煌めくルビーに魅せられて

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
13 / 28
煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛

5

しおりを挟む
「マサさんって本当に、俺の気持ちを苛立たせるのがうまいですよね」

「そんなつもりはないが……」

 らしくない尖った物言いに、言葉が続かない。

「確かにマサさんはこれまで、たくさんの人と付き合っていて、いろんな経験を経ているのはわかりますけど、それをいちいち聞かされる俺の身にもなってください」

(それって、ただのヤキモチなんじゃ――)

「マサさん、なんでニヤけてるんですか」

 ムッとしている瑞稀が、俺の手を引っ張って立ち上がらせた。このタイミングで居酒屋の従業員入口から、賑やかな声が辺りに響いた。ほかのバイト仲間が出てきたらしい。

「マサさん、早く帰りましょう?」

「ああ、車に乗ってくれ。すぐに出発する」

 車に乗るように促すと、瑞稀は俺に顔が見えないように背けて、助手席側に歩いていった。

「さて、困ったな……」

 せっかく瑞稀からキスしてくれたのに、無様な姿を見せただけじゃなく、怒らせる発言をしたせいで、このあとの車内の雰囲気は、大変よろしくないだろう。

 運転席のドアを開けて乗り込むと、瑞稀は既にシートベルトを装着していて、いつ出発してもいい状態だった。ルームミラーとサイドミラーの両方に視線を飛ばしつつ、エンジンをかける。発進すると思って無防備でいる瑞稀の顔に近づき、一瞬だけ唇を重ねた。

「あ……」

 瑞稀が慌てて、車外を見渡す。

「安心してくれ。バイト仲間がいないのをきちんと見て、君にキスをした」

「マサさん」

「仲直りのキス、もう一度してもいい?」

 少しだけクセのある、瑞稀のえり足に触れながら訊ねた。

「なにもしないって言ったのに」

「ふふっ、瑞稀が俺にサプライズしてくれたからね。恋人として、濃厚なお返しをしないと」

 くすくす笑う俺の首に両腕をかける瑞稀の表情は、怒った感じが消え失せ、どこか照れた様子に俺の目に映った。

「濃厚なお返しなんて、しなくてもいいです」

「ここにきて、強がりを言ってるだろう?」

「言ってません」

「物欲しそうな顔をしてるのに?」

「ええっ?」

「今は俺がマサさんの恋人なんだぞって、俺の過去に嫉妬した瑞稀のヤキモチ妬きの表情が、ありありと出てる」

 そして触れるだけのキスを、何度もしてあげた。

「んんっ...」

 瑞稀の唇に触れるたびに、あたたかな体温が俺の体に流れ込み、全身にめぐる血を沸騰させる。気を抜くと、吸血鬼に変身してしまうようなそれは、いつもなら不快に感じるハズなのに、それすらも心地よく思えてしまう。

「瑞稀――」

 久しぶりに見ることのできる、俺を見つめる瑞稀が愛おしくて、言いたいセリフが唇の先で消えてしまった。

「マサさん俺ね、ずっとマサさんに逢いたかった」

 首に触れている瑞稀の両手が、俺の存在を確かめるように体に触れる。

「俺が言おうとしたセリフを、先に言われてしまった」

 そう告げて瑞稀にふたたびキスをしようとしたら、瑞稀の唇に到着する前に手で塞がれてしまった。

「今のマサさんとのキスは、ダメですって」

「触れるだけにするから、いいだろう?」

「まったく! マサさん吸血鬼になってること、気づいてないでしょ」

 俺の顔を掴んだ瑞稀が、ルームミラーに映るように顔を横に向けた。

「本当だ、気づかなかったな」

 きっと同じ想いだったのが嬉しくて、自動的に変身してしまったらしい。

「こんなところで吸血鬼の唾液を飲んじゃったら、大変なことになるのがわかりすぎます。なので早く帰りましょう?」

 照れを含んだ口調に導かれて、俺はきちんと運転席に座り直し、人間の姿に戻ってから、ギアをドライブに入れて車を発進させた。車内では逢えなかった時間を埋めるように、お互い話が弾んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...