63 / 89
白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
22
しおりを挟む
***
次の日、当選の祈願祭を兼ねた出陣式が、事務所前で午前7時半に行われた。
選挙区内で有名な神社の神主を手配し、党の幹部からお世話になった芸能事務所の関係者やスタッフに見守れながら、会場に設けられた祭壇の前で厳かに執り行われた。
ほんの数時間前までは短い黒髪を乱しながら卑猥な言葉を口走り、淫らなことをして散々俺を翻弄した恋人は、今はまったく別人の姿だった。
純真無垢な雰囲気を身にまとい、祭壇に向かって祈りを捧げる稜に舌を巻くしかない。
その後、慌ただしく選挙カーに乗り込み、急いで場所を移動した。
街頭演説は、朝8時から夜の8時まで行うことができる。限られた時間を有意義に使うべく会社員の出勤時間帯を狙って、駅前で演説したらいいと二階堂の考えで行動することになった。
「おはようございます。いってらっしゃい!」
『はなお りょう』と大きく印刷されたタスキを肩からぶら下げて、駅前を行きかう人に向かってマイクを使わずにお腹から声を出し、頭をぺこぺこ下げていた。
そんな彼を一切見ずに通り過ぎる者もいれば、わざわざ近づいて握手を求める有権者がいた。
芸能人のオーラを封印し、候補者として頑張っている稜の周りには、スタッフが数人散らばって、同じように頭を下げながら手際よくチラシを配っている。
その様子を少し離れた場所で、二階堂と一緒に眺めていた。
変な輩が現れるかもしれない可能性を考えて、あちこちに視線を飛ばす俺とは違い、二階堂は稜の様子をじっと見つめ、手にしたタブレットに何かを打ち込んでいく。
「昨日稜さんに、秘書さんを苛めないでくれと頭を下げられました」
二階堂の動きを気にしたときに話かけられたので、内心驚きながら横を向いた。そんな俺に視線を合わせず、じっと前を見据えたまま言葉を続ける。
「僕としては、苛めたつもりはなかったんですけど。事務所でのやり取りが、腹に据えかねたのでしょうね」
タブレットの操作をしながら、淡々と語っていく二階堂の心情を読みたかったのだが、メガネの奥の瞳はおろか表情からもそれを窺うことができなかった。
次の日、当選の祈願祭を兼ねた出陣式が、事務所前で午前7時半に行われた。
選挙区内で有名な神社の神主を手配し、党の幹部からお世話になった芸能事務所の関係者やスタッフに見守れながら、会場に設けられた祭壇の前で厳かに執り行われた。
ほんの数時間前までは短い黒髪を乱しながら卑猥な言葉を口走り、淫らなことをして散々俺を翻弄した恋人は、今はまったく別人の姿だった。
純真無垢な雰囲気を身にまとい、祭壇に向かって祈りを捧げる稜に舌を巻くしかない。
その後、慌ただしく選挙カーに乗り込み、急いで場所を移動した。
街頭演説は、朝8時から夜の8時まで行うことができる。限られた時間を有意義に使うべく会社員の出勤時間帯を狙って、駅前で演説したらいいと二階堂の考えで行動することになった。
「おはようございます。いってらっしゃい!」
『はなお りょう』と大きく印刷されたタスキを肩からぶら下げて、駅前を行きかう人に向かってマイクを使わずにお腹から声を出し、頭をぺこぺこ下げていた。
そんな彼を一切見ずに通り過ぎる者もいれば、わざわざ近づいて握手を求める有権者がいた。
芸能人のオーラを封印し、候補者として頑張っている稜の周りには、スタッフが数人散らばって、同じように頭を下げながら手際よくチラシを配っている。
その様子を少し離れた場所で、二階堂と一緒に眺めていた。
変な輩が現れるかもしれない可能性を考えて、あちこちに視線を飛ばす俺とは違い、二階堂は稜の様子をじっと見つめ、手にしたタブレットに何かを打ち込んでいく。
「昨日稜さんに、秘書さんを苛めないでくれと頭を下げられました」
二階堂の動きを気にしたときに話かけられたので、内心驚きながら横を向いた。そんな俺に視線を合わせず、じっと前を見据えたまま言葉を続ける。
「僕としては、苛めたつもりはなかったんですけど。事務所でのやり取りが、腹に据えかねたのでしょうね」
タブレットの操作をしながら、淡々と語っていく二階堂の心情を読みたかったのだが、メガネの奥の瞳はおろか表情からもそれを窺うことができなかった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
花香る人
佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。
いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。
自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。
ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。
もしも親友が主人公に思いを寄せてたら
ユイト 平凡、大人しい
カイ 美形、変態、裏表激しい
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます
はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる