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未来へ
今川目線4
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***
やれやれ、これで何軒目だろうか――
雑誌やネットで式場を調べてあちこちに足を運んでいるのだが、予想通り難航していた。
「今川くんと蓮の幸せな姿を、大勢の人に見せなければならない。お金はいくらかかっても構わないから、良さそうな場所をしっかりと選びたまえ」
どことなく蓮が発言した言葉に似てるのは、やはりDNAのなせる技なんだろうか。
芸能人じゃないんだから、そこそこの人数でちゃっちゃと挙げればいいのでは。なぁんて考えている←前回おこなった自分の挙式の例え
まぁ主役は花嫁だから、そういうワケにもいかないんだよな。
こっそり溜め息をつきながら、俺の腕に自分の右腕をしっかりと絡めてる蓮を見ると投げかけた視線に気がついて、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。それだけで、心が休まってしまう。
(――無駄にやきもきしても、しょうがないか)
2流だがチャペルのあるホテルを見学しようとふたりで相談して、そこへ行ってみることにした。
「いらっしゃいませ今川様、朝比奈様。お待ちしておりました」
丁寧な接客で従業員が頭を下げる。それをいつも通りスルーして、展示されているドレスに釘付けになる蓮。
「今日は説明、宜しくお願いします」
俺も頭を下げると、従業員がニッコリ微笑んだ。
「久しぶりね、アナタ」
「あ?」
――ん?
「まったく。相変わらず、ぼんやりしているんだから」
「君は……ここに勤めているのか?」
何と前の奥さんである。久しぶりすぎて、全然気づかなかった。
「夢を叶えたんだな」
ウェディングプランナーが夢だった彼女。自分の幸せを投げうって他人の幸せのために尽くすとは、すごいことだと当時は思った。仕事に集中したいという願いを聞き入れ、俺は身を引くべく離婚した。
「何だかアナタ、若返ったみたい」
「そうか?」
「きっと彼女のお陰ね。予約票を読んだときは驚いたわよ。15歳差って、どんな手を使って落としたんだか」
まるで結婚していた頃のように、普通に会話をしている。何だか、不思議な気分だ。
「はははっ、逆に落とされたんだよ」
「どうだか。昔からアナタっていつもぼーっとしてるから、あちこちでコケていたじゃない。頼りなさそうに見えるせいで、しっかりと母性本能をくすぐられるんだから」
クスクス笑いながら、酷いことを言う彼女。
「君は今、幸せなのか?」
思わず訊ねてしまった言葉に、柔らかくほほ笑む。
俺よりも仕事をとった彼女は今幸せなのか、気になったのだ。
「一生に一度のイベントなんだから、すごく緊張するし失敗が許されない仕事だから実際は大変だけど」
俺の目をしっかり見て、きりっとした真顔を見せた。
「幸せよ。幸せすぎて、未だに独身だけどね」
笑いながら語る姿を見て、あのときの判断が間違いじゃなかったと安心した。
そうか、幸せにしているのか――
「マット、ちょっと来て!」
ほっこりしているところに、蓮が大声で呼びとめる。
「マットなんて、随分と仲がよろしいんですね」
「……ああ」
――何だか、照れくさい。
「今川様、是非とも当ホテルで式を挙げてみませんか? 私が手がけたカップルは離れることなく、皆様幸せにお過ごしなんですよ」
「もしかして、伝説のウェディングプランナーって君なのか?」
凄腕のウェディングプランナーがいるからと2流であるが、ここに来た理由の一つだった。
「いかにも。誠心誠意をモットーにしております。今川様の幸せをプロデュースさせて下さい」
彼女に口説かれていると焦れた蓮がやって来て、俺の耳を掴んでぐいっと引っ張る。
「綺麗な人だからって目尻下げて、思いっきりデレデレしないのっ」
「イタタ。目尻は元々、下がってますよ……」
「だってさっきから呼んでるのに、無視したじゃないっ」
ますます引きちぎれんばかりの力で引っ張る蓮。そんな俺達の様子に、苦笑いしている彼女。
「折角ですから、おふたりで詳しいお話を聞いていただけませんか?」
助け船を出してくれたお陰で、何とか窮地を脱した。
――1時間後。ここで式を挙げることが決まった。
「あのウェディングプランナーさんの企画が、今までのトコと一味違うのがイイ」
という理由からである。
彼女に目配せすると、嬉しそうに微笑んでくれた。
そしてまた蓮にぐいっと耳を引っ張られる始末……。
「なぁんかさっきから、目付きがアヤシイのよね」
「朝比奈様、実は私達、高校の同級生なんです」
前の奥さんが切り出した言葉に、内心安堵する。同級生っていうのは間違いじゃない。
「高校時代のマットって、どんな感じだったんですか?」
俺の耳から手を離し、彼女の話に釘付けになった。
「責任感が強くて、クラス委員をしてました。あとは、そうですね。よく転んで人とぶつかったりしていたので、ケンカもしょっちゅうしてましたね」
「マットがケンカ……。今じゃ全然、想像ができない」
不思議そうな顔をして、俺をまじまじと見つめる。
「高校生のときは、いろいろあったんです。今は大人だから、無理な争いはしたくありません」
「私が原因でトラブルがあったら、ケンカしてくれる?」
上目遣いで、わざわざ聞いてくる蓮。
「最初に出会ったときのように、迷うことなく助けますよ」
今じゃ懐かしい話だ、あれがきっかけなんだから。
「昔と変わらないわね、しかもお似合いのカップルだわ」
彼女が俺達を見て微笑んだ。
何だかくすぐったい気持ちになりながら隣にいる蓮を見ると、寂しそうな笑顔を彼女に返していたのだった。
やれやれ、これで何軒目だろうか――
雑誌やネットで式場を調べてあちこちに足を運んでいるのだが、予想通り難航していた。
「今川くんと蓮の幸せな姿を、大勢の人に見せなければならない。お金はいくらかかっても構わないから、良さそうな場所をしっかりと選びたまえ」
どことなく蓮が発言した言葉に似てるのは、やはりDNAのなせる技なんだろうか。
芸能人じゃないんだから、そこそこの人数でちゃっちゃと挙げればいいのでは。なぁんて考えている←前回おこなった自分の挙式の例え
まぁ主役は花嫁だから、そういうワケにもいかないんだよな。
こっそり溜め息をつきながら、俺の腕に自分の右腕をしっかりと絡めてる蓮を見ると投げかけた視線に気がついて、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。それだけで、心が休まってしまう。
(――無駄にやきもきしても、しょうがないか)
2流だがチャペルのあるホテルを見学しようとふたりで相談して、そこへ行ってみることにした。
「いらっしゃいませ今川様、朝比奈様。お待ちしておりました」
丁寧な接客で従業員が頭を下げる。それをいつも通りスルーして、展示されているドレスに釘付けになる蓮。
「今日は説明、宜しくお願いします」
俺も頭を下げると、従業員がニッコリ微笑んだ。
「久しぶりね、アナタ」
「あ?」
――ん?
