FF~フォルテシモ~

相沢蒼依

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伝想

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「マット、どうやって懲らしめようかな」

 ぼんやりとひとりきりでいる、会議室で考える。そんな最悪の雰囲気の中、ガチャという音と一緒に遠慮がちに入って来た恋人。

「……や、やぁ」

 何となく気まずそうな表情を浮かべながら、おずおずと傍にやってくる。今川くんの立ち聞きの件があるせいかな。

「先ほどはどぉも、今川部長」

 ニッコリ微笑んで言葉を返した。隣に座るのを待ってから、わざとらしくため息をついて声をかけてみる。

「マットは私のお見合い話、知ってるの?」

「ああ。会議が終わってから、会長がみんなに話をしたよ」

 たじたじした顔のマットを、横目でしっかりと確認した。

「何で言わなかったの? 私と付き合うことになりましたって」

 頬杖つきながら、マットをガン見してやる。ウッと困った顔をする様子は、私を苛立たせるものだった。

「会長だけならまだしも、重役連中に君とのことを話すには、勇気がいるというか何というか……」

 はっきりしない態度に、私の中にある怒りのボルテージがだんだん上がっていく。

「私が他の男と付き合っていいの? さっきだって今川くんに、いきなり抱き締められたんだよっ」

「えっ?」

 机をバンバン叩きながら、必死に訴えてみた。

「私はマットとの付き合いを真剣に考えてるのに、どうして煮え切らない態度をとってくれるのかな……」

「蓮――」

「まるで、私の片想いみたい」

 マットが作ったお弁当を掴んで、唐突に立ち上がった。

「今日は自分の席で、お弁当を食べる。じゃあね」

 マットは私を止めることなく、ただ黙って見てるだけ。そんな彼を振り返らずに、会議室を出て行くしかなかった。

「また、怒らせてしまいましたね」

 残された俺は蓮が作ってくれた弁当の包みを開けて、寂しくひとりで食べる。

「今日は何だか、味付けが濃い……」

 蓮が怒るのもしょうがない。はっきりしない俺が悪いんだから。

 彼女の真っ直ぐで迷いのない想いはときとして、ナイフのように深く突き刺さる。一度失敗してる身にとっては痛い――慎重にならざるおえない気持ちは、やはりどこか迷いがあるせいだろう。

「蓮が好きだよ……」

 まだ君に直接伝えていないのに、会長に交際を宣言できない。

 どうしたら君のように、素直になれるのだろう。潔く伝える勇気が欲しい。こんな年齢でも恋愛ができるとは、まったく思ってなかったから。

 一緒に帰ったときに絡めた手から君の温もりを感じたら、すべてが欲しくなった。それを抑えるのが、どんなに辛かったか――帰り際、何もしなかった俺を見て、ガッカリした君に気がついていたよ。

「蓮がどうしようもなく、好きだから……」

 手を出したら、どこで止められるか分からない。でも俺は君より大人なんだから、自分を律しなきゃという気持ちもあって。

「結局、どっちつかずなんだよな」

 なるべく早く決心をつけなければ。彼女を狙う貴弘だっているんだから。
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