BL小説短編集

相沢蒼依

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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

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「石崎さんの好きなところ。ううん、そのぉ……」

 両目をつぶり、頭をフル回転させながら、石崎さんの好きなところを必死になって思い出す。

「聖哉、名字に戻ってるぞ」

「えっ? あ、ごめんなさい。考え込んでいたら、もとに戻っちゃいました」

「そうやって、素直に謝るところも好きだ」

「ぶっ!!」

 さっきから直球を投げられ続ける、僕の気持ちを考えてほしい。恥ずかしくて、どうにかなってしまいそう。

「もうやめてください。ますます言いにくくなっちゃう」

「照れてる顔も結構かわいい」

「智之さんっ!」

 やめてと言う前に、床に押し倒される躰。僕が頭を打たないように、さりげなく後頭部を片手で守ってくれる優しさに、キュンとしてしまう。

「モノ欲しげに見つめるそのまなざしも、全部俺だけに注いでくれ」

「それは――」

 その想いは、僕だって同じだった。仕事中の石崎さんは、本当に格好いいと思う。

 まっ白のYシャツに黒色のベストをビシッと着こなし、背筋を伸ばしながらシェイカーをリズミカルに振って、笑顔で応対している姿に、見惚れる女性客がいるのも知ってる。

 石崎さんを意識しはじめてからというもの、そういう女性客を見るたびに、胸の奥がチリチリ痛んだ。

「聖哉、どうした?」

 キスしようと近づけていた顔をとめて、一旦遠のかせる。僕の微妙な表情に違和感を覚えたらしい。

(ちょっとしたことで、こうして気にかけてくれることも、すごく嬉しい)

「なんか奇跡みたいだと思って。僕のピアノが叔父さんに認められたのも、こうして智之さんに好きになってもらったことも」

「奇跡なんかじゃない、現実だ。聖哉のこの指で奏でたピアノの音が、俺を惹き寄せた。おまえに実力がなければ、あのとき俺は通り過ぎていた。間違いなくな」

 僕の利き手を握りしめ、人差し指の爪先にキスを落とす。そして僕の手を愛おしげに見つめてくれる彼の視線に、躰が自動的に熱くなった。

「嬉しい……。叔父さんにピアノを褒められたよりも、智之さんにそう言われたことのほうが、すっごく嬉しくて堪らない」

「聖哉?」

「諦めずに、ピアノを弾き続けてよかった。こうして好きになれる人に出逢えるなんて、本当に信じられない」

「俺は聖哉の弾くピアノが大好きだ」

 コンテストを受けても、審査員にため息をつかせるだけだった僕のピアノ。それを石崎さんは、大好きだと言ってくれるだけでしあわせだ。

「僕は智之さんが作ってくれる、ノンアルのカクテルが大好きです」

「俺のことは?」

 くすくす笑いながら訊ねられたら、どんな顔していいのかわからない。

「もちろん好きですよ」

「俺は愛してる。聖哉のことを心から愛してる」

 僕も同じように愛してると言いたかったのに、石崎さんは強く唇を押しつけて、それを言えなくした。それでもその想いを伝えるように、舌を絡ませつつ、両腕でぎゅっと大きな躰を抱きしめた。

 互いの想いがはじめて伝わったこの夜、僕らは空が明けるまで、遠慮せずに貪りあったのだった。
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