「まったく。相変わらず、ぼんやりしているんだから」
「君は……ここに勤めているのか?」
何と前の奥さんである。久しぶりすぎて、全然気づかなかった。
「夢を叶えたんだな」
ウェディングプランナーが夢だった彼女。自分の幸せを投げうって他人の幸せのために尽くすとは、すごいことだと当時は思った。仕事に集中したいという願いを聞き入れ、俺は身を引くべく離婚した。
「何だかアナタ、若返ったみたい」
「そうか?」
「きっと彼女のお陰ね。予約票を読んだときは驚いたわよ。15歳差って、どんな手を使って落としたんだか」
まるで結婚していた頃のように、普通に会話をしている。何だか、不思議な気分だ。
「はははっ、逆に落とされたんだよ」
「どうだか。昔からアナタっていつもぼーっとしてるから、あちこちでコケていたじゃない。頼りなさそうに見えるせいで、しっかりと母性本能をくすぐられるんだから」
クスクス笑いながら、酷いことを言う彼女。
「君は今、幸せなのか?」
思わず訊ねてしまった言葉に、柔らかくほほ笑む。
俺よりも仕事をとった彼女は今幸せなのか、気になったのだ。
「一生に一度のイベントなんだから、すごく緊張するし失敗が許されない仕事だから実際は大変だけど」
俺の目をしっかり見て、きりっとした真顔を見せた。
「幸せよ。幸せすぎて、未だに独身だけどね」
笑いながら語る姿を見て、あのときの判断が間違いじゃなかったと安心した。
そうか、幸せにしているのか――
「マット、ちょっと来て!」
ほっこりしているところに、蓮が大声で呼びとめる。
「マットなんて、随分と仲がよろしいんですね」
「……ああ」
――何だか、照れくさい。
「今川様、是非とも当ホテルで式を挙げてみませんか? 私が手がけたカップルは離れることなく、皆様幸せにお過ごしなんですよ」
「もしかして、伝説のウェディングプランナーって君なのか?」
凄腕のウェディングプランナーがいるからと2流であるが、ここに来た理由の一つだった。
「いかにも。誠心誠意をモットーにしております。今川様の幸せをプロデュースさせて下さい」
彼女に口説かれていると焦れた蓮がやって来て、俺の耳を掴んでぐいっと引っ張る。
「綺麗な人だからって目尻下げて、思いっきりデレデレしないのっ」
「イタタ。目尻は元々、下がってますよ……」
「だってさっきから呼んでるのに、無視したじゃないっ」
ますます引きちぎれんばかりの力で引っ張る蓮。そんな俺達の様子に、苦笑いしている彼女。
「折角ですから、おふたりで詳しいお話を聞いていただけませんか?」
助け船を出してくれたお陰で、何とか窮地を脱した。
――1時間後。ここで式を挙げることが決まった。
「あのウェディングプランナーさんの企画が、今までのトコと一味違うのがイイ」
という理由からである。
彼女に目配せすると、嬉しそうに微笑んでくれた。
そしてまた蓮にぐいっと耳を引っ張られる始末……。
「なぁんかさっきから、目付きがアヤシイのよね」
「朝比奈様、実は私達、高校の同級生なんです」
前の奥さんが切り出した言葉に、内心安堵する。同級生っていうのは間違いじゃない。
「高校時代のマットって、どんな感じだったんですか?」
俺の耳から手を離し、彼女の話に釘付けになった。
「責任感が強くて、クラス委員をしてました。あとは、そうですね。よく転んで人とぶつかったりしていたので、ケンカもしょっちゅうしてましたね」
「マットがケンカ……。今じゃ全然、想像ができない」
不思議そうな顔をして、俺をまじまじと見つめる。
「高校生のときは、いろいろあったんです。今は大人だから、無理な争いはしたくありません」
「私が原因でトラブルがあったら、ケンカしてくれる?」
上目遣いで、わざわざ聞いてくる蓮。
「最初に出会ったときのように、迷うことなく助けますよ」
今じゃ懐かしい話だ、あれがきっかけなんだから。
「昔と変わらないわね、しかもお似合いのカップルだわ」
彼女が俺達を見て微笑んだ。
何だかくすぐったい気持ちになりながら隣にいる蓮を見ると、寂しそうな笑顔を彼女に返していたのだった。
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