は?」
(なんだよ、それ。ルーズリーフを貸し渋った、俺に対する嫌味なのか?)
「バスケ部の初顔合わせのときだったか、同じチームになって一緒にプレイしたことがあったろ?」
「あったな」
そのときのことを、頭の中で思い出す。正直なところ、あまりいいものではないと記憶していた。
「俺さ、はじめて魅入ったんだ。他人のシュートフォームに目を奪われるなんて、今までしたことがなかった」
「ん? そんなにすごいヤツ、チームにいたっけ?」
同じチームになったメンツを思い出しながら視線をもとに戻すと、頬を染めて自分を見つめる、微妙な表情のアイツがそこにいた。
ペンを握りしめる左手がカタカタ小さく震える様子に、首を捻るしかない。
「おい、大丈夫なのか?」
苛立ちを隠して心配したら、意を決した顔で俺を凝視する。
「おまえが一緒に練習してくれたら、真面目になってやる」
「なんの脅しだよ、そりゃ……。最初から真面目に、練習に出ればいいだけだろ」
まじまじと見つめられる覚えがなくて、思いっきり狼狽えてしまった。
「俺としてはおまえと一緒に練習をしてみたかった。サボって気を引いたら、心配して練習に誘ってくれると思っていたのに、全然声をかけてくれなかったよな」
「俺から加賀谷に声をかけるなんて、するわけないだろう。それに俺とじゃレベルが違うんだから、一緒に練習なんてやらないって」
「レベルが違うなんて、そんなことはねぇよ。おまえを上達させる練習メニューを考えてるんだ」
(順風満帆なヤツの理論を応用しても、俺には通用しないというのに、何を言ってるんだか)
友達未満――俺なんて講義を写させる、都合のいいチームメイトの関係だ。それなのにどうして、こんなふうに執拗につきまとわれるのだろう。マジで鬱陶しい。
黄金のレフティから放たれる、綺麗な弧を描いたスリーポイントに感動して自分から声をかけなければ、こんなことにはならなかったと思われる。すべてのきっかけが、そこからはじまっていた。
「加賀谷、それ早く写さなきゃ、講義がはじまるぞ」
迷惑さを示すために顔をしかめて、いつもより低い声色で話しかけてやった。
「……俺は諦めない。おまえが好きだから」
授業がはじまる直前の騒々しい教室だったが、消え入りそうな加賀谷の言葉が、耳にハッキリと聞こえてきた。
告げられた内容があまりにも衝撃的すぎて、ひとことも声を出せずに固まったままでいる俺を加賀谷は一瞥してから、何事もなかったようにスラスラとペンを動かしてノートに写していく。
三日に一度だか一週間に二度など詳しくは知らないが、女子に告白されるくらいにモテる加賀谷が俺を好きって、どう考えてもおかしいだろ。
そのせいで授業がはじまっても、内容が頭にさっぱり入ってこない。
「ここの部分は大事だからな。きちんとノートをとっておくように!」
なんてことを先生に宣言されているにもかかわらず、ノートにそれを写す気力が湧かない。ただ漫然と授業を受け続けた。
俺の隣にいる加賀谷が今現在、どんな気持ちで授業を受けているのかが気になってしまったのである。
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