324 / 329
シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤
31
しおりを挟む
「こんばんは。来ちゃいました……」
聖哉はどこか恥ずかしそうに躰を小さくしながら、俺の顔を一瞬だけ見、首を深くもたげてピアノのあるところに向かう。
(午後からコンテストの練習をしたっていうのに、義務でここに来たんじゃないだろうな?)
そのことが気になったので、カウンターから出て聖哉の傍に駆け寄った。
「聖哉、無理してここに来たんじゃないだろうな? 練習で疲れていないのか?」
矢継ぎ早に質問した俺に、聖哉は無言で首を横に振った。
「マスターってば、本当に過保護なんだから。とっととあっちに行って」
すかさず絵里さんが間に割って入り、俺の背中をカウンターに向けて押し出した。
「聖哉くん、来てくれて嬉しい。いつものピアノの音がないと、お店に味気がなかったんだよね」
「そうですか、来てよかった……」
「ねぇリクエストしてもいい?」
絵里さんに押し出された俺は、ふたりの会話に入ることができず、指をくわえてカウンターから眺めるしかなかった。
絵里さんにリクエストされた曲を弾きながら、カウンターにいる石崎さんをチラッと見る。
白いシャツの上に黒いベストを着こなし、背筋を伸ばしてリズミカルにシェイカーを振る姿が格好よくて、素直にいいなと思えた。
『聖哉の大事なところを激しくシェイクして、ミルクを出してもいいんだけどさ』
不意に今朝のやり取りが頭の中に流れたせいで、左手に力が入ってしまい、大事なところでとちりそうになった。
(――ダメダメ、リクエストされた曲に集中しなきゃ!)
小さく頭を振って、黒と白の鍵盤に視線を縫いつける。昼間したコンテストの練習で集中力を使ったせいで、気を抜くと雑念が頭の中を支配しそうになった。
「僕はいつもどおりに、ピアノを弾いていただけだったのに――」
卑猥なことを頭から追い出すべく、コンテストの練習中に言われたことを思い出してみる。コンテストの練習を見てくれるのは父の弟で、僕にとっては叔父さんにあたる。
ちなみに、父方の家系はそろってピアニストをしていた。僕以外の親戚はみんなコンテストで入賞したり、プロとして華やかに活躍している人が多かった。
平凡な僕はどんなに頑張っても、彼らのようにはなれないだろう。だって才能がないのだから――。
それでもダメもとで毎回コンクールに出場している根性は、誰にも負けないつもりだった。
そんな負けず嫌いを発揮しながら、コンクールの課題曲を叔父さんの家で弾いていたら、途中でとめられてしまった。
「聖哉、おまえこれまでいったい、どんな練習をしてきたんだ?」
「……いつもの変わりませんけど」
唐突なダメ出しに、気落ちしながら率直に答えた。
「なんか夜にバーで、ピアノを弾いてるとか言ってたよな。なんの曲を弾いてる?」
「お店の雰囲気に合わせているので、ジャズクラシックが多いです」
僕と端的なやり取りをしたおじさんは、難しい表情で頭を抱えた。
聖哉はどこか恥ずかしそうに躰を小さくしながら、俺の顔を一瞬だけ見、首を深くもたげてピアノのあるところに向かう。
(午後からコンテストの練習をしたっていうのに、義務でここに来たんじゃないだろうな?)
そのことが気になったので、カウンターから出て聖哉の傍に駆け寄った。
「聖哉、無理してここに来たんじゃないだろうな? 練習で疲れていないのか?」
矢継ぎ早に質問した俺に、聖哉は無言で首を横に振った。
「マスターってば、本当に過保護なんだから。とっととあっちに行って」
すかさず絵里さんが間に割って入り、俺の背中をカウンターに向けて押し出した。
「聖哉くん、来てくれて嬉しい。いつものピアノの音がないと、お店に味気がなかったんだよね」
「そうですか、来てよかった……」
「ねぇリクエストしてもいい?」
絵里さんに押し出された俺は、ふたりの会話に入ることができず、指をくわえてカウンターから眺めるしかなかった。
絵里さんにリクエストされた曲を弾きながら、カウンターにいる石崎さんをチラッと見る。
白いシャツの上に黒いベストを着こなし、背筋を伸ばしてリズミカルにシェイカーを振る姿が格好よくて、素直にいいなと思えた。
『聖哉の大事なところを激しくシェイクして、ミルクを出してもいいんだけどさ』
不意に今朝のやり取りが頭の中に流れたせいで、左手に力が入ってしまい、大事なところでとちりそうになった。
(――ダメダメ、リクエストされた曲に集中しなきゃ!)
小さく頭を振って、黒と白の鍵盤に視線を縫いつける。昼間したコンテストの練習で集中力を使ったせいで、気を抜くと雑念が頭の中を支配しそうになった。
「僕はいつもどおりに、ピアノを弾いていただけだったのに――」
卑猥なことを頭から追い出すべく、コンテストの練習中に言われたことを思い出してみる。コンテストの練習を見てくれるのは父の弟で、僕にとっては叔父さんにあたる。
ちなみに、父方の家系はそろってピアニストをしていた。僕以外の親戚はみんなコンテストで入賞したり、プロとして華やかに活躍している人が多かった。
平凡な僕はどんなに頑張っても、彼らのようにはなれないだろう。だって才能がないのだから――。
それでもダメもとで毎回コンクールに出場している根性は、誰にも負けないつもりだった。
そんな負けず嫌いを発揮しながら、コンクールの課題曲を叔父さんの家で弾いていたら、途中でとめられてしまった。
「聖哉、おまえこれまでいったい、どんな練習をしてきたんだ?」
「……いつもの変わりませんけど」
唐突なダメ出しに、気落ちしながら率直に答えた。
「なんか夜にバーで、ピアノを弾いてるとか言ってたよな。なんの曲を弾いてる?」
「お店の雰囲気に合わせているので、ジャズクラシックが多いです」
僕と端的なやり取りをしたおじさんは、難しい表情で頭を抱えた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる