毒占する愛

相沢蒼依

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毒占欲番外編

モテ星座

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「もぉ、俺ってば無能すぎっ。全然上手くいかない……」

 珍しく愚痴る稜を、キッチンから眺めてしまった。綺麗な顔を歪めながらソファに座り、手には台本を持っている。どうやら今回のドラマの役柄が、相当難しいらしい。

 そんな疲れている彼にコーヒーを淹れるべく、キッチンでお湯を沸かしていた。

 目の前のリビングには、いつも以上に花が飾られていて、その鮮やかさに目を奪われる。

 先日誕生日だったのもあり、ファンや芸能関係者から、たくさんの花束が贈られてきていたのだった。

 過去のことは何処へやら――今やマルチタレントとして大活躍中。歯に衣着せぬ物言いや、現場を上手く盛り上げるところが評価され、テレビで彼を見ない日がないくらい、人気を博す存在となっている。

「大丈夫か? ほらコーヒー淹れたから、気分を変えたらどうだ」

 お気に入りのマグカップに甘めのカフェオレを作り、そっと手渡してあげた。

「ありがと、克巳さん。戴きます」

 嬉しそうに微笑むと、すぐに口をつける。

「んんっ! 美味しい♪ やっぱ克巳さんが淹れてくれるのって、最高だよ。癒されまくり」

「さっきの俺と、どっちが最高?」

「ブッ!!」

 口元を押さえ、頬を少しだけ赤くさせながら、じと目で睨んできた。疲れて返ってきたトコを癒すべく、迎え撃ってあげたんだけどな。

 隣に座り込み、手に持ってる自分のコーヒーを一口飲んでから稜の頭を引き寄せ、零れないよう唇をしっかり塞ぎ、ブラックコーヒーを飲ませる。

 鼻先に漂うシャンプーの香り。まだしっとりと髪が濡れていて、妙に艶っぽく見える。

「う……ん、にがぁい」

「これで君のカフェオレが、もっと甘くなるだろ」

「余計なおせっかい、すぐするんだから。もぉ♪」

 唇を尖らせて文句を言ってるが、目がしっかりと笑ってる。どうやら機嫌が直ったようだ。

 安堵のため息をついて、もう一口コーヒーを飲むと、テーブルに置いてあったスマホを手に取り、真剣な顔をして何かを読む。

「台本を読まなくて、大丈夫なのか? 難しい役柄なんだろ?」

「まぁね。でも今は気分転換するよ。克巳さんがいい感じで、空気を入れ替えてくれたからさ」

 俺の肩に頭を乗せて、鼻歌混じりにスマホを見やる。最初の内は、大層ご機嫌な様子だったのに。

「何だかなぁ……書いてあることが当たってるだけに、びみょー」

 せっかく持ち上げたご機嫌が、一気に雲行きが怪しくなってしまった。まったく忙しいコだ。

「稜の悪口でも書かれていたのか? 気にする必要はないさ」

 人は日和見なんだ、しょうがない。

「俺というか俺の星座がさ、ちょっと問題ありなんだよ。ほら」

 ずいっと目の前に、スマホを見せてきた。稜の星座って、確かてんびん座だったか――そんな星座占いを信じるなんて、まるで女のコみたいだな。たった十二部門で、何が分かるのやら。故に血液型もしかり!

 白い目をしながら、それを読んでみる。

「……十二星座の中で一番のモテ星座は、てんびん座です。実際のところ、稜はモテモテだね。今や人気はうなぎ上りで、天井が見えないくらいだし」

「でしょ♪ だけどね、その先が問題なんだ」

「なになに……てんびん座の格好良さは、外見だけではありません。細やかな気配りやさわやかな笑顔、洗練された仕草などなど、全てにおいてレベルが高い上に、普通の好みの人にもマニアック好みの人からも、等しく人気が高いのです」

 読み上げる俺の言葉に、うんうんと相槌を打つ稜。

「ちなみにこの間対談した、小説家の先生の担当も、同じてんびん座なんだよ」

 その言葉で、何だか納得してしまった。稜と担当さんの格好良さは天下一品だと思うから。書かれていることが本当に、当たっているじゃないか。

 内心驚きつつ、先を読み進めてみた。

「――すべての面が高得点であるだけに、突出した個性がないのが、実に惜しいところです。みんなのアイドルには簡単になれても、一番好きな人の一番になるのは、モテナンバーワンの天秤座でも簡単ではないのです、か……」

「俺ってば、克巳さんの一番になれてない?」

 心配そうに窺う視線。俺の気持ちが、分かっていないのだろうか。というか、無駄な心配だろうに。

「さて、どうだと思う?」

 目の前に掲げられていたスマホを退けて立ち上がり、椅子にかけられていた上着から、自分のスマホを取り出した。

「しかもね、克巳さんの星座のさそり座が第十一位なんだよ。不特定多数に、モテたいとは思わないでしょう。世界でたった一人と両思いになれれば、それで満足なのです。だってさ」

