55 / 58
夢のあとさき
ラストファイル4:夢のあとさき7
しおりを挟む
「いい絵が撮れたか?」
「はい、水野が思いっきりドジをしてくれたお陰で、収穫がありました」
俺の言葉を聞き、ゲッと大きな声を出す。
「それ……関さんに渡しちゃうの?」
うひーと言いながら顔色を青ざめるマサが、俺の袖を引っ張った。
「勿論、借りた物を返さなきゃな。しかも証拠になるモノが、バッチリ映ってるんだ。厳重に保管してもらわないと」
「アレを厳重に保管――今すぐ抹消して欲しいのに」
「ほぅ! それは水野くんが体を張って、証拠を取ってきてくれたんだろう? すごいことじゃないか」
「へぇ水野さん、おとり捜査したんですか? 格好いいな!」
次々述べられる賛辞に、更に困惑の表情を浮かべるマサ。
「山上警視正の膝の上に上手いこと滑り込んだ様は、アクションスターのスタントマンも、真っ青になるレベルでした」
「……つ、翼!?」
「なるほど。それは随分と、サービス精神を発揮した行為だな。おとり捜査というより、ちゃっかり捜査と表現すべきか」
含み笑いをしながらマサを見る関さんの顔は、いつも見る表情になっていて、その様子にこっそりため息をついた。
(――伊東さんと喋ってたトコを見ただけで、あれだけ不機嫌になっていたから、もうダメかと思ったぜ……)
「ちゃっかり捜査でも、しっかりと仕事してきたんです! その……関さんが機転を利かせて、翼にアレコレ教えてくれたお陰で、上手くいきました。有り難うございます!」
イヤイヤといった感じでお礼を言うマサの隣で、俺も伝えるべきことがあるなと口を開いた。
「えっと、その映像の中に俺の舌打ちや貧乏ゆすりのせいで、見ていてちょっと不快に感じる場面があるんです。証拠の映像なのに、すみませんでした」
頭をポリポリ掻きながら謝ると、
「うそっ……。そんな感じ、全然しなかったのに」
空気が読めなくて、超絶鈍いマサが声を上げる。
「まったく――山上警視正の膝枕で幸せそうにしてる水野くんを、黙って見ているだけでも、偉いと思うがな」
「ホント偉いよ! 俺ならこのレジ持ち上げて、ソイツに投げつけちゃう」
「いや、でもスミマセン。映像が見難くなってるのは事実なので、あまり褒めないでください……」
偉い偉いと褒められ、どうしていいか分からなくなる。実際は自分の感情を隠すのに必死で、貧乏ゆすりをしたりマサのドジっぷりに、こっそりと舌打ちしたり、頭の中を事件のことでいっぱいにしたりと大変だった。
大変な中で、考えさせられたこと。
ただ表立って守るだけじゃない――冷静になって状況を把握し、マサを守る手段を考える。こういう守り方があることに、気が付かせてくれた点については感謝しないとな。
そう思いながら隣にいるマサを横目で見てみたら、何だか嬉しそうな顔をしている姿があった。
やっぱ前言撤回! 誰かつけ上がってるコイツを、殴ってはくれないだろうか。
「さぁてお弁当も買ったし、ふたりの邪魔をしないように、さっさと帰ろう翼!」
さっきまでの困惑はどこにいったのか、元気ハツラツになったマサは俺の腕を引っ張り、店を出ようと足早に歩く。
「あはは、お気遣いありがとう、水野さん」
「水野くんのお守り、頑張れよ」
背後からかかる声援らしき声に、苦笑いを浮かべつつ、ちょっとだけテレながら店を後にした。
「翼が嫉妬していたなんて、全然気がつかなかったよ……。ごめんね」
店を出て開口一番に告げられた言葉に、しょうがないだろと呟く。
「こんなんでも一応、俺の恋人なんだからな。マサの性格を大体把握しているとはいえ、ドジの種類までは予想できないし。まぁ、いろいろ考えさせられた」
マサが手にしていたビニール袋を奪って、空いたほうの手をぎゅっと握りながら、ゆっくりと歩き出した。暖かい日差しを浴びて、心の中までポカポカしてくる。
気持ちよさそうに青空を眺めながら隣を歩く翼を、不思議に思いながら、じっと見つめてしまった。
「はい、水野が思いっきりドジをしてくれたお陰で、収穫がありました」
俺の言葉を聞き、ゲッと大きな声を出す。
「それ……関さんに渡しちゃうの?」
うひーと言いながら顔色を青ざめるマサが、俺の袖を引っ張った。
「勿論、借りた物を返さなきゃな。しかも証拠になるモノが、バッチリ映ってるんだ。厳重に保管してもらわないと」
「アレを厳重に保管――今すぐ抹消して欲しいのに」
「ほぅ! それは水野くんが体を張って、証拠を取ってきてくれたんだろう? すごいことじゃないか」
「へぇ水野さん、おとり捜査したんですか? 格好いいな!」
次々述べられる賛辞に、更に困惑の表情を浮かべるマサ。
「山上警視正の膝の上に上手いこと滑り込んだ様は、アクションスターのスタントマンも、真っ青になるレベルでした」
「……つ、翼!?」
「なるほど。それは随分と、サービス精神を発揮した行為だな。おとり捜査というより、ちゃっかり捜査と表現すべきか」
含み笑いをしながらマサを見る関さんの顔は、いつも見る表情になっていて、その様子にこっそりため息をついた。
(――伊東さんと喋ってたトコを見ただけで、あれだけ不機嫌になっていたから、もうダメかと思ったぜ……)
「ちゃっかり捜査でも、しっかりと仕事してきたんです! その……関さんが機転を利かせて、翼にアレコレ教えてくれたお陰で、上手くいきました。有り難うございます!」
