31 / 83
act:意外な展開
鎌田目線5
しおりを挟む
***
彼女に告白する大事な日、思いきって有給をとり朝から作詞していた。
メロディラインはけん坊が担当してくれたモノがあったので、それに載せることにしていたのだが、いろいろと想いが詰まってしまって上手く歌詞が書けなかった。
こんなところにまで不器用な自分が現れる。伝えたいのに、伝えられないもどかしさ――結局一番しか作る事ができないまま、急いでライブハウスに向かった。
到着して早々メンバーに大事な話があるからと早めに呼び出していたのに、俺が一番出遅れて会場入りした。控え室に入ると、何故かみんながニヤニヤしながら顔を見つめる。
妙な雰囲気を感じて不審な顔した俺に、けん坊が開口一番口を開く。
「やっと……やっと、この日が来たんだな!」
嬉しそうに言って、ぎゅっと躰を抱きしめてきた。
「まさやんの顔を見た瞬間、全て悟ったよ! ついに告白する気になったんだな?」
「それでいつやるの? どうやって告るの?」
「何だか俺まで、緊張してきちゃったっすよ」
なんてそれぞれ口々に感想を述べる。どうして人の顔を見ただけで、それをすることが分かってしまったのだろう?
訝しく思いながらも、彼女がやってきたら拳を突き上げてピースサインするから、曲を適当に終わらせてくれと打ち合わせした。
ライブの最中、観客の中にいるであろう君を必死になって捜す――気がおかしくなりそうな気持ちを何とか隠しながら歌うのは、思っている以上に至難の業だった。
「上司命令です」
何て言って君を無理やり縛り付けなければ、ここに来ないのではないかと不安になった。自分に自信がないわけじゃない、ただ傷つくのが怖い――それだけなのだ。
何曲目だっただろう、君が現れたのは……。恐るおそるといった様子で、中に入ってきた。
目が合った時の彼女は、何だか淋しげで一瞬不安に駆られる。
そんな不安を打ち消すように拳を高く突き上げて、メンバーに見えるようにピースサインをした。曲が終わっていくのを聞きながら、自分の心の中をしっかりと見つめ直す。
「俺、彼女に告白したよ」
何の躊躇いもなく、堂々と言える小野寺に嫉妬した。何もできない自分が、すごく腹立たしく思えた。
でも今なら言える――こんなに臆病な俺を君が変えてくれた。メンバーのみんなも、そんな俺を応援している。葉の上に溜まっていた不安という名の朝露が、ポロッと落ちていった。
そのお陰で気持ちを最大限に籠めて、彼女の前で歌うことができたのに――彼女が泣きながら飛び出していったのを確認したのは、歌い終わって間もなくのことだった。
彼女に告白する大事な日、思いきって有給をとり朝から作詞していた。
メロディラインはけん坊が担当してくれたモノがあったので、それに載せることにしていたのだが、いろいろと想いが詰まってしまって上手く歌詞が書けなかった。
こんなところにまで不器用な自分が現れる。伝えたいのに、伝えられないもどかしさ――結局一番しか作る事ができないまま、急いでライブハウスに向かった。
到着して早々メンバーに大事な話があるからと早めに呼び出していたのに、俺が一番出遅れて会場入りした。控え室に入ると、何故かみんながニヤニヤしながら顔を見つめる。
妙な雰囲気を感じて不審な顔した俺に、けん坊が開口一番口を開く。
「やっと……やっと、この日が来たんだな!」
嬉しそうに言って、ぎゅっと躰を抱きしめてきた。
「まさやんの顔を見た瞬間、全て悟ったよ! ついに告白する気になったんだな?」
「それでいつやるの? どうやって告るの?」
「何だか俺まで、緊張してきちゃったっすよ」
なんてそれぞれ口々に感想を述べる。どうして人の顔を見ただけで、それをすることが分かってしまったのだろう?
訝しく思いながらも、彼女がやってきたら拳を突き上げてピースサインするから、曲を適当に終わらせてくれと打ち合わせした。
ライブの最中、観客の中にいるであろう君を必死になって捜す――気がおかしくなりそうな気持ちを何とか隠しながら歌うのは、思っている以上に至難の業だった。
「上司命令です」
何て言って君を無理やり縛り付けなければ、ここに来ないのではないかと不安になった。自分に自信がないわけじゃない、ただ傷つくのが怖い――それだけなのだ。
何曲目だっただろう、君が現れたのは……。恐るおそるといった様子で、中に入ってきた。
目が合った時の彼女は、何だか淋しげで一瞬不安に駆られる。
そんな不安を打ち消すように拳を高く突き上げて、メンバーに見えるようにピースサインをした。曲が終わっていくのを聞きながら、自分の心の中をしっかりと見つめ直す。
「俺、彼女に告白したよ」
何の躊躇いもなく、堂々と言える小野寺に嫉妬した。何もできない自分が、すごく腹立たしく思えた。
でも今なら言える――こんなに臆病な俺を君が変えてくれた。メンバーのみんなも、そんな俺を応援している。葉の上に溜まっていた不安という名の朝露が、ポロッと落ちていった。
そのお陰で気持ちを最大限に籠めて、彼女の前で歌うことができたのに――彼女が泣きながら飛び出していったのを確認したのは、歌い終わって間もなくのことだった。
0
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる