ハートの確率♡その恋は突然やってきた【R-18】

相沢蒼依

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第1章:ふしぎな人

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「そう。50万円で私を買って、あわよくば結婚しようと企んでいたり――」

 猜疑心を含んだ眼差しを注いだら、私の手を掴んでいる彼の手が見る間に冷たくなっていった。

「結婚しませんっ! 絶対にそんなつもりで言ったんじゃないです、信じてくださいっ!!」

 掴んでいた私の両手を放り出すように投げて、違う違うと激しくジェスチャーした。

「だって50万円って、それなりに大金だよ。逢ったばかりの私にあげるなんて、普通は簡単に言えないでしょ?」

「すみません。自分の事情が先行してしまい、つい……。あのですね、うーんと、期限付きでお付き合いしてくださいませんか? そうだなぁ、2週間くらいがいいか。ちょうど月末なるし、お互いに切り替えやすいかなぁと」

 ――たった2週間、この人と付き合っただけで50万円が手に入るなんて、実際夢みたいな話だ。

「お支払いについては、1週間ずつで25万円を払う形でいいですか?」

「ケンジさんが良ければ……」

「それとですね、俺と付き合ってる最中は、他の男性といかがわしい行為をしないというのが条件です。浮気をした時点で、即この契約はナシってことで了承してください」

(浮気なんてするもんですか! バカな元彼じゃあるまいし)

「分かった、その条件を飲んであげる。登録している出会い系サイトを、今すぐ退会するね」

 スマホをカバンから取り出してケンジさんが見つめる中、登録していた数か所のサイトをさくさくっと退会した。

「エリカさんって、本名じゃないんですね。たくさん名前が――」

 一番最後のサイトを退会している最中にかけられた言葉に、苦笑いを浮かべた。

「本当の出逢いを求めるなら本名を出すかもしれないけど、こういうサイトでは大抵、違う名前を使うんじゃないかな」

「俺、本名です……。柳谷健司(やなぎや けんじ)」

 ポツリと告げられたケンジさんの本名に、自分も本名を明かさなければならないなと覚悟した。

 借金の残り50万円をくれるって言った人だし、本名を明かさないワケにはいかないよね――。

「……私、遠藤綾香って言います」

「遠藤綾香、さん? 本当に?」

「ええ。疑うなら社員証でも見ます?」

 本名を言った瞬間に、ケンジさんはすっごく難しい顔をした。それを目の当たりにしたため、彼に疑われていると考えた私は社員証を提示して、遠藤綾香であることを直接確認してもらった。

「エリカさんっていう名前もステキだなぁと思っていたら、本名が綾香さんだなんて……。これってもしかして、天が与えてくれたご褒美じゃないだかろうか!」

 ケンジさんは私の存在をしっかり無視して、ブツブツと独り言を言いながら両手に拳を作り、頬をどんどん紅潮させていった。よく分からないけど、私の名前ひとつで興奮しているみたい。

「あのぅ、ケンジさん?」

「行きましょう、綾香さん。今すぐに!!」

「はぃ?」

「ああ、名前を呼んだら返事が返ってくる……。そんなありふれたことでも、感動で胸がいっぱいだ」

(この人、大丈夫だろうか――)

「あはは……。好きなコの名前だったりするのかな?」

「いやぁそのぉ、実はそうなんです。近づきたくてもそれを阻む、高くて分厚い壁がありまして。見つめながら思い続けて、早1年になるんですよ」

 高くて分厚い壁? それって世間体のことかしら。それとも相手は人妻とか? とにかくケンジさんが、ちょっと危ないストーカー野郎だってことは、よぉく分かった。

 アブナイ男から大金を貰う自分。多少のリスクがあるのは、当たり前だよね。

「……だったら早速ホテルに行く?」

 興奮している彼に声をかけつつ、小首を傾げて色っぽいポーズをとりながら、改めてケンジさんの服装をチェックした。

 手荷物はナシ。洋服のポケットも特に膨らんでる様子はないから、変なものは持っていないのは明らかだった。

 たまぁに変な遊びをしたがる人がいるからチェックしておかないと、あとから大変な目に遭うのよね。

「はい! あ、その……行きたいですっ」

「豪華な部屋のわりに、安くていいトコ知ってるんだ。そこでいいかな?」

 言いながらケンジさんの左腕に自分の腕を絡めて、引っ張るように歩き出した。

 いつも使ってるホテルが、一番安心できる。全部屋の様子から非常口の位置だって、すべて把握済みだった。

 かくて鼻の下を伸ばした彼を連れて、いつものようにホテルにチェックインした。まずは前金をせしめるべく、頭の中で電卓を細かく叩いていく――。
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