煌めくルビーに魅せられて

相沢蒼依

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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛

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***

 俺に伴われて自宅に帰った瑞稀は「お邪魔します」と大きな声で言い、靴を揃えて中に入った。こんな他愛のないことだが、瑞稀の育ちの良さを覚える。

 母ひとり子ひとりで、母親の苦労を垣間見ているから、迷惑をかけずにきちんとしなければと、最低限のマナーをしているのだろう。

「瑞稀、お風呂を沸かしておいた。俺はもう済んでるから、ゆっくり浸かるといい」

「ありがとうございます。あのこのタッパーを、冷蔵庫に入れておいてほしいです」

「タッパー?」

 小ぶりだが持ってみると、それなりの重さのあるものだった。なにが入っているのだろうか。

「マサさんとの明日のデート、SAKURAパークに行きたいんです。そこでお昼ご飯として、それを持って行きたいなぁと思いまして、下味をつけた鶏肉を持って来ました。バイト中は、職場の冷蔵庫で保管していたので大丈夫ですよ」

 意外な場所の指定に、思わず口を噤んでしまった。しかも明日のデートのことでテンションがあがっているのか、瑞稀の口数が多いことが地味に嬉しい。

「この間はマサさんに、美味しい朝ご飯をご馳走になっているので、今回は俺の得意料理の唐揚げを食べてほしいです!」

「そうか、それは楽しみだな……」

(SAKURAパークを管理している、運営会社課長の俺――サービスを提供しているキャストたちは、瑞稀連れでいる俺をどう見るだろうか)

「マサさん?」

「疲れただろう? お風呂、ゆっくりしてくるといい」

 渡されたタッパーをさっさと冷蔵庫に入れ、複雑な心境を悟られないように、浴室に向けて瑞稀の細い背中をぐいぐい押した。

「瑞稀の泊まりがこれからあるだろうと考えて、いろいろ用意してみた。瑞稀の歯ブラシは緑色のこれで、パジャマはそこに置いてある」

 あらかじめ準備していた物の説明をし、瑞稀から離れようとしたら、着ているシャツの裾を掴まれた。

「瑞稀、どうしたんだい?」

「あ、なんか用意周到というか、手馴れているみたいな」

「ふふっ、実は手馴れていないよ。長い時間を一緒に過ごしたら、吸血鬼だとバレてしまう恐れがあるせいで、こんなふうにお泊まりセットを買ったことがないんだ」

「……本当に?」

「ああ。瑞稀がはじめてだよ」

 上目遣いで疑う瑞稀の顔がかわいくて、思わずこめかみにキスをした。

「マサさん、なにもしないって言ったのに、さっきから俺がドキドキすることばかりしてる」

「俺は瑞稀が傍にいるだけで、ずっとドキドキしてる」

 瑞稀の利き手をとって、俺の胸に触れさせた。

「駐車場で瑞稀に逢った瞬間から、ずっとドキドキしてる」

「マサさん俺……」

「どうした?」

 胸に触れている瑞稀の手が、戸惑う感じで引っ込み、背中に隠されてしまった。

「俺はこういうのに全然慣れてなくて、どうしていいかわからないんです。なにを言ったら、マサさんを傷つけずにすむのかなぁって」

 傷つきやすい俺の心を知ってるみたいな、瑞稀の気遣いに胸が熱くなる。

「簡単だよ、ただひとこと『嬉しい』って言えばいいだけ」

「嬉しい?」

 何度も目を瞬かせて、不思議そうな表情を見せる瑞稀。今日はいろんな顔が見ることのできる、貴重な日なのかもしれない。

「瑞稀は俺に触れて、ドキドキが伝わっただろう?」

「はい。てのひらにマサさんの鼓動を感じて、ドキドキがうつっちゃいました」

「イヤな気分になった?」

 短い言葉で訊ねた俺に、瑞稀は無言で首を横に振る。

「瑞稀が感じる気持ちはきっと、俺も同じだと思う。以心伝心だね」

「だったら、俺が今してほしいことがわかりますか?」

 普段の声よりもちょっとだけ緊張したように、俺の耳に聞こえた。

「瑞稀にそれをしたら、俺は間違いなく約束を破ることになるが、それでもいいのかい?」

 さらりと告げたら、目の前にある顔が一瞬で朱に染まった。

「まっマサさんのエッチ! 俺は別に変なことなんて、全然考えてないのに!」

「ここは以心伝心ならずだったのか、残念だな」

「もうお風呂に入りますので、出て行ってくださいっ」

 耳まで赤くなった瑞稀は、俺の背中を無理やり押して、脱衣場から追い出した。

「はてさて。瑞稀は、なにをしてほしかったのだろうか」

 ひょいと肩を竦めてキッチンに移動。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、喉を潤す。瑞稀がお風呂から出てくるまでに、なにをしてほしかったのかを、じっくりと考えたのだった。
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