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夢のあとさき
ラストファイル4:夢のあとさき3
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顔を上げて抗議しようとしたら、首筋をすっと指先で撫でられ、体をビクつかせてしまった。
「敏感で吸い付くような、肌をしているんだな。どんな味がするんだろう。味見していいかい?」
「だっダメですよ、味見しただけでお腹を壊しちゃう、可能性が……」
「へぇ、拒否るんだ。ふぅん」
俺を見下ろす、山上警視正の冷たい眼差しが怖い。蛇に睨まれるカエル状態の俺は、ただ固まることしか出来なくて。
「ふ、普段食べ慣れないものを、口にしたらですね、お腹を壊す恐れがあるので忠告してる、みたいな」
ワケの分からないことを苦笑いしながら、必死に説得する俺を無視し、いきなり耳朶を甘噛みされてしまった。
「――っ、んっ」
何ともいえない不快感に、身の毛がぶわっとよだつ。
「やめてくださ……いっ、や――」
どうにもガマン出来ず、右手を出して山上警視正の頭を、何とか押し退けようとしたら、手首をつかまれ更に、舌で耳の縁をすすーっと舐められた。
「あぁ……んっ」
「美味しいじゃないか、水野警部補。しかも随分と可愛い声で、啼くんだね」
「ちがっ……!」
「さすがの矢野巡査も、水野警部補が他の男の手で感じてる姿を、笑っては見ていられなかったようだけど」
相変わらず体は、押さえつけられたままだったけど、首から上が自由だったので、翼の方を見てみる。
――俺が何されても、見て見ぬフリしてね――
最初のお約束を実行すべく、真顔であらぬ方を向いて、シカトを決め込んでいてくれていた。そのまま横目で、じろりと俺の情けない姿を見てくれる。
――視線がいろんな意味で、痛すぎるよ(涙)
「いつまで、その格好でいるつもりだ水野。みっともないぞ、お前」
その言葉で体を起こそうとしたら、再び強い力でぎゅっと押さえつけられた。それが痛いの何の……
「ぐえっ、苦し――」
「何を言ってるんだね、君は。私の膝の上が居心地がいいから、居座ってるに決まってるだろう」
俺の苦情をかき消すような、大きな声で言って笑い出す。
「明らかに、嫌がってますよ水野」
「嫌がってないさ。善がり声まで、あげていたじゃないか」
「あれはそんなんじゃないです。気持ち悪くて、つい……」
「気持ち悪かったにしては、随分といい声、出してたと思うけど。なぁ矢野巡査」
「そうですね。無理矢理に押さえつけられてるのに、楽しそうにジタバタする水野の姿は、まるでコントみたいです」
可笑しそうに、にやりと笑みを浮かべ、こっちを見る翼。
俺だって好き好んで、こんな事してるワケじゃないんだからな! 手を握られたり、肩を抱かれたりするのは想定内だったけど、まさかここまでされるのは、想定外だったんだってば。
いいわけ出来ないのは、自分のドジで深みに、どんどんはまってしまったからなんだけどさ……
「いい加減、腕をどけていただけませんか? 山上警視正。これははっきり言って、パワハラですよ」
自分なりに一生懸命、睨み上げながら言い放ったのに、それが可笑しいという顔をする。
「君が自ら私の膝の上に、乗っかってきたというのに、その言葉は心外だなぁ」
「それはアンタが俺のネクタイ引っ張って、無理矢理自分に、引き寄せたからでしょ」
「だが音だけじゃ、それが立証できないね。矢野巡査」
俺の背中で堂々と頬杖をし、頭をまた撫でながら、嬉しそうに微笑む山上警視正。
げーっ、盗聴してるのバレてるし……
「――確かに。だけど水野の背中に、皮下出血が生じた場合は、傷害罪(刑法204条)になりますけど。これって、物的な証拠になりませんか?」
その言葉に、慌てて俺の体から手を離す。
体を起こしながら、翼のセリフに目を丸くするしかなかった。
「君はそこまで計算して今まで手を、出さなかったのかい?」
鋭い視線で睨む山上警視正に、力なく首を横に振る。
「まさか。そこまで頭が回りませんよ。こんなのにご執心だったのを、俺は全然知りませんでしたし」
――こんなのって、ちょっとヒドくないか!?
「どんなに水野に想いを寄せても、姿かたちだけ山上に似ている、中身が空っぽなアンタじゃ、振られっぱなしだと思いますよ」
「この私を振るのかい? 水野警部補っ」
翼の言葉に、怒り狂った山上警視正の視線がグサグサッと、俺に突き刺さった。だけどこんな視線に、恐れおののいてる場合ではない。きちんと向き合って、ハッキリと言わなければ!
