BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
318 / 329
シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

25

しおりを挟む
***

 昨日と同じように閉店作業をし、聖哉を先に店の外で待たせてから、ふたたび中に戻った。

(やれやれ、スマホを置き忘れてしまった。普段そんなドジしないのに、疲れがたまってるのか?)

「聖哉待たせたな、今すぐ鍵を締めるから」

「……石崎さん、今夜はウチに寄ってください」

 ガチャンと鍵をしっかりとかけた瞬間に告げられた爆弾発言に、そのまま固まってしまった。

「せ、聖哉、今なんて?」

 驚きまくりの俺に聖哉は真剣な顔で抱きつき、耳元でコソッと告げる。

「彼女、少し離れたところから、僕らを見てます」

「マジかよ!?」

 なるべく声を抑えて返事をした。彼女が帰って閉店するまでに、二時間は経過している。それまでどこかで時間を潰し、ずっと待っていたというのか。

「彼女に、石崎さんの自宅を知られたくないでしょう?」

「確かにそうだが、そうなると聖哉の自宅がバレるじゃないか」

 俺と仲良くしていた客に、平気で危害を加える女である。もしかしたら聖哉になにかされる恐れがあると考え、心配しながら口にしたのに。

「僕のところはセキュリティがしっかりしたところなので、多分大丈夫です。石崎さんのところは?」

「そんな立派なマンションに住んでない」

「決まりですね、行きますよ!」

 掴んだままの俺の腕を引っ張り、自分の自宅に向けて力強く歩く聖哉。

 現状について俺としては困惑しているのに、その裏でもうひとりの自分が、聖哉の家に行ける嬉しさで小躍りしていた。そんな複雑なふたつの心境を抱えたまま、俺は聖哉のあとをついて行くしかなかったのである。



 目の前にそびえ立つ、高級そうなマンション。キョドる俺の腕を聖哉は放さずに、セキュリティを解除して中に入った。

「随分と豪勢な生活してるんだな」

 サオリさんからの追跡から無事に逃れたことに、安堵のため息を吐いた。

「実は両親が結婚当初に、住んでいたところなんです。僕が生まれて手狭になったからと、別なところに移り住んだんですが、もしものときのために、ここを売らないで残していたのを使ってるだけなんですよ」

 端的なやり取りをしてる間に、エレベーターホールに到着。

「このマンション、そんなに築年数が経ってるように見えないのが、本当にすごい……」

 マンションの隅々まで、メンテが行き届いているおかげだろう。乗り込んだエレベーターも振動なく軽快に動き、あっという間に聖哉の住む階に到着した。

「石崎さん、どうぞ。ピアノ以外なにもないところですが」

 そう言って自宅の鍵を開けた聖哉が、俺を中へと促した。

「お邪魔します……」

 呑気に足を踏み入れた瞬間、唐突に電気がつけられて、リビングのど真ん中に置かれた真っ白いグランドピアノが、俺の目に飛び込んできた。

「すげぇ……、なんとも言えない圧迫感」

 学校などで見慣れてるハズなのに、聖哉の自宅にあるグランドピアノは抜けるような色の白さのせいか、妙な迫力があった。きっとピアノの音色も、店に置いてある安物のピアノとは違うだろう。

「僕ひとりなので、ここにピアノがあっても、全然問題ないんですよ」

「確かに。でも客が来たときは驚かれるだろ」

「そのときは、こっちの部屋でもてなします。あたたかいお茶でも飲みますか?」

 リビングに面している左側にある扉を開けて、電気をつけたあとに、どうぞと促されたのだが。

「もう帰る。サオリさんだって俺がここのマンションに入った時点で、心が折れただろうし」

「だったら、徹底的に折りましょう。泊まってください」

「ぶっ!」

 サラッとすごいことを言った聖哉は、くるりと踵を返し、反対側にある扉に行ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...