イヤイヤといった感じでお礼を言うマサの隣で、俺も伝えるべきことがあるなと口を開いた。
「えっと、その映像の中に俺の舌打ちや貧乏ゆすりのせいで、見ていてちょっと不快に感じる場面があるんです。証拠の映像なのに、すみませんでした」
頭をポリポリ掻きながら謝ると、
「うそっ……。そんな感じ、全然しなかったのに」
空気が読めなくて、超絶鈍いマサが声を上げる。
「まったく――山上警視正の膝枕で幸せそうにしてる水野くんを、黙って見ているだけでも、偉いと思うがな」
「ホント偉いよ! 俺ならこのレジ持ち上げて、ソイツに投げつけちゃう」
「いや、でもスミマセン。映像が見難くなってるのは事実なので、あまり褒めないでください……」
偉い偉いと褒められ、どうしていいか分からなくなる。実際は自分の感情を隠すのに必死で、貧乏ゆすりをしたりマサのドジっぷりに、こっそりと舌打ちしたり、頭の中を事件のことでいっぱいにしたりと大変だった。
大変な中で、考えさせられたこと。
ただ表立って守るだけじゃない――冷静になって状況を把握し、マサを守る手段を考える。こういう守り方があることに、気が付かせてくれた点については感謝しないとな。
そう思いながら隣にいるマサを横目で見てみたら、何だか嬉しそうな顔をしている姿があった。
やっぱ前言撤回! 誰かつけ上がってるコイツを、殴ってはくれないだろうか。
「さぁてお弁当も買ったし、ふたりの邪魔をしないように、さっさと帰ろう翼!」
さっきまでの困惑はどこにいったのか、元気ハツラツになったマサは俺の腕を引っ張り、店を出ようと足早に歩く。
「あはは、お気遣いありがとう、水野さん」
「水野くんのお守り、頑張れよ」
背後からかかる声援らしき声に、苦笑いを浮かべつつ、ちょっとだけテレながら店を後にした。
「翼が嫉妬していたなんて、全然気がつかなかったよ……。ごめんね」
店を出て開口一番に告げられた言葉に、しょうがないだろと呟く。
「こんなんでも一応、俺の恋人なんだからな。マサの性格を大体把握しているとはいえ、ドジの種類までは予想できないし。まぁ、いろいろ考えさせられた」
マサが手にしていたビニール袋を奪って、空いたほうの手をぎゅっと握りながら、ゆっくりと歩き出した。暖かい日差しを浴びて、心の中までポカポカしてくる。
気持ちよさそうに青空を眺めながら隣を歩く翼を、不思議に思いながら、じっと見つめてしまった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
ひとりで生きたいわけじゃない
秋野小窓
BL
『誰が君のことをこの世からいらないって言っても、俺には君が必要だよーー』
スパダリ系社会人×自己肯定感ゼロ大学生。
溺愛されてじわじわ攻略されていくお話です。完結しました。
8章まで→R18ページ少なめ。タイトル末尾に「*」を付けるので苦手な方は目印にしてください。
飛ばしてもストーリーに支障なくお読みいただけます。
9章から→予告なくいちゃつきます。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
一年前の忘れ物
花房ジュリー
BL
ゲイであることを隠している大学生の玲。今は、バイト先の男性上司と密かに交際中だ。ある時、アメリカ人のアレンとひょんなきっかけで出会い、なぜか料理交換を始めるようになる。いつも自分に自信を持たせてくれるアレンに、次第に惹かれていく玲。そんな折、恋人はいるのかとアレンに聞かれる。ゲイだと知られまいと、ノーと答えたところ、いきなりアレンにキスをされ!?
※kindle化したものの再公開です(kindle販売は終了しています)。内容は、以前こちらに掲載していたものと変更はありません。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
何故、俺はホストクラブに迷い込んでしまったのか? 体験者:S氏による、人を惑わす事の恐ろしさ。
こまの ととと
BL
今思えば、何もかもが不可思議でして。
何故、自分がこのような体験をする事になってしまったのか……。
非常に釈然としないものがあります。
金銭面では大きな痛手にはなら無かったのが、唯一の救いと言ってもいいでしょう。
それでは、お話し致します。
その日は……。
そう話をする彼であったが、途中から様子に違和感を感じた。
また、このインタビューの後、彼とは連絡が取れていない。
【完結】スーツ男子の歩き方
SAI
BL
イベント会社勤務の羽山は接待が続いて胃を壊しながらも働いていた。そんな中、4年付き合っていた彼女にも振られてしまう。
胃は痛い、彼女にも振られた。そんな羽山の家に通って会社の後輩である高見がご飯を作ってくれるようになり……。
ノンケ社会人羽山が恋愛と性欲の迷路に迷い込みます。そして辿り着いた答えは。
後半から性描写が増えます。
本編 スーツ男子の歩き方 30話
サイドストーリー 7話
順次投稿していきます。
※サイドストーリーはリバカップルの話になります。
※性描写が入る部分には☆をつけてあります。
10/18 サイドストーリー2 亨の場合の投稿を開始しました。全5話の予定です。
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる