毒占する愛

相沢蒼依

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毒占欲番外編

楽屋にて

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***

 楽屋にて――

「結局、遅刻した上にどうして不幸って、こうも続いちゃうんだろ」

 結局タクシーはすぐに見つからず(ほら最初から呼んでおけばと、文句を言い続けた克巳さん)

 遅刻した上に衣装選びに時間がかかっちゃって、どれを着ようか迷ってた俺に、奥の方から赤い色地の派手なTシャツを、押し付けるように手渡してくれたんだ。

 喜んで着たのはいいんだけど――

 洋服にタグが付いていたから克巳さんに切ってもらったのに、タグの片方が中にある網目に引っかかり、ずっとチクチクしっぱなし。

 微妙すぎるトコなので、指でその場所を差すことも出来ず、口で言うしかなかった。

「それよりも、どこなんだ?」

「えっと、もっと右っ。もうちょっと奥の方」

「むうぅ……」

「あぁん、もう! 引っかかってる、早くしてよ」

 畳の上に寝そべった俺に覆いかぶさり、背中から手を伸ばして、必死に取ろうとしてくれてるんだけど、触れる気配すらないのは、どうしてなんだよ?

「……じっとしててくれ、動かれるとズレる」

「だって克巳さんの手の動きが微妙すぎて、うずうずするんだ。しょうがないだろ」

「微妙って……こんなに一生懸命、頑張っているというのに」

「ワザとでしょ。俺だけイって自分がイけてないから、ワザと感じさせてるんだ」

「何を言ってるんだ、稜」

 顔だけ振り向いて文句を言ったら、渋い表情を浮かべて唇を尖らせる。

 ホントは、すっごく克巳さんとひとつになりたかったのに時間がないせいで、スキンシップのみで終わらせてあげたんだぞ。

 しかも、さっきから探してる場所――

「だって文句を言いたいよ。右って言ってるのに、さっきから左側ばかり触ってるじゃん」

「…………」

「うわっ、何その大きなため息。間違ってるの、克巳さんなのに」

 俺は最初から、右側って言ってた。向かい合わせじゃないのに、このミスはかなり珍しいかも。

 それとも、やっぱりわざと――?

「脱いだほうが早い」

「え~っ、これ着るのすっげぇ苦労したっていうのに、今更脱ぐのはイヤだ」

「じゃあ、別の衣装を着ればいい」

「イヤだよ。克巳さんがこれ似合うって言ってくれたから、わざわざ苦労して着たんだし」

 全部、克巳さんのせいだっ!

 玄関で襲わなければ時間だって間に合っていたハズだし、洋服だってコレじゃなきゃ、タグは付いてなかっただろうし、タグを見事に落とすこともなかっただろう。

「(;-ω-)ゞ」

「そんな渋い顔してないで、何とかしてよ」

「(´-д-)-3」

 俺の文句に相変わらず嫌そうな表情を崩さず、きちんと右側に手を伸ばしてくれた。

「そうそう、右の奥だから♪」

「ん~~~……」

「あぁっ、ソコ! 今、触ったよ絶対っ」

 ちょうどチクチクしていた場所だったので、大きな声をあげて指摘してやったのに――

「チッ!! 確かに触ったのに、稜が勝手に動いたから逃げられた」

 それってやっぱ、俺のせいになるのか!? んもぅ、タイミングが悪すぎるったらありゃしない。

 コンコンッ!

 返事をする前に扉が開いて、知り合いのADが顔を出した。

「すんませぇーん。皆さん、もうお揃いなんですが……って――
Σ(o>艸<o)」

 俺らの姿は傍から見たら、いけないコトをしている最中に、見えなくはないからね。うつ伏せに寝そべった俺に、克巳さんが後ろから圧し掛かり、服の中に手を突っ込んでいるんだから。

「ごめんねぇ。やましいことをしてるんじゃないんだよ」

「だだだって、その体勢で服に手を入れて。その、あの////」

 赤面しまくりのADの様子に克巳さんとふたり、顔を見合わせながら苦笑してしまった。

「まったく、もう! 本当に、何もしていないんだってば。スタイリストさんが、洋服のタグを切るのを忘れちゃったみたいでさ。慌てて着てからそれに気がついてハサミで切ったら、プラスチックのアレが、中の網目に引っかかってね。それを取ってもらってたトコなんだよ」

「君も手伝ってくれないか。稜が身体を動かさないよう、押さえつけてほしい」

 なかなか取れないことに、心底辟易したのだろう。克巳さんが他の人に、SOSを出すなんて珍しいことなんだ。

 俺としては、ふたりきりのイチャイチャを楽しんでいるのにな。

「ちょっ何その、3Pみたいな誘い方!」

 いつものごとく、安定したエロワードを言ってやる。

「さささ3Pっ////」

 入ってきたADのコは、更に顔を真っ赤にして固まってしまった。

 ふふふ、いい表情くれてありがと。

「ふざけてないで、マジメにしなさい」

「マジメに3Pって、どんなのだよ♪」

 俺としてはちょっとだけ経験してみたいけれど、それをやっちゃうと頭を下げて、必死に止めに入る人が、目の前にいるからね。

 口角を上げて喜ぶ俺と、相変わらず渋い顔して服の中に手を突っ込み、果敢に取れないモノにチャレンジしてる恋人の克巳さんと、口をぱくぱくさせて俺らの様子を見守るAD。

「やっと取れたぞ!」

 克巳さんの晴れやかな言葉に、ADのコはホッとして。

「お願いしますから、早く行きましょう。皆さん、首を長くしてお待ちですので」

「ごめんねー。すぐに追いかけるから、みんなに伝えてくれないかな」

 その言葉に頷いて、飛び出すように部屋から出て行った。

 扉が閉まる音を聞いてから、克巳さんの首に腕を絡める。

「ほら、早く行かないと。皆さんを待たせているんだから」

「わかってるって。ねぇ頑張れるようにさ、いってらっしゃいのキス、克巳さんしてよ♪」

 目を細めながら顔を見上げると腰を抱き寄せて、ちゅっと触れるだけのキス――

「んもぅ! そんなのじゃ足りないって、もっとちゃんとしたヤツ!」

「しょうがないコだな」

 怒って文句を言ったのにも関わらず、嬉しそうな表情を浮かべて顔の角度を変え、ゆっくりと唇を押し当ててきた克巳さん。

 ぬるりと割って入ってきた舌に、そのまま身を任せる。キスしただけでもこんなにドキドキしちゃうのは、克巳さんだからだろうな。

 際限なくもっともっと、欲しくなってしまう。

 注がれる唾液と一緒に愛情を飲み込んで、それをしっかり堪能してから、そっと離れた。

「ありがと。すっごく頑張れるよ」

「…………」

 無言で注がれる視線――離れたくない、もっと稜が欲しいと言ってるのが伝わってきた。

 寂しげに俺の頬を撫でるように触れてから、両肩を掴んで扉に押し出す。お互いの寂しさを断ち切るような行動に、苦笑するしかない。

「頑張って行ってらっしゃい。あまり皆さんを困らせちゃダメだよ」

「わかった、行って来るね」

「会社に一本電話入れたら現場に顔を出すから、先に行っててくれ」

 平日にわざわざ仕事を休んで、顔を出しているからね。何だか申し訳ないな――

「そんな顔をするんじゃない。稜は、笑ってる顔が一番だよ」

 克巳さんには背中を向けた状態なのに、何故だか沈んでる気持ちが伝わってしまう。どうしてだろ?

 顔だけで振り返ると、俺の好きな柔らかい笑みを浮かべて、後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

「いつもの元気で行っておいで。帰ってきたらとびきりの愛情を、稜に注いであげるから」

 わざわざ耳元で囁いてから、オデコにちゅっと音の鳴るキスをした。それだけで元気が出ちゃうんだから、相当参ってるよね――

「わかった。楽しみにしてるからね♪」

 克巳さんに向かって投げキッスをし、振り切るように部屋から飛び出す。すっごく名残惜しいけど仕方ない。

 アナタが好きな笑顔で頑張るから、ずっと傍で見ていて欲しい。

 そんな気持ちで、今日も仕事に臨む――
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