FF~フォルテシモ~

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
14 / 47
告白

しおりを挟む
***

 朝の重い気持ちを吹っ切るように、颯爽と会議室に向かう。今日のお弁当は、焼き魚がメインの自信作。ちくわとにんじんの煮物に、えのきとピーマンの炒め物。ご飯も鰹節と醤油をまぶした、俵型のおにぎりにしてみた。

「美味しいです」

 今川部長のその言葉を聞くだけで、天にも昇る気持ちになれる。毎晩お弁当の仕込みをするのも、その言葉が聞けるようにと無性に頑張れた。

 良いお嫁さんになれるね――って言われたらどうしよう! さすがにこの言葉は言ってくれないか。

 ひとりでツッコミながら、ポツンと会議室で待つ。

「どうしたんだろ、今日はやけに遅いな……」

 仕事で何か、トラブルでもあったんだろうか。

 不安になりかけたその時、ゆっくりと扉が開いて今川部長が入ってきた。

「こんにちは……」

 ほっとしながら挨拶をする。

「こんにちは。申し訳ないけど、今日は一緒に弁当食べられないんです」

 傍まで来て自分のお弁当を机に置き、私のお弁当を手に取った。

「忙しいなら、仕方ないですよ」

 内心ガックリしながら言うと、なぜか頭を撫でる。普段そんな事をしないのに、一体どうしたんだろ?

 目を丸くして今川部長の顔を見つめると、なぜだか頬がちょっとだけ赤くなっていた。

「ちゃんと出先で、しっかり食べるから。君の手料理……」

「はい、お仕事頑張って下さいね!」

 微笑みながら応援したら頷いたあと、逃げるようにバタバタ足音を立てて会議室を出て行った。

 何だかいつもと様子が違う感じ……。違和感ありまくり。忙しいせいなのかな――

 お弁当袋の結び目を解いて、ため息をつく。ひとりで食べるのは寂しいけど、しょうがないよね。

 さて今日はどんなお弁当なんだろう、ワクワク。

 気分を変えて、ぱかっと蓋を開けたら――

「……っ!」

 あまりに衝撃的な中身に、蓋を閉じた。コレはいったい?

 もう一度蓋を開けて、まじまじと確認してみる。

 煎り卵とひき肉の二色ご飯の真ん中に、さくらでんぶでキレイなハートが描かれていた。その上に海苔を使って、文字が書かれていたのである。

『スキダ』

 ――どうしよう、どうしよう。

 これ食べられないよ。写メ撮らなきゃって、デスクの上にスマホを置きっぱなしにしてきちゃった。

 頭が混乱して、どうしていいか分からない。冗談でこんな事をする人じゃないから、これってアレだよね。

 急いで廊下に出てみるが、当然今川部長の姿はない。また会議室に戻る私。

 午後の始業時間まで、あと10分――嬉し泣きしながらお弁当を食べた。ドキドキしすぎて、味なんて分からない。

 明日会ったら、まず何て言ったらいいのかな。

 幸せすぎて怖いよ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...