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act:痺れ薬・略奪
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***
彼に連れて来られたマンションは、理子さんの勤めている会社に意外と近く、歩いて十分ほどの場所にあった。
「はいはーい、ここが俺ン家です。マンションの最上階の、イイとこに住んでますって自慢したいんだけど、貧乏モデルの駆け出し芸能人なんで、三階に住んでるんだ。相田さんは遠慮しないで、エレベーターを使って。俺は健康のために階段で行くから」
言いながらエレベータの昇降ボタンを押してくれたのだが、彼に合わせて階段を使うことにした。日頃、営業で出歩いているので、三階までの階段なんて、正直余裕だ。
息を切らさず彼の後ろを無言でついて行くと、負けずキライなんだねぇと、どこか楽しそうに言いながら肩をすくめる。
「相田さんって呼ぶの何だか堅苦しいから、リコちゃんと同じく、克巳さんって呼んでもいい?」
鍵を差し込みながら窺うように訊ねられ、思わず眉根を寄せた。
初めて彼の口から自分の名前を呼ばれた瞬間、馴れ馴れしくて嫌なヤツという認識を示すべく顔色で表してみたのに、さっきから笑みを絶やさない、彼の心情が掴めずにいる。
一体、何を考えているんだろうか――
「エリートな克巳さん家と違って、狭いところだけど、どーぞ」
考えあぐねているところに話しかけられたので、恐るおそる入ってみると、自分の家の広さと違いのない、1DKの部屋だった。
「俺、エリートじゃないですし、家の広さも同じくらいですよ稜くん」
向こうが名前で呼ぶなら、こっちも呼んでやれ。
思いきって告げた言葉に、印象的な瞳を一瞬だけ見開いて、くすぐったそうに笑った顔が、さっきまで浮かべていた笑みと違うなと思った。心の底から笑ったと表現すべきなのか、それとも素直な笑みというか。
芸能界という華やかな場所で仕事をしているから、笑うなんてことは彼の中では当たり前だろうが、テレビで見ることの出来ないその笑みが、何故だか心に残ってしまったんだ。
「へえ~、同じくらいなんだ。有名銀行にお勤めだから、てっきりすごいトコに住んでいるんだと思ってた。ああ、そこのソファに座ってて下さい。今、コーヒー淹れますね」
「……おかまいなく」
彼から視線を外し、指定されたソファに座るべく躰の向きを変えた途端に、それが目に飛び込んできた。
「……お花、すごい数ですね」
部屋のあちこちに、花瓶がたくさん置かれている状態に固まってしまう。リビングにはテレビとテーブル以外ないため尚更、華やかさを与えていた。
「ああ、それね。モデル時代からのファンの子が贈ってくれたんです。CM出演のお祝いにって。これでも半分以下なんですよ、ほとんど事務所に置いてきちゃった」
圧倒的なその量と花の香りに、呆然と立ち尽くすしかない。
「俺の苗字、葩御の:葩(はな)って、花びらという意味なんですよ♪」
キッチンでコーヒーを淹れてる彼が、唐突に話し出す言葉に違和感を覚えた。
どちらかというと俺の目に映る彼の姿は、儚い花びらよりも艶やかな華だろうなと思ったから。柔らかく微笑みながら、ポーズをとっているだけで、必然的に目を奪われるような何かを放った人。
自分とは違う世界に住んでる、対極の存在――どんなに頑張っても、俺はこんな風にはなれない。
「切花ってお水をあげないと、すぐに枯れてシワシワになって、花びらが散っていくでしょ。その感じが、哀愁漂っていて好きなんですよね。俺も枯れないように、頑張らなきゃなぁって」
「何か、……変わってますね」
俺もどうかしている。この場に立ち尽くしたまま、彼とこんな風に和やかに話をしているなんて。不思議と、彼のペースに乗せられてしまうんだ。
しばらくするとコーヒーを淹れる芳醇な香りが、部屋の中に充満し始めた。
「ふふふ、よく言われます。でもやっぱりきちんとお水をあげて、長生きさせなきゃ可哀想だし。枯れさせるようなことはしてませんよ。あ、克巳さんコーヒーは、ミルクひとつにお砂糖2つでしたよね?」
――どうしてそんな、細かいことまで知り尽くしているんだ、コイツ……
「気持ち悪いですね。いろいろお調べになったようですが、そんなことまで知っているのは、正直怖いです」
「言ったでしょ? 相手を知らなきゃ戦略が立てられないって。しかもあのリコちゃんが好きになった人がどんな人か、すっごく知りたいって思ったら、止まらなくなっちゃいました」
悪びれた様子を見せずコーヒーカップを両手に持ち、俺の傍に佇みながら、じっと顔を見つめてくる。
「克巳さん遠慮しないで、座って待っていたらいいのに」
「いや、その……」
突き刺さるような視線をやり過ごすべく俯くと、手に持っていたコーヒーカップをローテーブルに置いてから、俺の背中を押して無理矢理ソファに座らされた。
「はい、どーぞ♪」
すかさず隣に座り込み、コーヒーを勧めてくる彼に、顔を引きつらせるしかない。俺の躰に寄り添うように、ピッタリとくっついてきたからなんだが――
「……戴きます」
ソファの淵ギリギリまで躰をさりげなく移動し、彼との距離を取って、ローテーブルに置かれたコーヒーを一口だけ飲んでみせた。
(む、結構苦い――)
「あ、いつもより濃く落としちゃったかも。ごめんなさい、苦いですよね?」
同じタイミングでコーヒーを口にした彼が、心底済まなそうな顔をして、カップを下げようと手を差し出す。
「いえ、おかまいなく。これくらいの濃さがあった方が、頭が冴えて話し合いが、スムーズに終わりそうですし」
そう言いながら、彼の手を制した。
あまりにも済まなそうな顔をするので、もう一口だけ飲むと、気を遣わせてすみませんと一言謝罪し、しっかりと頭を下げる。
何故だか上目遣いの探るような視線で、こっちを見ながら――
「……克巳さん、ちょっと聞いていい?」
「何ですか?」
「リコちゃんのどこを好きなのかなぁって、気になっちゃって。こればっかりはどんな手を使っても、調べることが出来ないものでしょ?」
頭の中にニッコリと微笑んだ、理子さんの姿を思い浮かべる。
「そうですね。……自分の考えをしっかり持っているところや、可愛くて優しいところです」
最後の方はワクワクした表情で訊ねてくる彼に、内心ドン引きしながら重い口を開いた。
「ああ、すっごい分かる! 昔から変わらないんだなぁ、リコちゃんって」
「小さい頃、結婚しようと約束したんですか? 理子さんはまったく、覚えていないようでしたけど」
そう言ってやると、寂しそうな笑みを口元に湛えた。
「俺ね、ずっと母親とふたり暮らしをしていたんだ。俺が小学校に上がる前に引っ越すことになって、その時リコちゃんと指切りしたんだよ。大きくなったら、有名人になって迎えに行くから結婚してねっていう約束を、しっかり交わしたんだけどな」
誓約書でも書いておけば良かったかなぁと、ちょっとだけ笑いながら、コーヒーを口にする。
彼女のことを心底好きだっていう想いが、彼に言ったセリフからひしひしと伝わってきたのだが――
「君がどんなに理子さんを想っても、俺たちは別れる気はないし、渡すつもりはない!」
小さい頃の約束を果たして、目の前に現れた彼。理子さんを想ってる自分の好きという気持ちより、彼の想いが上回っているだろう。だけどどうしても負けたくなかったから、気持ちをしっかりと込めて、強く言ったみた。そのせいか、鼓動がいつもよりドキドキする。
「でも俺はずっと理子ちゃんだけ想って、今まで頑張ってきたんだ。……って、あれ克巳さん何だか、顔が赤いけど大丈夫?」
(顔が赤い――?)
ポケットからハンカチを取り出し、額から投げれ出る汗を慌てて拭った。
変化は顔だけじゃなく、何だか躰全体まで熱くなってきているようだ。こんな急激な変化は、何かのウイルスにでも感染してしまったのだろうか? ライバルの家で、無様に倒れるワケにはいかない……
必死に平静を装っていたが、躰の奥から熱が上がってきた。そのせいで、呼吸がどんどん荒くなる。これはヤバいかも――
そんな俺を、心配そうな表情を浮かべながらじっと見つめ、目の前から消えた彼。すぐさま戻ってきて、手にしていたペットボトルを、目の前に揺らしながら掲げる。
「これ新製品で貰った水なんだけど飲みますか、克巳さん?」
「あ? ああ、済まない……」
躰の熱を何とかしたくて、ペットボトルに手を伸ばしたのに、さっと取り上げながら意味深な笑みを浮かべ、じっと見下ろしてきた。
「欲しければ、くれてやるよ?」
瞳を細めて、艶っぽく微笑みながらキャップを開けて口に含むと、俺の頬を両手で包み込み、唇を合わせてくる。拒否しようにも、躰が痺れたように動かない。それこそ、指一本も動かせない状態だ。
一瞬の出来事だったが口の中に、甘くて冷たい水が勢いよく流れ込んできた。急病のせいで、ぼんやりとしていたとはいえ、何やってるんだ!?
「……んんっ、うっ」
目を白黒しながら与えられる水を全部飲み干すと、ゆっくり唇が解放された。
「ああ、もぅ零してるね」
その言葉に口を拭おうと右手を上げた瞬間、すぐさま押さえつけられ彼の舌が、濡れた口元から顎のラインを下から上へ、ペロリと舐めとっていく。
その舌使いが妙にイヤラしい――
「ちょっ、君は一体、何をしてるんだっ!?」
同性に口移しや顔を舐めるなんて、信じられない行為だ。
「んもぅ、そんなに怒らないでよ。具合悪そうだから介抱してあげてるのにさ」
「だからって、君は――」
「君じゃなく、稜って呼んでよ。克巳さん♪」
長い黒髪をふわりと揺らして小首を傾げると、今度は俺のネクタイを、いそいそと外し始めた。
「なな、何しているんだ?」
「顔がそんだけ赤いから、躰が相当熱いんだろうなぁと思って。ささ、次は背広を脱いじゃいましょうか」
しれっとした態度で、外したネクタイを腕にかけつつ、手際よく背広もさっさと脱がし、手際よくハンガーにかける。まるで、世話焼き女房みたいだ。
さっきよりも躰が辛くて抵抗する気にもなれず、されるがままの俺。話し合いをするつもりが、彼に介抱をされる羽目になんてな……
「さっきよりも辛そうだね。大丈夫、克巳さん?」
「み、水が……、欲しい――」
取ってほしいと言う前に自分の口に水を含んで、さっきと同じように口移しで飲ませてくれる。冷たい水が喉を潤し、それがすごく気持ちよくて、つい彼の首に腕を絡めてしまった。
「ふふ、積極的だね。もっと欲しい?」
「っ、ああ……」
掠れた声で強請ると魅力的な瞳を細め、分ったと頷いてから、水の入ったペットボトルを口に含み、また口移ししたのだが――
「ふ……、んっ、ンンッ!?」
水が入ってきたのは一瞬で終わり、いきなり舌を絡め取られ、深く口づけられていく。与えられた冷たい水とは真逆の、躰がどんどん熱くなる行為に、どうにもなす術がなくて、されるがままだった。
俺を貪るように舌を吸い込んで、くちゅくちゅと音を立て、自身の舌にねっとりと絡めていく。
(このまま、感じてる場合じゃない!)
焦りながらもこの行為に逃れるべく、両腕を使って必死に躰を押しても、全然ビクともしなかった。その内やわやわと上唇を甘噛みされて、背筋にぞくぞくとしたものが走る始末。
「克巳さんってば、すごく感じやすいんだね。もうココ、かちかちになってるじゃん」
ギョッとしたのは、自分のモノが形を変えていたこともだが、いつの間にかスラックスが下着ごと下ろされていて、下半身が露となっていたなんて。
――何かおかしい。普通ならこんなことをされたら、すぐに気付くことが出来る。しかも自分より細身の彼に、易々と押さえつけられているのも変だ。
「稜、君はもしかして、何か薬を盛ったんじゃ……」
同性の稜にキスをされ、下半身がこんな状態になるのは、絶対におかしい!
「薬じゃなく、ドリンクだよ。滋養強壮的な感じの」
「だからそれが、薬だって言ってるだろう!!」
「え~、何か疲れてるっぽい顔してたから、元気になって欲しいなぁと思って、気を利かせてあげたのにぃ」
相変わらず悪びれた様子を見せず、瞳を細めて笑いながら、自由があまりきかない俺の躰の上から見下ろす視線が、何気に怖かった。
「ま、俺も疲れてたから、一緒に飲んだんだ。いい感じになってきているよ」
さらさらの長い黒髪を耳にかけて、口元に艶っぽい笑みを浮かべたと思ったら、俺の下半身に手を伸ばし、いきなり口に含みながら、片手で根元を扱いていく。
「ちょっ、まっ、なな何して、んんっ……!」
「何って介抱だよ。だってこのままじゃ辛いでしょ? 男同士だから分るんだよね」
根元を適度に扱きながら、カリ首を指先で引っ掛けるように弄りつつ舌先を使って、先端をしつこく責めてくれる。
(男同士だからって、こんなこと――)
「はっ、あぁあっ……イヤ、だっ、くぅっ!」
薬のせいか、いつもより感じている自分がいて。止めて欲しいのに、時おり腰を浮かしてしまい、どうにも出来ない状態になった。
何をやっているんだ、俺は――。理子さんを奪いに来た彼に、こんなことをされて、否応なしに感じてしまうなんて……
「スゴイね、克巳さんの。どんどん大きくなってる」
「くっ……、もうイきそ、ッ」
――こんなの、屈辱以外の何物でもない!!
俺の発した言葉を聴いて手と口が激しく上下し、どんどん追いつめられていく。
「克巳さん、もっと感じてっ。ンッ……あァ、っ、はむっ……ンンンッ」
髪を乱しながらも必死に責める彼を見ているだけで、こみ上げるものが倍増されていった。
「っ、うっ……も………ッ、イくぅ…」
その瞬間、掴んでた手に一層力がこもる。
「あぁっ!! っあ……ッッ」
「ンンンンンッ!!」
ガマン出来ず彼の口の中で、思いっきりイってしまった――
涙目になりながら俺の出したモノを、すべて飲み干したと思ったら……
「ぷはぁっ、美味しかった! ご馳走様、克巳さん♪」
肩まで伸ばした髪を耳にかけながら、小首を傾げて柔らかく微笑む姿に、一気に脱力してしまった。こっちは罪悪感とか、いろんな感情でいっぱいなのに、コイツときたら――
イった後の気だるさとか、能天気な彼の姿を見てると、何も言う気になれず、ぼんやりするしかない。
そんな俺を、怜悧な瞳をした彼に見つめられていたなんて、知る由もなかった。
彼に連れて来られたマンションは、理子さんの勤めている会社に意外と近く、歩いて十分ほどの場所にあった。
「はいはーい、ここが俺ン家です。マンションの最上階の、イイとこに住んでますって自慢したいんだけど、貧乏モデルの駆け出し芸能人なんで、三階に住んでるんだ。相田さんは遠慮しないで、エレベーターを使って。俺は健康のために階段で行くから」
言いながらエレベータの昇降ボタンを押してくれたのだが、彼に合わせて階段を使うことにした。日頃、営業で出歩いているので、三階までの階段なんて、正直余裕だ。
息を切らさず彼の後ろを無言でついて行くと、負けずキライなんだねぇと、どこか楽しそうに言いながら肩をすくめる。
「相田さんって呼ぶの何だか堅苦しいから、リコちゃんと同じく、克巳さんって呼んでもいい?」
鍵を差し込みながら窺うように訊ねられ、思わず眉根を寄せた。
初めて彼の口から自分の名前を呼ばれた瞬間、馴れ馴れしくて嫌なヤツという認識を示すべく顔色で表してみたのに、さっきから笑みを絶やさない、彼の心情が掴めずにいる。
一体、何を考えているんだろうか――
「エリートな克巳さん家と違って、狭いところだけど、どーぞ」
考えあぐねているところに話しかけられたので、恐るおそる入ってみると、自分の家の広さと違いのない、1DKの部屋だった。
「俺、エリートじゃないですし、家の広さも同じくらいですよ稜くん」
向こうが名前で呼ぶなら、こっちも呼んでやれ。
思いきって告げた言葉に、印象的な瞳を一瞬だけ見開いて、くすぐったそうに笑った顔が、さっきまで浮かべていた笑みと違うなと思った。心の底から笑ったと表現すべきなのか、それとも素直な笑みというか。
芸能界という華やかな場所で仕事をしているから、笑うなんてことは彼の中では当たり前だろうが、テレビで見ることの出来ないその笑みが、何故だか心に残ってしまったんだ。
「へえ~、同じくらいなんだ。有名銀行にお勤めだから、てっきりすごいトコに住んでいるんだと思ってた。ああ、そこのソファに座ってて下さい。今、コーヒー淹れますね」
「……おかまいなく」
彼から視線を外し、指定されたソファに座るべく躰の向きを変えた途端に、それが目に飛び込んできた。
「……お花、すごい数ですね」
部屋のあちこちに、花瓶がたくさん置かれている状態に固まってしまう。リビングにはテレビとテーブル以外ないため尚更、華やかさを与えていた。
「ああ、それね。モデル時代からのファンの子が贈ってくれたんです。CM出演のお祝いにって。これでも半分以下なんですよ、ほとんど事務所に置いてきちゃった」
圧倒的なその量と花の香りに、呆然と立ち尽くすしかない。
「俺の苗字、葩御の:葩(はな)って、花びらという意味なんですよ♪」
キッチンでコーヒーを淹れてる彼が、唐突に話し出す言葉に違和感を覚えた。
どちらかというと俺の目に映る彼の姿は、儚い花びらよりも艶やかな華だろうなと思ったから。柔らかく微笑みながら、ポーズをとっているだけで、必然的に目を奪われるような何かを放った人。
自分とは違う世界に住んでる、対極の存在――どんなに頑張っても、俺はこんな風にはなれない。
「切花ってお水をあげないと、すぐに枯れてシワシワになって、花びらが散っていくでしょ。その感じが、哀愁漂っていて好きなんですよね。俺も枯れないように、頑張らなきゃなぁって」
「何か、……変わってますね」
俺もどうかしている。この場に立ち尽くしたまま、彼とこんな風に和やかに話をしているなんて。不思議と、彼のペースに乗せられてしまうんだ。
しばらくするとコーヒーを淹れる芳醇な香りが、部屋の中に充満し始めた。
「ふふふ、よく言われます。でもやっぱりきちんとお水をあげて、長生きさせなきゃ可哀想だし。枯れさせるようなことはしてませんよ。あ、克巳さんコーヒーは、ミルクひとつにお砂糖2つでしたよね?」
――どうしてそんな、細かいことまで知り尽くしているんだ、コイツ……
「気持ち悪いですね。いろいろお調べになったようですが、そんなことまで知っているのは、正直怖いです」
「言ったでしょ? 相手を知らなきゃ戦略が立てられないって。しかもあのリコちゃんが好きになった人がどんな人か、すっごく知りたいって思ったら、止まらなくなっちゃいました」
悪びれた様子を見せずコーヒーカップを両手に持ち、俺の傍に佇みながら、じっと顔を見つめてくる。
「克巳さん遠慮しないで、座って待っていたらいいのに」
「いや、その……」
突き刺さるような視線をやり過ごすべく俯くと、手に持っていたコーヒーカップをローテーブルに置いてから、俺の背中を押して無理矢理ソファに座らされた。
「はい、どーぞ♪」
すかさず隣に座り込み、コーヒーを勧めてくる彼に、顔を引きつらせるしかない。俺の躰に寄り添うように、ピッタリとくっついてきたからなんだが――
「……戴きます」
ソファの淵ギリギリまで躰をさりげなく移動し、彼との距離を取って、ローテーブルに置かれたコーヒーを一口だけ飲んでみせた。
(む、結構苦い――)
「あ、いつもより濃く落としちゃったかも。ごめんなさい、苦いですよね?」
同じタイミングでコーヒーを口にした彼が、心底済まなそうな顔をして、カップを下げようと手を差し出す。
「いえ、おかまいなく。これくらいの濃さがあった方が、頭が冴えて話し合いが、スムーズに終わりそうですし」
そう言いながら、彼の手を制した。
あまりにも済まなそうな顔をするので、もう一口だけ飲むと、気を遣わせてすみませんと一言謝罪し、しっかりと頭を下げる。
何故だか上目遣いの探るような視線で、こっちを見ながら――
「……克巳さん、ちょっと聞いていい?」
「何ですか?」
「リコちゃんのどこを好きなのかなぁって、気になっちゃって。こればっかりはどんな手を使っても、調べることが出来ないものでしょ?」
頭の中にニッコリと微笑んだ、理子さんの姿を思い浮かべる。
「そうですね。……自分の考えをしっかり持っているところや、可愛くて優しいところです」
最後の方はワクワクした表情で訊ねてくる彼に、内心ドン引きしながら重い口を開いた。
「ああ、すっごい分かる! 昔から変わらないんだなぁ、リコちゃんって」
「小さい頃、結婚しようと約束したんですか? 理子さんはまったく、覚えていないようでしたけど」
そう言ってやると、寂しそうな笑みを口元に湛えた。
「俺ね、ずっと母親とふたり暮らしをしていたんだ。俺が小学校に上がる前に引っ越すことになって、その時リコちゃんと指切りしたんだよ。大きくなったら、有名人になって迎えに行くから結婚してねっていう約束を、しっかり交わしたんだけどな」
誓約書でも書いておけば良かったかなぁと、ちょっとだけ笑いながら、コーヒーを口にする。
彼女のことを心底好きだっていう想いが、彼に言ったセリフからひしひしと伝わってきたのだが――
「君がどんなに理子さんを想っても、俺たちは別れる気はないし、渡すつもりはない!」
小さい頃の約束を果たして、目の前に現れた彼。理子さんを想ってる自分の好きという気持ちより、彼の想いが上回っているだろう。だけどどうしても負けたくなかったから、気持ちをしっかりと込めて、強く言ったみた。そのせいか、鼓動がいつもよりドキドキする。
「でも俺はずっと理子ちゃんだけ想って、今まで頑張ってきたんだ。……って、あれ克巳さん何だか、顔が赤いけど大丈夫?」
(顔が赤い――?)
ポケットからハンカチを取り出し、額から投げれ出る汗を慌てて拭った。
変化は顔だけじゃなく、何だか躰全体まで熱くなってきているようだ。こんな急激な変化は、何かのウイルスにでも感染してしまったのだろうか? ライバルの家で、無様に倒れるワケにはいかない……
必死に平静を装っていたが、躰の奥から熱が上がってきた。そのせいで、呼吸がどんどん荒くなる。これはヤバいかも――
そんな俺を、心配そうな表情を浮かべながらじっと見つめ、目の前から消えた彼。すぐさま戻ってきて、手にしていたペットボトルを、目の前に揺らしながら掲げる。
「これ新製品で貰った水なんだけど飲みますか、克巳さん?」
「あ? ああ、済まない……」
躰の熱を何とかしたくて、ペットボトルに手を伸ばしたのに、さっと取り上げながら意味深な笑みを浮かべ、じっと見下ろしてきた。
「欲しければ、くれてやるよ?」
瞳を細めて、艶っぽく微笑みながらキャップを開けて口に含むと、俺の頬を両手で包み込み、唇を合わせてくる。拒否しようにも、躰が痺れたように動かない。それこそ、指一本も動かせない状態だ。
一瞬の出来事だったが口の中に、甘くて冷たい水が勢いよく流れ込んできた。急病のせいで、ぼんやりとしていたとはいえ、何やってるんだ!?
「……んんっ、うっ」
目を白黒しながら与えられる水を全部飲み干すと、ゆっくり唇が解放された。
「ああ、もぅ零してるね」
その言葉に口を拭おうと右手を上げた瞬間、すぐさま押さえつけられ彼の舌が、濡れた口元から顎のラインを下から上へ、ペロリと舐めとっていく。
その舌使いが妙にイヤラしい――
「ちょっ、君は一体、何をしてるんだっ!?」
同性に口移しや顔を舐めるなんて、信じられない行為だ。
「んもぅ、そんなに怒らないでよ。具合悪そうだから介抱してあげてるのにさ」
「だからって、君は――」
「君じゃなく、稜って呼んでよ。克巳さん♪」
長い黒髪をふわりと揺らして小首を傾げると、今度は俺のネクタイを、いそいそと外し始めた。
「なな、何しているんだ?」
「顔がそんだけ赤いから、躰が相当熱いんだろうなぁと思って。ささ、次は背広を脱いじゃいましょうか」
しれっとした態度で、外したネクタイを腕にかけつつ、手際よく背広もさっさと脱がし、手際よくハンガーにかける。まるで、世話焼き女房みたいだ。
さっきよりも躰が辛くて抵抗する気にもなれず、されるがままの俺。話し合いをするつもりが、彼に介抱をされる羽目になんてな……
「さっきよりも辛そうだね。大丈夫、克巳さん?」
「み、水が……、欲しい――」
取ってほしいと言う前に自分の口に水を含んで、さっきと同じように口移しで飲ませてくれる。冷たい水が喉を潤し、それがすごく気持ちよくて、つい彼の首に腕を絡めてしまった。
「ふふ、積極的だね。もっと欲しい?」
「っ、ああ……」
掠れた声で強請ると魅力的な瞳を細め、分ったと頷いてから、水の入ったペットボトルを口に含み、また口移ししたのだが――
「ふ……、んっ、ンンッ!?」
水が入ってきたのは一瞬で終わり、いきなり舌を絡め取られ、深く口づけられていく。与えられた冷たい水とは真逆の、躰がどんどん熱くなる行為に、どうにもなす術がなくて、されるがままだった。
俺を貪るように舌を吸い込んで、くちゅくちゅと音を立て、自身の舌にねっとりと絡めていく。
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相変わらず悪びれた様子を見せず、瞳を細めて笑いながら、自由があまりきかない俺の躰の上から見下ろす視線が、何気に怖かった。
「ま、俺も疲れてたから、一緒に飲んだんだ。いい感じになってきているよ」
さらさらの長い黒髪を耳にかけて、口元に艶っぽい笑みを浮かべたと思ったら、俺の下半身に手を伸ばし、いきなり口に含みながら、片手で根元を扱いていく。
「ちょっ、まっ、なな何して、んんっ……!」
「何って介抱だよ。だってこのままじゃ辛いでしょ? 男同士だから分るんだよね」
根元を適度に扱きながら、カリ首を指先で引っ掛けるように弄りつつ舌先を使って、先端をしつこく責めてくれる。
(男同士だからって、こんなこと――)
「はっ、あぁあっ……イヤ、だっ、くぅっ!」
薬のせいか、いつもより感じている自分がいて。止めて欲しいのに、時おり腰を浮かしてしまい、どうにも出来ない状態になった。
何をやっているんだ、俺は――。理子さんを奪いに来た彼に、こんなことをされて、否応なしに感じてしまうなんて……
「スゴイね、克巳さんの。どんどん大きくなってる」
「くっ……、もうイきそ、ッ」
――こんなの、屈辱以外の何物でもない!!
俺の発した言葉を聴いて手と口が激しく上下し、どんどん追いつめられていく。
「克巳さん、もっと感じてっ。ンッ……あァ、っ、はむっ……ンンンッ」
髪を乱しながらも必死に責める彼を見ているだけで、こみ上げるものが倍増されていった。
「っ、うっ……も………ッ、イくぅ…」
その瞬間、掴んでた手に一層力がこもる。
「あぁっ!! っあ……ッッ」
「ンンンンンッ!!」
ガマン出来ず彼の口の中で、思いっきりイってしまった――
涙目になりながら俺の出したモノを、すべて飲み干したと思ったら……
「ぷはぁっ、美味しかった! ご馳走様、克巳さん♪」
肩まで伸ばした髪を耳にかけながら、小首を傾げて柔らかく微笑む姿に、一気に脱力してしまった。こっちは罪悪感とか、いろんな感情でいっぱいなのに、コイツときたら――
イった後の気だるさとか、能天気な彼の姿を見てると、何も言う気になれず、ぼんやりするしかない。
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はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
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