「世界でたった一人か。当たってるね、それ」

「でしょー。だからすっげぇ、ムカつくんだってば」

 くだらない占いに左右され、イラつく稜に苦笑するしかない。そこが可愛いといえば、否定出来ないけれど。

「黙って、コレを見なさい」

 自分のスマホで検索したものを、その手に握らせてやった。

「ん? 星座・誕生月占いについてのまとめ?」

「それを見て、よく思い知ってほしいね」

 占いを信じているのなら、それを使って知らしめてみるのも一興。さてこれを読んで、君はどう思うのだろうか。

「浮気ができない星座ランキング一位 蠍座。やきもち焼きな星座ランキング一位蠍座……」

「だ、そうだよ」

「異性にモテる星座ランキング一位蠍座って、克巳さんってば異性にモテちゃうんだ」

 ギロリと睨まれてもな――

「だけど世界でたった一人と、両思いになれれば、いいんじゃなかったっけ? その先を読んでみるといい」

「……結婚生活が上手くいかない、星座ランキング十二位蠍座」

「どうして上手くいかないって、書かれているかが疑問だな。どうせなら稜と上手くいくランキングだったら、間違いなく一位なのに」

 さっきと同じように彼の隣に座り、その肩を抱き寄せてやった。

「それ読んで、満足してくれた?」

 困ったような表情をしつつも口角が上がり、嬉しさを滲ませた唇に、そっとキスしてあげる。

「っ……満足したけどさ。この続きに書いてあるのことは、やっぱりムカつくよ」

「何かあったか? 最後まで読んでいなくて」

 稜が指し示した箇所を、渋々目で追ってみた。ああ……なるほどな。

「克巳さん、見てよこれ。何この十月生まれは、バカとかアホって」

「だけど、イケメンって書いてあるものあるよ。マイペースなんて、そのままだ」

「そうかな。でもさそり座の見た目は、普通ってなってるけど、克巳さんは普通じゃないのにさ。俺からしたら、イケメンそのものだもん。やっぱり占いは、当てにならないかも」

 そうそう、占いは占い。事実とは異なります。

「でも下ネタ大好き星座ランキング二位で、知識は豊富ってトコは、否定出来ないな。実際、克巳さんにいろいろされているから、分かっちゃう事実♪」

 おやおや、変なトコに食いついてきた。

「この星座のまとめ、担当さんに送ってやろ。喜ぶだろうから」

「どうして?」

「ここの部分がさ、絶対に泣いて喜ぶって思うから。最近聞いたところによると、担当さんってば画集を出す勢いで、絵を描いているんだって」

 その言葉に以前、稜が見せてくれた担当さんの描いた絵を鮮明に思い出してみた。

 ちょうど服を脱がせて、これからってときだったのに、突然送られてきたメールに添付されていた、破壊力のあるその絵のせいで、淫靡な雰囲気が見事、ぶち壊されたのだ。

「芸術的センスのある、星座ランキング二位てんびん座……確かにこれは、喜びそうなネタになるだろう」

「実はね俺も芸術的センスを披露すべく、歌手デビューすることになったんだ」

 困ったな、それは――確実に人気が出るのが、目に見えるから。長い髪を揺らしながら、情熱的な美声で歌い上げる姿が、容易に想像出来てしまう。

「台本読みに詰まったときに、気分転換で歌詞を書いてるんだ。克巳さんを思い出しながら、あれこれ書いているんだよ」

 ちょっとだけテレながら、台本に挟まれている紙を取り出した。

「作詞って難しいけど、気持ちを表現するのは楽しいんだ。何だか、ラブレターを書いてる気分♪」

 ほらこれと手渡されたそれを読んで、固まるしかない。

「タイトルは、アナタを毒占。どう? 何となく、ざっくりという感じで書いている状態なんだけどさ」

「――君が歌うこれが、日中に有線で流れたりしたら、問題になるんじゃないか? PTAとかウルサイ方面から、苦情がきたりするかもな……」

 公でこれを歌うとなると、相当数の苦情が来そうな予感……。

「しょうがないじゃん、それが俺の想いなんだから。受け取ってくれるでしょ克巳さん」

 歌詞に書かれているような、誘う視線で俺を見やる。

「喜んで受け取るけどね。俺以外に、そんな目を使わないように……」

「ん?」

 分かっていないであろう、その目を塞ぐべく、奪うように口づける。ほのかに感じる甘い口内に、思わず酔いしれそうになった。

 ラブレターだという歌詞をそっとテーブルに置いてから、稜の躰をぎゅっと抱きしめる。

「あっ、ん……まだ台本が途中なのに」

「君が、こんなのを見せるのが悪い。それに――」

「なぁに?」

「読んでいなかったのか? さそり座は、毒のある星座だって書いてあったろ?」

 ゆっくりとその場に押し倒し、裾から手を入れてみた。その途端、肌の触れたところから、じわじわと熱が上がっていく。

「……あぁ、っ……読んでたよ、ちゃんと」

「なら分かってるだろ。ちゃんと受け取ってくれ稜。愛という名の毒を」

 耳元で甘く囁きながら、首筋にちゅっとキスをしたら、それに応えるように、俺の躰を抱きしめ返してきた。

 ――これからはじまる、ふたりきりの甘い時間。現実を忘れて今、ふたりは重なり合う――

      【アナタを毒占】

 むせ返る様な華の香りの中 アナタを思い切り抱きしめる

 痛いくらいに抱きしめて離さない私を アナタも同じように強く抱きしめてくれた

 その痛みさえも全部愛おしくて堪らない お願いだから求めて欲しい アナタをもっと愛したいから

 誘う視線 交わされる愛の言葉 その次は×××

 愛を語るその唇で もっと溺れさせてほしい

 お酒よりもアナタに酔いしれていたい そんな夜

 その指先で私の全部を 簡単に狂わせていく

 お願いだから深く刻み込んで アナタの鼓動を感じたいから

 膨らむ感情  重なる肌と肌 その先は×××

 アナタのくれる律動で 花弁がはらりと舞い散るの

 甘い吐息が漏れる唇を塞ぎながら ひとつになる夜 

 そのリズムで私の事をイかせて 心ごと身体ごと求めて欲しい アナタの愛をすべて知りたいから
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