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危愛
今川真人side2
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***
その1週間後、他の部署に用事があって出ようとしたら、角の向こう側から声が聞こえた。大好きな蓮の声――
気になってコッソリ覗いてみると、意外な人物が傍にいた。
「だから会長から社内の男連中との見合い話、聞いてないですか? 朝比奈先輩」
――あれは、甥っ子の貴弘だ。
「聞いたような、聞いてないような」
素っ気なくあしらっている蓮。
「専務が俺のことを推薦してくれたみたいなんですよ。ふたり並ぶと、とても似合いのカップルだねって」
「そうかしら……」
「朝比奈先輩は、俺が苦手でしょ?」
覗き込むようにして顔を見つめる貴弘に、心底イヤそうに蓮は顎を引いた。
「山田先輩が企画した合コンだって俺が話しかけたのに、さっさと隣にいる外川先輩とくっちゃべるし。知ってましたか? 俺ら、客寄せパンダだったって。上手く山田先輩に利用されたんですよ」
よく喋る男だな。それを仕事で生かせよ貴弘。
「合コンが盛り上がれば、それでいいじゃない」
そう言ってそっぽを向く姿に、ハラハラせずにはいられなかった。
専務じゃないがホントにふたりが、似合いのカップルに見えたのである。
――何か切ない。
「朝比奈先輩は年下はキライですか? それとも影でコソコソと人の話を盗み聞きする、おっちゃんが好みやろか?」
(うわっ、バレてる!)
ギクリと体が硬直した。
「今川くんって、関西人だったんだ……全然、気がつかなかった」
「前付き合ってた彼女が訛りがイヤやって言うから直したんですけど、朝比奈先輩はどっちがええですか?」
言い終わらない内に俺の腕を掴んで、壁から引きずり出されてしまった。
「今川部長……」
「おっちゃんも人が悪いなぁ。それとも甥っ子の恋愛の行方が、気になったんやろか?」
自分がしていた行動を軽率だったと内心反省しながら、高圧的な貴弘の態度にムッとした。
「そんなところで朝比奈さんに絡む暇があるなら、ちゃんと仕事したらどうだ」
蓮が明らかにイヤがってるのを分かっていながら、わざわざ口説いてる。
「自分トコの推薦した部署の男と付き合わせようと企んどるから、盗み聞きしてはったんやろ?」
「そんなことはありません」
「今川部長もこんなとこで油売ってないで、さっさと仕事したらどうです」
蓮が俺たちの会話を断ち切るように、怒った声で言い放つ。
言葉に詰まる俺を見て貴弘はニヤリと笑いながら、蓮の肩に腕を回した。
「朝比奈先輩は営業部に用事があるんでしたよね。一緒に行きましょう」
そう言って、この場から彼女たちを連れ去る。俺はなす術がないまま立ち尽くした。
完敗の二文字が、ふと頭に浮かんだ。
「今川部長、やっと見つけた!」
気落ちながらとぼとぼ廊下を歩いてると、小走りでこちらにやって来た仕事のできる部下の山田くん。
彼の顔を見て決心した。
「取引先の鎌田さんから、何度も電話がかかってきています」
「ああ、わざわざすまないね」
一緒に並んで部署に戻る。言うなら今だろう。
「山田くん、実は言わなきゃならないことがある」
「何でしょうか?」
不思議そうな顔をして、小さな目を見開きながら俺を見つめる。
「実は、朝比奈さんと付き合っているんだ……」
ぽかーん(@д@)←山田顔
思わず立ち止まる山田くん。
「信じられない話なんだけど、ホントの話なんだ」
「あの……何か弱みを握られて、無理やりに付き合わされてるワケじゃなく……。ホントにですか?」
疑いの眼で見る山田くんに、静かに頷いた。
「それで、頼みがあるんだが」
「はい、何ですか?」
「彼女の見合い話があって、山田くんが候補にあがっているんだ。ほとぼりが冷めるまででいいから、俺の身代わりになってくれないか?」
山田くんに向かって合掌した。
「なぜ俺がそんな候補に……」
――俺が名前出したとは言いにくい。
顎に手をあてて、しばらく考える山田くん。
「いいですけど……。短期間でお願いします。一応俺にも彼女がいるんで」
「すまない。なるべく早く決心つけて、会長に話せるように努力します」
のちにこれが山田くんの破局の原因になるとは、このときは夢にも思わなかった。
その1週間後、他の部署に用事があって出ようとしたら、角の向こう側から声が聞こえた。大好きな蓮の声――
気になってコッソリ覗いてみると、意外な人物が傍にいた。
「だから会長から社内の男連中との見合い話、聞いてないですか? 朝比奈先輩」
――あれは、甥っ子の貴弘だ。
「聞いたような、聞いてないような」
素っ気なくあしらっている蓮。
「専務が俺のことを推薦してくれたみたいなんですよ。ふたり並ぶと、とても似合いのカップルだねって」
「そうかしら……」
「朝比奈先輩は、俺が苦手でしょ?」
覗き込むようにして顔を見つめる貴弘に、心底イヤそうに蓮は顎を引いた。
「山田先輩が企画した合コンだって俺が話しかけたのに、さっさと隣にいる外川先輩とくっちゃべるし。知ってましたか? 俺ら、客寄せパンダだったって。上手く山田先輩に利用されたんですよ」
よく喋る男だな。それを仕事で生かせよ貴弘。
「合コンが盛り上がれば、それでいいじゃない」
そう言ってそっぽを向く姿に、ハラハラせずにはいられなかった。
専務じゃないがホントにふたりが、似合いのカップルに見えたのである。
――何か切ない。
「朝比奈先輩は年下はキライですか? それとも影でコソコソと人の話を盗み聞きする、おっちゃんが好みやろか?」
(うわっ、バレてる!)
ギクリと体が硬直した。
「今川くんって、関西人だったんだ……全然、気がつかなかった」
「前付き合ってた彼女が訛りがイヤやって言うから直したんですけど、朝比奈先輩はどっちがええですか?」
言い終わらない内に俺の腕を掴んで、壁から引きずり出されてしまった。
「今川部長……」
「おっちゃんも人が悪いなぁ。それとも甥っ子の恋愛の行方が、気になったんやろか?」
自分がしていた行動を軽率だったと内心反省しながら、高圧的な貴弘の態度にムッとした。
「そんなところで朝比奈さんに絡む暇があるなら、ちゃんと仕事したらどうだ」
蓮が明らかにイヤがってるのを分かっていながら、わざわざ口説いてる。
「自分トコの推薦した部署の男と付き合わせようと企んどるから、盗み聞きしてはったんやろ?」
「そんなことはありません」
「今川部長もこんなとこで油売ってないで、さっさと仕事したらどうです」
蓮が俺たちの会話を断ち切るように、怒った声で言い放つ。
言葉に詰まる俺を見て貴弘はニヤリと笑いながら、蓮の肩に腕を回した。
「朝比奈先輩は営業部に用事があるんでしたよね。一緒に行きましょう」
そう言って、この場から彼女たちを連れ去る。俺はなす術がないまま立ち尽くした。
完敗の二文字が、ふと頭に浮かんだ。
「今川部長、やっと見つけた!」
気落ちながらとぼとぼ廊下を歩いてると、小走りでこちらにやって来た仕事のできる部下の山田くん。
彼の顔を見て決心した。
「取引先の鎌田さんから、何度も電話がかかってきています」
「ああ、わざわざすまないね」
一緒に並んで部署に戻る。言うなら今だろう。
「山田くん、実は言わなきゃならないことがある」
「何でしょうか?」
不思議そうな顔をして、小さな目を見開きながら俺を見つめる。
「実は、朝比奈さんと付き合っているんだ……」
ぽかーん(@д@)←山田顔
思わず立ち止まる山田くん。
「信じられない話なんだけど、ホントの話なんだ」
「あの……何か弱みを握られて、無理やりに付き合わされてるワケじゃなく……。ホントにですか?」
疑いの眼で見る山田くんに、静かに頷いた。
「それで、頼みがあるんだが」
「はい、何ですか?」
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山田くんに向かって合掌した。
「なぜ俺がそんな候補に……」
――俺が名前出したとは言いにくい。
顎に手をあてて、しばらく考える山田くん。
「いいですけど……。短期間でお願いします。一応俺にも彼女がいるんで」
「すまない。なるべく早く決心つけて、会長に話せるように努力します」
のちにこれが山田くんの破局の原因になるとは、このときは夢にも思わなかった。
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