――これは俺のヤマなんだから――
気合をムダに入れまくり、シュバッと音をたてて勢いよく立ち上がり、山上警視正を見下ろしてやった。
「こう見えても俺、好みについては、人一倍うるさいんです! 見た目と中身がそぐわない人ほど、ときめかないタチでして。お家の力だけで生きてきた山上警視正を振るのは、当然の行為です」
「そんな事を言っていいのかい? 大事な彼を、どこかに飛ばしちゃうよ」
山上警視正の脅し文句に、何言ってるんですかとクスクス笑いながら翼が言う。
「敏感で吸い付くような、肌をしているんだな。どんな味がするんだろう。味見していいかい?」
「だっダメですよ、味見しただけでお腹を壊しちゃう、可能性が……」
「へぇ、拒否るんだ。ふぅん」
俺を見下ろす、山上警視正の冷たい眼差しが怖い。蛇に睨まれるカエル状態の俺は、ただ固まることしか出来なくて。
「ふ、普段食べ慣れないものを、口にしたらですね、お腹を壊す恐れがあるので忠告してる、みたいな」
ワケの分からないことを苦笑いしながら、必死に説得する俺を無視し、いきなり耳朶を甘噛みされてしまった。
「――っ、んっ」
何ともいえない不快感に、身の毛がぶわっとよだつ。
「やめてくださ……いっ、や――」
どうにもガマン出来ず、右手を出して山上警視正の頭を、何とか押し退けようとしたら、手首をつかまれ更に、舌で耳の縁をすすーっと舐められた。
「あぁ……んっ」
「美味しいじゃないか、水野警部補。しかも随分と可愛い声で、啼くんだね」
「ちがっ……!」
「さすがの矢野巡査も、水野警部補が他の男の手で感じてる姿を、笑っては見ていられなかったようだけど」
相変わらず体は、押さえつけられたままだったけど、首から上が自由だったので、翼の方を見てみる。
――俺が何されても、見て見ぬフリしてね――
最初のお約束を実行すべく、真顔であらぬ方を向いて、シカトを決め込んでいてくれていた。そのまま横目で、じろりと俺の情けない姿を見てくれる。
――視線がいろんな意味で、痛すぎるよ(涙)
「いつまで、その格好でいるつもりだ水野。みっともないぞ、お前」
その言葉で体を起こそうとしたら、再び強い力でぎゅっと押さえつけられた。それが痛いの何の……
「ぐえっ、苦し――」
「何を言ってるんだね、君は。私の膝の上が居心地がいいから、居座ってるに決まってるだろう」
俺の苦情をかき消すような、大きな声で言って笑い出す。
「明らかに、嫌がってますよ水野」
「嫌がってないさ。善がり声まで、あげていたじゃないか」
「あれはそんなんじゃないです。気持ち悪くて、つい……」
「気持ち悪かったにしては、随分といい声、出してたと思うけど。なぁ矢野巡査」
「そうですね。無理矢理に押さえつけられてるのに、楽しそうにジタバタする水野の姿は、まるでコントみたいです」
可笑しそうに、にやりと笑みを浮かべ、こっちを見る翼。
俺だって好き好んで、こんな事してるワケじゃないんだからな! 手を握られたり、肩を抱かれたりするのは想定内だったけど、まさかここまでされるのは、想定外だったんだってば。
いいわけ出来ないのは、自分のドジで深みに、どんどんはまってしまったからなんだけどさ……
「いい加減、腕をどけていただけませんか? 山上警視正。これははっきり言って、パワハラですよ」
自分なりに一生懸命、睨み上げながら言い放ったのに、それが可笑しいという顔をする。
「君が自ら私の膝の上に、乗っかってきたというのに、その言葉は心外だなぁ」
「それはアンタが俺のネクタイ引っ張って、無理矢理自分に、引き寄せたからでしょ」
「だが音だけじゃ、それが立証できないね。矢野巡査」
俺の背中で堂々と頬杖をし、頭をまた撫でながら、嬉しそうに微笑む山上警視正。
げーっ、盗聴してるのバレてるし……
「――確かに。だけど水野の背中に、皮下出血が生じた場合は、傷害罪(刑法204条)になりますけど。これって、物的な証拠になりませんか?」
その言葉に、慌てて俺の体から手を離す。
体を起こしながら、翼のセリフに目を丸くするしかなかった。
「君はそこまで計算して今まで手を、出さなかったのかい?」
鋭い視線で睨む山上警視正に、力なく首を横に振る。
「まさか。そこまで頭が回りませんよ。こんなのにご執心だったのを、俺は全然知りませんでしたし」
――こんなのって、ちょっとヒドくないか!?
「どんなに水野に想いを寄せても、姿かたちだけ山上に似ている、中身が空っぽなアンタじゃ、振られっぱなしだと思いますよ」
「この私を振るのかい? 水野警部補っ」
翼の言葉に、怒り狂った山上警視正の視線がグサグサッと、俺に突き刺さった。だけどこんな視線に、恐れおののいてる場合ではない。きちんと向き合って、ハッキリと言わなければ!
――これは俺のヤマなんだから――
気合をムダに入れまくり、シュバッと音をたてて勢いよく立ち上がり、山上警視正を見下ろしてやった。
「こう見えても俺、好みについては、人一倍うるさいんです! 見た目と中身がそぐわない人ほど、ときめかないタチでして。お家の力だけで生きてきた山上警視正を振るのは、当然の行為です」
「そんな事を言っていいのかい? 大事な彼を、どこかに飛ばしちゃうよ」
山上警視正の脅し文句に、何言ってるんですかとクスクス笑いながら翼が言う。
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